異世界DOGEZA一本道《短編》
拙い文章と適当な流れで書いたものなので、鼻で笑いながら読んでください。
「何だい?その奇妙な格好は?」
「私の故郷で相手に対して深い謝罪や請願の意を表すための礼です」
実に興味深そうに、それでいて訝しげな雰囲気で聞いてくる壮年の男性にそのままの体勢で答える。
地面の上で相手に向かい正座をし、手のひらを地面につけ額を地面につける。日本では土下座と言われる礼の1つだが、どうやらここに住んでいる人達は知らないらしい。言葉は通じると言うのに、ここは日本ではないようだ。
事の発端はと言えば、詳しくは俺自身も良くわからない。が、一応心当たりらしきものはある。
良く振り返って見てみれば、俺の人生は失敗や失態が多く、頭を下げる機会が多かったとは思う。もちろん土下座も何回したか分からない。安い頭だ。
ただ、ここに至るまでにあったことで覚えていることと言えば仕事でミスをして大事故を引き起こし、またお偉いさんに頭を下げて謝らないといけないな、と思いながら意識を失ったことだろうか。自分で言うのもなんだが、何度もミスをする時点で使えない人間だとは思っていた。
また仕事をクビになるのだろうかと思いながら目を覚ますと、俺の憂鬱な気分とは裏腹に、やけに澄んだ青空と目が眩むほど眩しく明るい太陽、心地のいい風になびく草花が広がっていた。そして、視界の中に短いメッセージらしきもの。
〈ようこそ
〈スキル【土下座】
最近失敗続きで夢の中でゲームか何かの世界に現実逃避でもしているのかと思ったが、しかし持っているスキルが土下座のみとは思わなかった。思わず声を上げて笑ってしまうほどだ。
さて、起きたのは良いものの、着ている服を除けば正真正銘この身1つな状態で草原に放り出されたのだ。夢だから良いか、と日が傾きはじめるまでごろごろとしていたのだが、夢にしては長く、しかも空腹感に襲われたとなれば流石に悠長にはしていられない。
軽く周辺を歩き回ってみると、ファンタジーにありそうな典型的な村が見えてきたのは運が良かったと言える。問題はここからだった。
言葉は通じる。ならコミュニケーションが取れる。しかし、村人たちから見れば仕事の時に着ていたジャージは怪しく見えたらしい。離れていても激しい警戒心が伝わってきた。子供たちを家の中に入れ、親と思われる女性たちは家の入口を塞ぐように立っている。だが、それくらいで諦めるわけにもいかない。
頭の中に浮かんだ通りに正座をし、手を地面に付き頭を地につける。
「すみません、何も持っていないんです。どうか1日、この村においてください!」
冒頭に戻るわけだ。我ながら情けない。
「とりあえず、頭を上げんさい。とりあえずあんたが襲いに来たってわけじゃないのはわかったよ」
「はい」
誠意が伝わったのか、それとも目が覚めた時に映し出されたスキルとか言うやつの効果なのかは分からないが、警戒を解いてくれたようだ。
「とりあえず家に来ると良いさ、大したもんは無いけど寝床と飯くらいなら出すよ」
そういいながら村の中まで入って行くのでそのまま付いて行くことにする。この村はどうやらほとんどが歳を食った人のようで老人か残りは女性か子供くらいしか居ない。
しかし、何とも気前が良いと言うか、何と言うか。確かに頼んだのは俺だが、見知らぬ怪しい恰好をした人間にここまで親切にしてくれるとは。
「ここがワシの家だ、入んなさい」
「失礼します」
実に質素な木造で、屋根は藁で出来ている小屋と言うには少し広いくらいの家である。酷い部類入るのかもしれないが、俺としては珍しさの方が勝っている。
「あの、見たところ若い人が少ないと言うか、居ないように見えるのですが……」
「ああ、まあ仕方ないね。若いのは街に行っちまったか、最近食料をよこせって脅してくる山賊共に立ち向かって行って帰って来ないからねぇ……」
「そうでしたか……」
少し聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、気まずい雰囲気が流れる。
それに、普通に考えて現代日本で生活に困るほど酷い暮らしをしている場所が有るとも考えづらいし、日本ならば山賊なんてものが居るとは到底考えられない。土下座が分からない辺りで日本ではなさそうだと思っていたが、いっそのこと別世界だと割り切ってしまおう。
「それと、そろそろまた山賊が来るころなんだがね、最近雨も降らんから不作でなぁ。山賊に寄越す作物どころかワシらが食べる分すらほとんどない」
「……なら、私は遠慮して……」
「いんや、あんな風に頭下げられたんじゃそういう訳にもいかん」
