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第15話 四天王シャルル!(王都防衛戦その2)

本日更新二回目。

 平原の中に立つ王都は魔王姫軍に四方から襲われていた。

 王国軍は街壁の上から石を落とし、弓を射掛け、人形の群れへ反撃する。

 しかし倒しても倒しても波のように人形を打ち寄せる。


 しかも人形たちだって弓を射掛けてくる。

 壁上にずらっと並べた盾に身を隠しつつ、攻撃しなければならなかった。


 別の壁上では兵士が叫ぶ。

「はしごをかけられた! 火矢持ち、こっちにきてくれ! 攻め込まれるぞ!」

 鏃の燃える弓矢を持った兵士が駆けつける。火矢を放って人形ごとはしごを燃やす。


 しかし次々と新しいはしごが掛けられた。

 兵士は弓を射掛けながらも、絶望した声を振り絞る。

「ああ、防ぎきれないっ。誰か、誰か……」


       ◇  ◇  ◇


 一方ユーシアは本陣のある東方師団に背後から突っ込んだ。

 気付かれはしたものの迎撃体制はまったく整わず、完全な奇襲となっていた。


 ガシャンッ、ガシャシャシャンッ!


 命令待ちで棒立ちになっている人形の群に突進した。

 勢いの乗るリスティアの体当たりに、人形の破片が舞い散った。


「ふははははっ! これこそ速度と守備力を生かした、最高の戦い方だ! わかったか、リスティアよ!」


「始祖さまもこうして戦っていたのですねっ! ――あたし、もっと頑張るっ!」

 リスティアは大地を掴むように蹴って、突進力を増した。



 ユーシアはリスティアの背で黒い光をまとった右手を振るっていた。

 ガシャンっ、ガシャンッ!

 進行方向左右の人形を、次々と破壊していく。


 身動きの取れない人形をあっという間に数百体倒した。

「――ふふん。やはり待機命令を受けている間は反撃してこない! ただの枯れ木と変わらん。これが人形の弱点の一つ!」

「ああ、そうかぁ! 命令がないときは反撃があるけど、今は『命令中』ですもんね! そのことに気付くなんてさすがです!」



 慌てた小隊長たちが、戦いの命令をようやく出した。

 人形は素早く槍や剣で攻撃してくるが、リスティアの速度にはついていけない。


 ユーシアに当たっても軽々と跳ね返される。

「ふはは、どうした人形ども! 我輩にはそんな攻撃、痛くも痒くもないわ!」



 一方、左手に抱かれたアンナは目を丸くして叫んでいた。

「ひゃああああっ! 怖い、怖いです、ユーシアさまぁ!」


 これが初陣なのだから当然なのだが、ユーシアは高らかに笑う。

「ふははははっ! そうだろう、我輩は怖いだろう! これこそ魔王の恐るべき力! 大軍でもかなわぬ恐ろしさなのだ!」


 そうじゃありません、と言いたそうなアンナだったが、悲鳴を上げるばかりで言い返せなかった。


 リスティアはユーシアを乗せて、一直線に部隊中央のやぐらへと向かった。



 やぐらの上では魔王姫軍司令官にして四天王の一人であるシャルルが、手すりを掴んで目を見張っていた。

「な、なんですかあれは! エメルディアさまから授かった人形兵が次々とやられていく……っ! なにをしているのです! 前に出て進路を妨害しなさい、突進を止めるのです!」



 命令は飛んで、人形兵がさらに群がり出す。

 ――が。

 あまりの強さに生身の魔物や人間たちがひるみ始めた。


「な、なんだよ、あれ!」「反則だろ!?」「あんな奴が王国にいたのか!?」「つ、強すぎる!」



 ユーシアに恐れをなして臆病者から一人二人と離脱し始めた。

 やぐらの上からシャルルが叫ぶ。

「何をしているのです! 逃げてはいけません! 戦いなさい、お前たち!」


 しかし、小隊長以上の魔物たちは次々と戦場から離れていく。

 人形だけが愚直に命令を聞いて、ユーシアへと群がり続ける。

 そして残骸へと変わっていった。



 ――と。

 鎖鎌を持つ人形が飛び出してくる。他の人形と違い、体格が大きく、表情もあった。

「お前強いな! エメルディアさまから特別に作られたワシの無双鎌を受けてみよ――!」

 鎖鎌をぶんぶん振り回す。


 しかしユーシアは鎌男を無視してニヤリと笑う。

「――頃合いだな」

 アンナをしっかりと抱きしめる。

「ひゃうっ! な、なにを……?」



 右手を前に伸ばすと、不敵な笑みを浮かべたまま、パチンと指を鳴らした。

「極大――暗黒闇星波ダークグラビトン!」


 グシャァァァッ!


