第17話 二人の因縁(王都防衛戦その4)
王都東にできたクレーターにて、ユーシアの前に四天王のシャルルが正座していた。
彼は必死で訴える。
「まだ――まだダメなんです! まだエメルディアを裏切れない! ボクの目標が叶っていないから!」
ユーシアが訝しげに目を細める。
「目標……? それほどまでにエメルディアを大切に思っておるのか?」
「ち、違う! ボクが大切にしたいのはこの世で、ただ一人、アンナだけだ!」
ユーシアに抱えられたアンナが、悲しげな声で言う。
「シャルル、どうして魔王姫軍に、いるのですか……どうか、戦うのはやめてください」
「君がそれを言うのかい? 見ればわかるだろう? 金髪に碧眼。均整の取れた体。君にふさわしい男になるためだよ! もうすぐなんだ、あと一つなんだ!」
シャルルは必死に訴えた。
アンナはますます悲しげに顔を歪める。
「そんな、そんなことで……あなたはとても優しい子でしたのに……」
「アンナは何もわかっちゃいない! ボクの気持ちも、周りの目も! 優しくて強いだけじゃ、美しい君とは釣り合わなかったんだ! 君にまで迷惑が掛かる――だからボクは孤児院を出て、体を変える方法を探したんだよ……っ!」
ユーシアはアンナを抱きつつ、じっと様子をうかがっていた。
――我輩の目的はただ一つ。
こやつからエメルディアの居場所を聞き出すことだ。
どうやらこのシャルルと言う男は、外見にコンプレックスがあったようだな。
理想的な人間の姿になっているが、その実、ほぼすべて人形。
エメルディアに協力することで美しい人形のパーツを手に入れているようだ。
ならば魔王姫城の場所は確実に知っている。
そして孤児院、優しい子という言葉から、アンナに育てられた子供の一人のようだ。
年齢はさほど離れていないようだが、それが恋心に火をつけたのだろう。
……アンナと交換に聞き出してみるか?
うまくいきそうにないな。我輩を勇者と勘違いしている女だ。例えシャルルが知り合いでも、悪に走った彼の元へは行かないだろう。
もどかしい。
もっと自由に動ける配下がいれば、幾らでも策の立てようがあるというのに。
というか、元は人間なのに四天王の地位まで登りつめたのか? 納得がいかん。
ユーシアが考え込んでいると、ドラゴンのリスティアがのん気な声で尋ねた。
「何か話が込み入ってるようですけど~、二人はどういう知り合いなんですか?」
――お。直球で尋ねおったな。やるではないか、リスティアよ。
アンナがぽつぽつと喋った。
「シャルルは、わたしが孤児院を開いた最初の子供でした。なにかと気遣ってくれる、とてもいい子でした……でも、ある日、事件が起きて……わたしがもっと目を配っていればあんなことには……」
シャルルは静かに首を振った。金髪がさらさらと流れる。
「しかたないさ。忌み子だったんだから。いじめられるのも当然だったよ。――でも今は違う! 誰にも文句を言われない、美しい体を手に入れたんだ!」
「でももう、大丈夫です! ユーシアさまが、争いのない孤児院にしてくださいました! 本当に、わたしの願いを叶えてくれたお方なんですっ! ――だから、帰りましょう孤児院へ!」
「それはできない! 迎えに行くのはボクのほうなんだ! あと一つで完成するんだ、だから!」
シャルルは眼帯を押さえて叫んだ。
ユーシアが首を傾げる。
「忌み子とはなんだ?」
アンナが悲しい声で言う。
「生まれ持った魔力が強すぎる子供のことですわ……心は同じ人間。優しい子供でしたのに……」
「ほう。なるほどな。ただの人間が四天王とは不思議だったが、イレギュラーだったのか――ふむ。方向性は気に入らんが、努力したことは認めよう。だがしかし! 決定的な間違いを犯しておるぞ、シャルルよ!」
「な、なにぃ!」
「その姿になるまでに、どれだけの犠牲を積み上げてきた? 今のお前は汚らしい死体の寄せ集めと変わらん! そんなお前をアンナが受け入れると思っておったのかっ!」
「う……っ! そ、それは……体がまともになれば、きっとアンナだって……」
シャルルはアンナを見たが、彼女は悲しげな顔で首を振った。
「人々を苦しめるシャルルは、好きではありませんわ……だからもうやめてください」
「そんな……」
シャルルはがっくりと肩を落とし正座の姿勢で手を突いた。
「ふははっ! なぜ貴様が間違えたか教えてやろう! 美しくなるのは思い人を振り向かせる手段であって、目的ではない! 手段が目的になった時点で、貴様は道を踏み外したのだ!」
「じゃあボクは、どうしたらよかったと言うんですか……」
「そんなものは知らん! 自分の答えは自分で見つけるしかないのだからな! ――ただ一つ、お前に名誉挽回のチャンスをやろう」
「え? なんです?」
「我輩にエメルディアの居場所を教えるのだ。さすれば我輩が行って瞬殺し、お前は魔王姫軍から世界を守った男になる! ――それだけではないぞ、最後の目をお前にやろう。それぐらいならガラス球に魔力を注げば我輩でも作れるからな」
しかし思ったよりも反応が悪かった。
シャルルは首を傾げる。
「え? 目? なんの話で?」
「何がって、貴様が欲しがっている最後のパーツは眼帯に隠している目ではないのか?」
シャルルは淡々と答えた。
「いや、違いますよ。これ、ただのファッションなんで」
「なんだと――ッ! 紛らわしすぎるわ、貴様!! ……では何が欲しいというのだ!」
「そ、それは……」
シャルルは目をそらしてしまう。
「アンナなら知っておるのではないか?」
「いえ、その……」
アンナもわざとらしく俯いてしまった。
たぶん、夕方か夜にも更新します。