自分達が食べる分すらほとんど収穫できていないと言うのに、俺にその僅かな食料を振舞おうとするとは。たかが余所者が頭を地面にすりつけた程度でこんな風に考えるようになると言うのもおかしな話ではある。やはり目が覚めた時に土下座がスキルとか言うのに入っていたのが原因だろうか。
「まあ、今日は良いからゆっくり休んでいきなさい」
「……はい」
とりあえずこの日は村のあちこちを回って色々と話を聞いたり手伝いをしたりしてから男性の家に戻り夕食を御馳走になって、ついでにこの男性の家で眠らせてもらうのだった。
「山賊が来たぞー!」
翌日。村中に響き渡るような声で目が覚める。腕時計はしているが当てにはならないだろう。とりあえず朝だ。というかまだ日が登り始めたばかりじゃないか。
「もう来おったのか……」
男性がそんなことを呟いて外に出るといかにも山賊と言う風体の男が子供を人質に取っているところだった。その周りには十人以上は部下らしき男が剣を抜いてこちらを下卑た笑みで見てきている。刀身が曲線を描いている剣、シミターだかククリだか忘れたが、そんな剣を子供の首に付きつけている。
「食料だ!食料を持ってこい!」
「……無い」
「ん?何だと?もう一回言ってみろ!」
俺を除き村の中で一番若そうな男性が呟くように言う。
「今季は不作でもう村には碌な食料が残っていないんだ」
「なんだと?だったら―――」
何とも展開が早い。漫画か何かのやり取りを目の前でやられているような気分だ。
男が剣を振り上げたところで俺が口を開く。
「待て」
「あぁん?」
突然の言葉に男は剣を振り上げたまま動きを止め、こちらを睨んでくる。
実際に武器を持っている相手と言うのはなかなか怖いものだが、過去にこれより怖い上司などいくらでも居た。
「お、おいあんた……」
「まあ、何とかしてみます」
俺のことを家に泊めてくれた男性が俺を引き留めようとするが、それに笑みを作って答える。もしかしたら引き攣った笑顔になっているかもしれない。
何とかするとは言ったが、普段の俺だったらこんなことをするどころかこそこそと逃げだしている自信がある。それをしないのは村に恩を感じていると言うのもあるからかもしれないが、不思議と何とかなる気がしているからだ。
詳しく言えばスキルが俺に何かをささやいている気がするのだ。
「おう、何だてめぇは?そんなヒョロい体で……?」
山賊の男の5メートルほど前で止まり、おもむろに膝をつく。そして両手を地面に付きも地面すれすれまで下げる。
山賊の男もこの行動は予想外だったのだろう。顔は見えないが、言葉を途中で止めたまま何も言わずにいる。
「どうか、この村には2度と来ないでいただけないだろうか。この村には女性と子供、老人しか残っておらず労働力たりえる人材が無いどころかここ最近の快晴続きで畑は乾き井戸も枯れてしまった。大人はもちろん子供すらも空腹で困っている始末。このままではこの村は死に絶え、あなた方も食料を要求できる場所が無くなり共に死んでしまうだろう。どうか、この村とあなた達の今後の両方を考えた上でこの村には2度と来ないでいただきたい」
途中から自分でも何を言っているのか分からなかったが、とりあえずそれらしい形で締めくくる。
「……良いだろう」
「お、親分!?」
「別にこいつに言われたからじゃあねえ。こんな何も無いところに居たところで何もうまみがないから離れるだけだ」
「そうですかい」
「おら、行くぞ!お前ら!」
……どうやら何とかなったようだ。いやまあ、しかし非常に便利である。この土下座。俺の軽い頭を下げるだけでこの先の何もかもが片付いてしまいそうな気がする。
「ありがとう、ドゲザのおじちゃん!」
「あ、ああ……?」
「助かった、もう山賊に怯えなくて済むんだ!」
どうやら山賊達がいなくなり、村の人達にとっての脅威が消えたと言うことで村の人達は俺に口々にお礼を言ってくる。それからその呼び方は止してもらおうか。
それはそれとして27歳はおじちゃんと言われるような歳だろうか。まあいいんだけどさ。
「今宵は宴とでも言いたいところだが、食料もないんじゃあなぁ……」
「仕方ないです、長老。山賊が居なくなったんですからここから少しずつ復興していきましょう」
長老と呼ばれた爺さんが呟き、それに村の中では結構若い男性が対応する。
枯れた井戸、やせ細った畑、近くに水を引っ張って来れるような川は無く、質の良さそうな土が手に入りそうな場所もない。現在の村の状態を考えるに、復興をする前に村が無くなってしまいそうだな。
俺の目の覚ました草原の土を使うのも考えたが、畑用に加工するのにも時間がかかる。
「……おじちゃん」
「……俺に頼まれてもなぁ……」
「……」
子供が俺に声をかけたおかげで俺に視線が集中する。俺に何とかしろと言われても畑の土だけならともかく、枯れた井戸まではどうにもならない。
…………いや、待てよ?