 ユーシアを中心に巨大なクレーターが生まれた。

 取り囲んでいた数万の人形兵は一瞬にしてこなごなになった。

 生身の魔物たちは逃げ出していたため、人形だけを倒したのだった。


「なん、だと――ぐえ」

 鎌男も一緒に潰れた。

 やぐらも潰れた。

 


 もうもうと煙が立ち込める。

 風が吹いて、視界が開けた。


 平原にできた半球状のクレーターには動くものはなかった。


 中心にいるユーシアが鼻で笑う。

「ふんっ。どれだけ人形を並べようと、我輩には勝てん!」


「これが魔王たるユーシアさまの本気なんですね、さすがですっ!」

「すごいですわ、ユーシアさま! これこそが勇者さま!」

 リスティアとアンナが歓声を上げた。



 ――と。

 男の声が聞こえた。

「よくも……よくもボクの人形たちを倒してくれたね!」

 煙が晴れていき、貴族のような格好をした男が現れる。眼帯をした左目を手で隠している。


 ユーシアが右眉だけ上げた。

「ほう……我輩の魔法に耐えたのか? ――いや、発動の瞬間、上に逃げただけか」


「いったいお前は何者ですか!」

「我輩を相手にしながら敬意の欠片もない。貴様のほうから名乗らんか!」



 男は金髪をかき上げると、慇懃なお辞儀をした。

「これは失礼。ボクは魔王姫軍四天王の一人にして、王国殲滅部隊総司令官、シャルル・ド・パサージュ。以後お見知りおきを」


「えっ! シャルル!?」

 アンナの驚きの声に、シャルルも目を開いた。

「あ、アンナ! どうして――っ!? き、貴様! アンナを離せ、離さないか!」



 ユーシアはシャルルとアンナを交互に見比べた。

 訝しげに目を細めて考える。

 ――この二人、知り合いか? ……ふむ。ならばこの状況、使える!


 ふいに悪い笑みを浮かべると、アンナを後ろから抱きしめて細い首に手を掛けた。

「くくくっ。シャルルとやら、動くとこの女の命はないと思え!」



「くっ! なんて卑怯な!」

「えええええ!」

 シャルルは悔しげに顔を歪め、アンナは悲鳴を上げた。


「まったく躊躇せず人質にするなんて! さすがユーシアさま、これでこそ本当の魔王さまですっ!」

 リスティアだけが、とても嬉しそうに黒い尻尾を振っていた。


       ◇  ◇  ◇


 一方その頃。

 王都の南に陣取る南方師団にて。

 女神のように美しいエルフの姫騎士シルウェスは、突然の地響きに目を見張った。

「なんだ、この揺れは!」

 燃えるような赤髪を乱して叫んだ。


 シルウェスの元へ、東側にいた小隊長が走りこんでくる。

「申し上げます、シルウェス師団長! 総司令官を含む東方師団が壊滅しました!」

「なんだと!! 上空から見た報告を飛行部隊から――って、本部が潰れたら連絡が取れんではないかっ!」


 横に控えていたエルフが言う。体の半分が人形と化していた。

「師団長サマ、ワタクシガ人形ヲ500連レテ様子見テキマス」

「いや、それはだめだ。戦力の逐次投入はいたずらに数的不利を作り出し、各個撃破される危険が高まる。残りの人形兵1万を率いて私が見てこよう。お前たちは攻城戦を続けるのだ」

「承知シマシタ」


 シルウェスは胸騒ぎを覚えながら、東の地に出現したクレーターに兵を率いて向かった。

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