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Hallucination

作者: イカ

「裸のままで」「傀儡」「少女趣味」「Hallucination」の4つの詩を1つにした詩集と言う形です。

「裸のままで」


裸のままで歩いていたはずだった

でも気付けば

所々破けた原色のうるさい服を着て

跳ね散らかした目を引く髪型で

ファッション雑誌のクローンのように歩いていた

 

腕には 似合わない厳めしい時計

合っているかも分からない長針と短針に急かされ

焦って転んで つまらないすり傷ができる

そして周囲を飛び回る数字は僕らを監視して

何かあるたび

やれ成功だ やれ失敗だと口うるさい

  

抱えていた人形を親に捨てられて

偉そうに語るワイドショーに否定されて 

無理に厳しく育てる世間に虐げられて

道徳の授業とまるで違う現実に頭を揺さぶられて

道の途中で 僕はぐったりと吐いている


僕と同じ格好をした人達が

吐瀉物を びしゃりと踏み付けて

ひざまずいた僕を置いて歩いていった




「傀儡」

 

学校の帰り道 花弁をもいで吸った蜜

ホームランボールを探しに入った草むら

タイヤで作った秘密基地 駅は絶好の隠れ場所

裏山の木に登って 境内でかけっこして

近くを流れる清流で 泳ぐ魚を手掴みする

 

誰のものでも無いと 言い張っている自然達

そのうしろに 細く何かが見える

じっ と 見てみれば

それは 天に続く糸 

今にも千切れそうに ピンと張った糸


気づけば どこもかしこも糸だらけ

赤外線センサーのように張り巡らされた

糸を迂闊に手繰り寄せれば

誰かの怒りに触れて

突如降りかかる落雷に 重たく押し潰される

 

「みんな 傀儡に過ぎなかった」

アルバムに綴じられた写真に

染み込むように 小さな呟きが落ちた




「少女趣味」


真っ赤のサロン 朽ちた危うい角机

その上に横たわる黒セーラーの少女

月面の顔を艶めいた黒髪に隠す


露出した肌の曖昧な輪郭

青く血管の透ける乳房を織目の奥に内包し

銀色に骨ばった脚が 宝石の光を返す


周囲には 少女に平伏す信者たち

燕尾服 襤褸 様々な人間が並ぶ

零時に鳴る時計の鐘に許しを得た彼らは

やにわに少女の体を剥いてまさぐりだす


ある者は 髪に唾液を絡みつかせ

ある者は 乳房に柔く手を這いずり回らせ

ある者は 腿に滴る撚糸を一心に啜り

そして少女は 嬌声の代わりに媚態を晒す


彼らは熱心に行為を終えた後

飛ぶ唾液混じりに言葉を交わし合う

行為の優位性だとか 気品だとか

言葉は次第に暴言に 空になった酒壜に

拳 足蹴 果てには銃まで

深夜をも気にしない乱痴気騒ぎを傍らに

少女は投げ出した肢体を

机の上で そっくり彫像に変貌させる


まことに残念なことではあるが

この手の下品な品評会が

有史以来 盛んに行われているらしい




「hAlLucInATioN」

 

『蒙昧ネオン、蜃気楼』

 鏡の中に僕は幽霊を見た 幽霊は

 忽ち金属質の液状に蕩けて

 蛇口を通して皮膚に溶け込み

 血液を辿って心室に居座った

  

『防空ネット、警告音』

 幽霊の歌が耳の奥にこびり付く

 幽霊の髪が瞳の裏まで競り上がる

 幽霊の爪が心臓の壁を掻きむしる

 叫ぶも 僕にそれを止める手立てはない

 

『監視カメラ、蓄音器』

 一度外に出れば 夥しい数の目玉が僕を睨みつける

 空中に 地上に ビル群の隙間に 前を歩く人の背広に

 僕が何かしようものなら 目玉は一斉に喚きだす

 血走った眼を半球に割って 幽霊の声で喚きだす

 

『無声ラジオ、処方箋』

 鏡には 病的に青い 海蛍色の幽霊が浮かぶ

 背後で 涎を垂らしながら分裂していく目玉の群衆

 耐え兼ねて鏡を殴り割れば

 幽霊も目玉も消えて 僕の血液が鮮やかに滴った



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