「……見るだけ、見てみます」
「そうかい。無茶なことを頼んでいるのは分かっている。どうにもならなくても誰も文句は言うまい」
「はい」
どこか申し訳なさそうな顔で言う村長を尻目に、井戸のある場所に向かう。井戸の場所は昨日のうちに案内されていたので知っている。
周りに村の人達が集まってきてしまっている中、縄を持ってきてもらって適当な場所にそれを括りつけた後、井戸の中に垂らしそれを使って井戸の中に降りる。
井戸の中は釣瓶以外に何も無い。水が沸いていたのであろう亀裂が井戸の底にあるが、そこから水が出る様子は無い。
だが、しかし。たった1つ、水が出る可能性は1つだけある。馬鹿だと思うのならそれで結構。阿呆だと言うならまさにそうだろう。笑わば笑え。
俺は、亀裂の前で正座をし、両手を地面につけ、そのまま頭を下げる。こっちに来てから3度目の土下座である。
「水湧いてください。村の人達が困ってるんです」
そう言ったあと、1分ほどして。頭を下げているものが人じゃないのだから答えが帰ってくることは無いと気が付き頭を上げる。
「……流石に無理か。そうだよな」
ふと我に返って我ながら馬鹿なことをしたなと思った次の瞬間。
ズドン、という衝撃と共に俺の体は上へと押し上げられ、その拍子に目を閉じてしまったが、若干の時間を置き目を開けると井戸に付いている屋根が近くにあった。
「うわ、まじか……」
自分が水に浮かんでいるのに気がついたのは、さらに少し時間をおいてからだった。井戸の回りに居る村の人達は歓声を上げ、俺を井戸の中から引き上げる。
「まさか本当に出るとは……、お前さん魔法使いか何かなのか?」
「いや、違いますが……、魔法使いって居るんですか?」
「ん?ああ、この辺にゃ居ないが、都市の方に行けばいるだろうな」
居るのか、魔法使い。いつまでも村に居るのも悪いし村を出たら都市を目指して見るのも良いかもしれない。
その後畑にも土下座をして見たところ、乾ききった土が肥沃になるどころか作物が次から次へと生えてくる始末。しかも村全体。
なんだかんだとあって、朝食すら取っていなかった俺含める全員で取れたての作物を使って祭のようなものが行われ、気が付けば既に太陽が登りきっていた。
「本当に行ってしまうのか?」
村を出ようと思って昨日村に入ってきた場所とは反対方向にある門へ行くと、村長に声をかけられる。
「はい。所詮俺は余所者ですから。お世話になりました」
「いんや、助かったのはこっちの方だ」
身支度……と言っても持ち物は何も無かったので村長に軽い挨拶をして、服を着ていざ村を出ようと思うと。
「ちょっと待ちなさい」
「あ……、おじいさん。家に泊めてくださって、ありがとうございました」
俺を家に泊めてくれたおじいさんが俺に声をかけてきた。いつの間に来たのかは分からないが、よくよく考えればおじいさんの家はこの辺だったな。
「いや、いい。どれ、お前さんに地図でも渡しておこうかと思ってな。わしはもう年寄りじゃから村から出ることもないし、お前さんの方が必要になるじゃろう」
「……ありがとうございます」
おじいさんの差し出してきた地図をポケットに入れ、お礼を言って頭を下げる。そして今度こそ村を出る。
さて、この先どうしようか。