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第14話 突撃魔王さま!(王都防衛戦その1)

 朝日の昇る春の平原。

 朝露に濡れた草が緑に輝き、青々とした水をたたえた大河が光に満ちる。


 王都は絶望的なまでに、周囲を魔王姫軍の人形に囲まれている。砂糖にたかる蟻のように。

 ドォォォ……ン、ゴォォォ……ンと腹に響く戦いの音が大気を震わせていた。


       ◇  ◇  ◇


 王都は重苦しい空気の中、兵士が走り回っていた。

「西方からの飛行部隊を止めきれない! 宮廷魔術師隊か、城の石弓を回してくれ!」「北方からの獣人混成部隊の攻めが激しい、増援を!」


 王都を囲む高い街壁の上では、兵士と志願兵が壁に取り付く人形に向かって石を落とし、弓を射掛けていた。

「くそ、当たれ!」「倒しても倒しても攻めてくるっ!」「どれだけいやがるんだ、5万? 10万?」「誰でもいい、助けてくれ!」



 城門では破城用の丸太を抱えた人形たちが門を突いている。

 そのたびに、ドゴォォン、と大きな音が響いた。


 兵士たちは城門上から油を撒いて火矢を撃つ。

 人形や丸太に火が付くけれど、奴らは燃えながら攻撃を続けた。

 また、丸太が燃え尽きても、すぐ後ろには新しい丸太部隊が控えている。


 志願兵の青年は、ひしゃくで油を撒きながら涙声で憤る。

「あれ全部燃やせるだけの油ねぇよぉ……っ」

「諦めるな! 頑張れ!」

 髭面の兵士長が威勢良く励ました。しかしその顔は苦しいほどに悲壮だった。



 西方では、空から飛来する鳥の人形に苦戦していた。

 魔法を飛ばし、弓を撃つが、半分も当たらない。

 そもそも攻撃の届かない上空から、急降下して毒の入った壷や岩を落としていく。

 中にはアンデッドなどの不死モンスターが詰まった壷を街へ落とす鳥もいる。

 

「よく狙え! 無駄撃ちするな! 引き付けてから撃つんだ!」

 指示を飛ばす魔術師風の隊長の下へ、一人の兵士が駆け寄る。

「隊長! 城門から火の得意な魔術師を派遣してくれとの要請が!」 

「こっちは特に人手が足りてないんだ! 耐えてくれっ! ……すまん!」

 隊長は悔しげに歯軋りをし、また杖を振るって魔法を飛ばした。疲れからか額に汗が浮かんでいた。


 壊れるまで動き続ける人形の波が、王国側の軍需物資を削っていく。

 かといって補給はない。援軍もない。

 人々は絶望の中で戦い続けていた。



 王都の真ん中にある高い尖塔を持つ城。

 二階にある謁見の間の玉座にはアルバルクス王国の国王セーラム7世がいた。

 白髪に白い髭を蓄えた老人だが、疲れ切ったように座っている。

 傍にはローブを着て水晶玉を持つ魔術師がいた。杖にすがらなくては歩けないほどのよぼよぼの老人。


 戦いの音は四方から響いてくる。

 大きな音がするたびに、セーラムの髭が震えた。

「攻撃が激しいのう……。モンターニュよ、今どうなっておる?」


 モンターニュは震える手に持つ水晶玉を覗き込む。

「王都はもう、うごめく闇に何重にも囲まれておるのじゃ。ネズミ一匹逃げられまいて」

「持ちこたえられるか?」


「無理じゃ……耐えてもどうなる、セーラムよ。援軍の来ない戦いなど、袋小路に迷い込んだも同然――なっ! なんだこの強大で禍々しい闇はっ! 東からどんどん迫ってきおる……!」

