夢喰 獏
お題 「夢」
こんな夢は如何かな?
「お願いします。このお金で、娘と嫁の敵をとって下さい」
都会にある場末の神社。
ハゲた中年男は、鼻水と涙を垂らしなが、金を握りしめていた。
「約束の五百万です。どうか、娘と嫁の夢を奪った外道共に、悪夢をお与え下さい。」
鼻水が涙が、声の邪魔をしながら、男は叫び土下座して頭を苔のはえた土にこすりつけた。
少し前から、ここは雨になった。
びしょ濡れの、大ナメクジのようだった。
ピチャピチャ……
向こうから足音がする。
足音はゆっくりと、それでいて力強く聞こえてきた。
男は、顔を上げようとした。
「駄目、そのままでいろ!」
落ち着いた声は、どこか居心地のわるい感覚に襲われた。
足音は男の前で止まり 、声の主は上かはナメクジ男を見下ろした。
沈黙が続く……。
どうしたのだと、男は頭を上げようとした瞬間!
!!!
首の後に痛みが走り、目の前が真っ暗になり気絶と言う眠りについた。
「お前に、良い夢を魅せてやろう。」
声はそうそうと、金をふんだくりその場を立ち去った。
夜中の路地裏、二人の男が電柱に小便をしていた。
少し酒を入れたらしく、顔が赤い。
太めの男は、ヘラヘラしながら吐き捨てるように言う。
「この前の女二人、なかなかの締まりだったなあ」
細い身体の男も、よだれを垂らしながら言う。
「本当だぁ、しかし、何も、クルマでひき殺すこたぁなかったんじゃね?」
「へっ、構わしねぇ、女の一人や二人良い夢見て死ねたんだよ」
太めの男が大笑いすると、つられて細い男も笑った。
急な強い風が、外道共を襲う。
外道共は目を抑え、風がやむと前を見た。
!!!
そこには、腰まで伸びる黒髪の女性が、黒いチャイナドレスに身を纏っている。
黒一色の中に、ただ一つ赤い瞳がルビーのように輝いた。
「……」
チャイナドレスの女は、無言で外道共を見た。
外道共は、よだれを垂らす。
チャイナドレスから、身体の線がくっきりと表れ、白く長い脚に股間が硬くなった。
「ネーチャン、遊んでほしいのか?」
痩せた男はそういうと、女に走りだした。
「オメェ、抜け駆けはずりーぞ」
デブも鼻息あらく、後を追った。
二人の突進を、女はかわすと懐から白い粉の入った袋を取り出す。
??
外道共がなんだ?としている所へ、チャイナドレスの女は袋を破った。
すると、粉はまるで生きているかの如く、外道にまとわりつく。
!!!
二人の視線に、ヤリ殺したはずの母娘が目の前にいる!
「どーして、どーして、どーして!」
母親は、泣きながら二人に近づいた。
「ヒィ、ヒィ」
デブは、両腕をバタバタさせて、逃げ出す。
「なんで、この世界から、夢を見れなくしたの」
血の涙を流す娘に、痩せた男に言葉をぶつける。
「た、た、助けてくれ!」
腰を抜かしながら、命乞いする外道共に母娘は、喚きながら近づく。
その様子を冷めた視線で見ていたチャイナドレスの女は、背を向け冷たい笑顔で立ち去った。
女の背中から、母娘の無念の叫びと外道共の段末の叫びを聴いた。
朝、ナメクジのような男は、朝の日差しに目が覚める。
目をこすりながら、そして、一気に目が覚める。
ナメクジ男の目の前に、外道共の脱け殻があった。
外道共は、何かおぞましい者を見たような、顔のまま硬直していてそして死んでいた。
「依頼の男、この外道共の夢は喰った。そして、お前の悪夢も喰った。強く生きてこれからも夢を見よ!」
声がした。
男は、その声に向かい
「ありがとう御座います。……ありがとう御座います、『夢喰獏 様』」
と、大声を上げて泣き崩れた。