生変篇-3
生まれて3年がたった。
このころの僕は、自由にまるで子供らしく家の中、外関わらず、走り回っていた。
そう。楽しい。楽しいのだ。自由に動ける体とやらは僕にとっても初めての事で、知識としては知ってはいたものの、感動の連続だった。
魔法の方は異端児としても、体の方はそうでもない。至って健康な3歳児といったくらいだ。動けるだけで感動している僕は、特に気にするでもなく、素晴らしきこの世界を子供心満載で楽しんでいた。
さらに、なんとようやく僕の名前が出来たようだ。この世界では、3歳の誕生日に両親から名前を授かるというのが通例らしい。
僕の名前は、レオン。レオン=バルス。
うん。
キラキラしてるな。いや、待て。
前世ではキラキラネームだろうが、ここではそんなに違和感は無い。本当に良かった。
生まれて5年がたった。
このころは、リーネには歴史と現状を教えてもらい、ラージハルトには剣の稽古をつけてもらっていた。
父は王都の生まれらしく、王都の軍に在籍していたようだ。
さらに、12師団あるうちの第4師団の団長まで上り詰めていた。
師団長になるには卓越した武術に加え、戦略を練る頭脳も必要とされる。
このラージハルトという人物は、僕が思っていたよりすごい男のようだ。確かに剣の技術は実に洗練されていて、見るものを圧倒していた。
とは言っても僕は、それを視覚情報として捉えた時点で、解析し、軌道予測と反撃経路の算出まで出来るのだが、そこまでしてしまうとラージハルトから誇りも何も潰してしまう気がして、すごいと思われる程度で上手く負けていた。
リーネと結婚し、僕を身ごもった時点で引退し、今は冒険者をしているようだ。
母は驚く事に貴族の出身らしい。しかも、世界四大貴族の一つ、クシャル家の令嬢で、ラージハルトとの子を身ごもった時点で駆け落ちしたらしい。ラージハルトも引退するわけだ。
さて、さらにリーネの教えによると、この世界は4つの大国と8つの従属国から成り立っている。
そして、大国二つが戦争しているまっただ中で、相当緊迫しているようだ。
片方が西の大国【ラッセンブルグ】、そしてもう片方が東の大国【バリアント】。
どちらも王政で、発端となった事件が北国で起き、その際オーロラが出来ていたことから、各国の内外で、白夜戦争と呼ばれている。
ラッセンブルグには12も師団が有り、中でも第4師団、通称[青竜騎士団]は、それはそれは大層強く、その師団長ともなれば一騎当千で…などと多少誇張を加えてラージハルトが説明してきたが、それはどうやらこの傍目には軟弱な唯の優男が、その誉れ高き青竜騎士団の、しかも元師団長だからのようだ。
しかし、ラージハルトいわく、現状ではバリアントが押しているそうだ。どうもこれには一人の冒険者が関与しているらしい。
その名も雷帝リーン=ダラクレス。
冒険者の中でも3人しかいない最高ランクSでしかも最年少記録保持者にして成人したての最強の男。
もし人類最強決定戦をしたら、オッズの一番人気は彼だよ。とラージハルトは言う。もちろん俺もリーンに全財産入れるよ、とまで付け加えるほどだ。
そんな規格外の冒険者が、バリアントについたらしい。そこから戦況は一変した。
優勢だったラッセンブルグはじり貧になってきているようだ。
しかし、個人の優劣がそこまで戦局を左右するのだろうか。
―僕は考える。
(確かにこの世界の個人的な戦闘力は戦局に大きく影響させるのかもしれない。)
世界級魔法などは、今はもう使い手がいないようで発動自体出来ないが、過去確認されている世界級魔法は、大陸を一つ消し飛ばしたと伝えられている。
途方もない話だが、確かに伝わっているのだ。過去に使い手がいた以上、個人的な戦力として考えざるを得まい。
また、現状では最高峰と言われる王級魔法でも、無防備で受ければ、都市一つ落としかねない威力がある。
―確かに一人でも戦況は一変しうるか。
僕ならどうだろうか。
魔法歴上たった一人しか存在していない3属性使い。その勇者様ですら魔王を倒せるのだ。(所詮言い伝えではあるが)
まだ5歳児の僕でも世界級ぐらいは出来そうだな。