「ど、どうしたというのだ、モンターニュ!?」

「新手の魔王姫軍か!? いや、魔王姫なのか? も、もうおしまいじゃぁぁぁ!」

 モンターニュは泡を吹いて倒れてしまった。


       ◇  ◇  ◇


 ユーシアたちは王都を望む丘の上にいた。

 腕組みをして立つユーシアの足元には、少女姿のリスティアがうつぶせに寝転がって戦いを見ていた。ブラウスとスカートが風に揺れる。

「うわぁ……戦い始まっちゃってますね~。でも、間に合えてよかったですっ」


「一日で着いたな。リスティアが頑張ったおかげだ。それでこそ我輩の部下、黒の筆頭!」

「えへへ、ありがとうございますっ。荷台を引かなくていいから速度出ちゃいましたっ」

 黒髪を揺らしてはにかむリスティア。



 ユーシアは険しい顔をして戦況を眺める。

「なかなかの数だな……ふむ。10万はいるか。人形10人に一人、小隊長がつくのか。中隊長、大隊長に生身の魔物がいるな……人形もいるが」


 アンナが風になびく金髪を手で押さえて言う。

「どうされますか?」

「司令官はどこだ……飛行部隊が主体の西方師団ではないな。――となると、東側の部隊か」



 敵を見ていたリスティアが腕立てのように上体を起こして顔を上げる。強調された胸の谷間がブラウスの襟元から白くのぞいた。

「どうして南や北ではないのです?」


「東にいれば、北と南に展開する師団にも目が届くだろう。西は川越えをする飛行部隊がメインだからな」


 ユーシアの目は東方部隊の中央を捕えていた。

 後方よりにやぐらが建っている。



「さすがです、ユーシアさまっ。では東の部隊に魔王さまが乗りこむのですねっ。――ここが特等席ですっ」

 リスティアは細い足をお尻につくぐらい、ぱたぱたさせた。


「何を言っておる。一緒に行くのだ」

「ふぇえええ!」


「リスティアの守備力ならどんな剣も弾くわ! 我輩が剣、貴様が盾と足! ……あのやぐらが怪しいな」

「あそこまで行くのですね……ごくりっ」

 緊張したのか、華奢な体を震わせた。



 ユーシアがアンナの腰を抱き寄せると、リスティアに言った。

「その通りだ! 一気に突撃するぞ! 怯えることなど何もない! お前ならできるできるやれるやれる! 気持ちで負けるんじゃない! さあ、我輩の部下筆頭リスティアよ、ドラゴンになれ!」


「わっかりましたぁ~! りゅうにもどりゅう~! それっ!」

 煙に包まれるとともに黒い竜の姿になる。


 アンナが心配そうに言う。

「どのような作戦で……まさか、このまま大軍に突撃を?」


「そのまさかだ! 魔王姫軍でもまさか単騎駆けで戦いを挑んでくるとは考えまい! 相手の意表を突き、敵将を討ち取る! これこそ我輩の常道! だからこその黒の筆頭は漆黒古竜なのだ!」



 リスティアが大きな目をきらきらさせてうなずく。

「わたし、頑張っちゃいますっ!」


 ユーシアはマントを広げてアンナを片手で包み込むように抱く。

 それからリスティアの背に乗る。

「ひゃ、ひゃあ! ――やはりわたしも連れて行かれるのですね……ううっ」

「わっはっはっ! いつも側で地獄を見せてやると言ったではないか! ――では、ゆくがよい! ――アンナはしっかり掴まっておるのだ。ふははっ」



 リスティアが地を蹴って駆けだした。

 ぐんぐん速度を上げて丘を駆け降りる。

 後ろに土煙を巻き上げて、一直線に王都東に展開する本陣へ向かっていく。


 気づいた東方師団に動揺が走る。


「な、なんか来た!」「敵か?」「味方か?」



 ユーシアはリスティアの背で足を踏みしめ、胸を反らして高笑う。

「遠からん者は音に聞け! 近からん者は身をもって死ね! 我輩こそが真の魔王! 魔王ユーシアさまだ! ふははっ!」


 マントにくるまれたアンナが悲鳴をあげる。

「ゆ、ユーシアさま、叫んだら奇襲にはっ!」


「大きい部隊ほど、急には動けないものだ! 体制を整えられる前につっこめばよい! それに、人形軍には致命的な欠陥がある――いけ! リスティアよ!」

「はーい!」


 リスティアはさらに速度を上げて魔王姫軍東方部隊に突進した。

短いので今日中にもう1話更新します。

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