第12話 村人断罪・後編!
第11話を修正したら、文字が倍以上に増えたので前編と後編に分割しました。
ユーシア様らしい活躍ぶりになったかと思います。
明るい春の空の下。
大きな村の大通りにユーシアとアンナがいた。
すぐ傍の広場にはドラゴンのリスティアがいる。彼女はユーシアの活躍に尻尾をぶんぶん振って喜んでいた。
逆にアンナは呆然と空を見上げているだけだった。
村人たちはいっせいに駆け出すと、村中から貴重な酒や肉を集めてきた。
「これでどうでしょう!」「どうぞ持っていってくだせぇ」「これが精一杯です!」
「ようやく立場を理解したようだな! その心を忘れる出ないぞ、永遠にな! ――ふははははっ!」
ユーシアが高笑いする中、村人たちは食料の入った袋をリスティアの背中にくくりつけた。
それが終わるとまた村長が代表して尋ねてきた。
「あとは、なにをすればよろしいでしょうか? ……なにとぞ寛大な処置を」
「ん? ユーシア魔王軍に加わったのだから、これ以上の追求はない。村人たちはさしずめ予備役兵といったところか。普段は今まで通りに暮らすがよい――ただし、暴力やイジメなどの他者を傷つける行為は、我輩の楽しみを奪う大罪だと考えよ! 貴様らを苦しめていいのは我輩だけだからな! ふははは」
リスティアが目を丸くして驚く。
「えっ、魔王さま、許しちゃうんですか!? 配下になっただけで何も変わってないのにっ?」
ユーシアは黒いマントをバサッと翻して言う。
「何を言う。部下のミスは上司の失態! ここで上司がやるべき事は、部下を叱責し責任を押し付けることではなく! 同じ間違いを二度と繰り返さないための対策を施すことだ!」
「「「おお~!」」」
「なんて寛大なお方!」「器の広さが違う!」「これこそ魔王さま!」
リスティアが長い首を傾げて言った。
「さすがユーシアさまですっ、かっこいい! ――でも、どういうことです?」
「ふふん。この村のすべての原因は、国の中心部から離れていて外圧に弱いことにある。であるからして、我輩に忠誠を誓う限り、魔物と部外者を避ける結界を張ってやろう」
「おおお!」「村が安全にっ」「夢のようですわ!」
「でも、どうするのです?」
「ふふん、それはな……」
ユーシアは村人に言って、針と大きな石を用意させた。
村人たちは針を使って、四つの石に一滴ずつ血を垂らしていく。
その石を村の四隅に置いていく。
すべてが終わるとユーシアは地に手を当てて唱えた。
「――《忠誠結界》!」
ぶぅぅん、と低い震動音が発せられて村が透明な膜で覆われた。
大通りに戻ってくると、ユーシアは村人たちを前にして言った。
「では、皆のもの。詳しく説明しておこうか。この結界は、村人たちの忠誠心でできておる」
「「「はあ」」」
「裏切ったり、離心したものが増えると結界は弱くなり、我輩への忠誠が高まると結界は強固になる。全員が忠誠度最大なら、火を吐くドラゴンすら寄せ付けぬであろう」
「「「おおおおお!」」」
「ありがとうごぜぇます!」「ずっと信じます!」
村人たちが喜びの声を上げる中、ユーシアは、くくくっと悪い笑みを浮かべた。
――これにより、支配による恐怖だけでなく、信心を失う恐怖も背負うことになる。
村人相互の監視も強くなるだろう。嫌なら逃げ出すしかないが、この戦乱の世の中で結界の中以上に安全な場所など果たしてあるだろうか?
――村人は全員、我輩の手に握られたも同然。
「フハハハハッ! さすが、我輩。なんと恐ろしい男よ!」
ユーシアは心の底から楽しそうに笑った。
――と。
それまで黙っていたアンナが、突然青い瞳に光を満たして顔を上げた。
「みなさんが勇者さまの威光によって、改心いたしましたわ! なんて素晴らしいんでしょう! やはり信じれば願いは叶うのですっ」
リスティアが半目になって、ぼそっと呟く。
「あのね、今までなに見てたのよ? 全然違うと思うんですけどっ」
「ふんっ。その現実逃避、いつまで続くか見ものだな――まあよい、行くぞ」
ユーシアがひらりとリスティアの背中に飛び乗った。
「乗れ、アンナよ」
「はいっ」
アンナは竜の背に手を付いて「うんしょっ」と上ってくる。
最後はユーシアが細い手を掴んで引っ張り上げた。
ドラゴンの背中で抱きとめる。
「あ、ありがとうございます……」
アンナは頬を染めて俯いた。金髪が顔を隠す。
「では王都へ行こうではないか! 魔王姫軍を叩き潰し、泥棒エメルディアの居場所を聞き出してやる! ――村人どもは、我輩が世界を支配するまで、震えて暮らすがよいわ、ふははははっ!」
「では、行きます~っ! それっ」
リスティアが黒い巨体を動かして、しなやかに駆け出した。
戦車のように大地を揺るがし、あっという間に村を出る。
アンナは悲鳴を上げて落ちそうになったが、ますますしっかりとユーシアの腕に抱かれた。
後に残される村人たち。
街道の果てへ走り去る高笑いを見送りながら、村人たちは囁きあう。
「嵐のように恐ろしいお方だった……」「エメルディアなんか足元にも及ばない恐ろしさだろう……」
「でも、聖女さまは勇者と言ってたが」「あれは魔王さまだろ?」「あの純粋な聖女さまが嘘をつくとも思えねぇ」
「勇者として悪事を断罪しつつ、結界でお守りくださったのか」
「魔王として悪事を嗅ぎ付けて、結界で囲われてしまったのか」
「どちらにしろ、恐ろしきお方だ」「それだけは間違いねぇべな!」
「勇者か魔王か関係なく、ユーシアさまを信じようっ!」
「うむ」「そうだそうだ」「信じるものは救われるっ」
西の地平線へと小さくなっていくユーシアの姿を見ながら、村人たちはいつまでも震え続けた。
修正に手間取ってしまい、次話を書く暇がなくなってしまったので、次話更新は明日になります、すみません。
改稿のヒントをくれたルアベさん、ハルナガレさん、雪白紅葉(邪神官)さん、ありがとうございます!