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作戦

「ただいまー……」

 自分の家なのにそーっとドアを開けて、中を確かめる。

 返事がない、物音もしない。誰もいないようだ。

「二人とも、入って大丈夫だよ」

 僕の後ろで立っている二人に声をかける。

「じゃ、遠慮なく」

「お邪魔しまーす」

 多分、六時頃までは親が帰ってくることはない。例外はあるけど。

 二人をリビングに入れ、冷蔵庫の中を捜索する。食べ物自体あんまりないか……

「結構広いよな、お前の家って」

「まあね」

 僕の家はそれなりに恵まれていて、お金に困る心配はない。

 なのに冷蔵庫の中は空っぽ。お母さん買い出し行ってないな。

 というわけで昨日の夕食の残りを微量携え、いざテーブルへ。

「え? これだけ?」

「人の出した物に文句言わない。僕の昼食の分しか用意してなかったんだから当然だよ」

「だからってこれは少な過ぎる気がするけど……」

 女子に少ないって言われる僕の胃袋って……

「部屋に菓子溜め込んでるんじゃねぇのか」

「残念。最近小遣いピンチなんだよ」

 嘘だけど。単純に買いに行くのが面倒臭いだけだ。

「そんなことより、何か用があって来たんじゃないの?」

 テーブルの椅子を引きながら、二人に尋ねる。

「ああ。実は、クラスの誰かがお前のことが好きだって伝えて欲しいと言われてな」

「嘘は良くないよ」

 さっき持ってきたキュウリの漬物をポリポリかじりながら、僕は言う。

「でも結構モテてるんじゃないの? 空って」

「僕に訊かれても困るよ」

 そもそもなぜ本人に訊こうと思ったかが分からない。告白されたことすらないよ。

「本題は?」

「デスマッチのことだ。お前らも聞いただろう」

 今一番聞きたくない言葉だったんだけどな。

「適当な作戦だけ、立てて置きたくてな」

「この三人だけで?」

「まずは、な」

 「まず」ということは、他にも誰か巻き込むんだろうか。やっぱりクラスのみんなかな。

「俺は、このデスマッチは四人で組むのがいいと思っている」

「え? 人数は多いほうがいいんじゃない?」

 そう訊いたのは横に座っていた一恋。僕と同じ考え方か。

「あのクラスをまとめられるほどの司令官がいるか? あれだけ人数いると、まとめるのにも大変だし、敵に攻撃してくださいと言っているようなもんだ。それで裏切り者が出る可能性があるしな」

「脅されて?」

「そうだ」

 なるほど、考えてるな。四人で行動するのも敵に見つかりにくくするためか。

「じゃあもう一人は誰にするの? 三人とも知ってる人なんて、誰もいなかったと思うけど」

「それは空に決めてもらう」

「へ?」

 いきなり話を振られて、間の抜けた声が出てしまう。

「同じクラスのほうが分かりやすいから」

「あー、分かった」

 僕と伊那人は同じクラスだが、一恋だけは別のクラス。そのことで

帰り道に一恋が嘆いていたことを思い出した。

「で、デスマッチの作戦だが」

「うん」

「戦力が減るまでどっかに隠れておく」

「地味だね、僕らの戦い」

「これも戦いには必要だ。なんでわざわざ戦いに行く必要がある?」

 まあ、そうなんだけどさ。

 同学年と言っても、人数は百二十人くらいいる。うまく見つからないように行動できるのかな。

 でも伊那人だったらなんとかするか。

「戦闘に入った時の役割を教えておく」

 結構細かいな。それほど優勝狙ってるってことか。

「俺が前衛、一恋が後衛、空は一恋のサポートだ。敵が近付いてきた時だけ攻撃してくれればいい」

「んー、了解」

「一応分かった。あたしは遠くで狙い撃ちしてるだけでいいんだね」

「ああ、頼む」

 これで終わりか。なんか辛い戦いになりそうだな。

「でも、こんなに伊那人がやる気になるとはね。優勝商品なんだったっけ」

「一千万と魔力増量腕輪だ」

「い……」

 たかが学校の行事に一千万!? なんて贅沢なんだ!

「伊那人が真面目にやるなんておかしいと思ってたけど、一千万となれば話は別ね」

「二人とも話ちゃんと聞いてたか?」

『聞いてなかった』

「はぁ……」

 そんな、駄目だこいつら、みたいなため息を吐かないでほしい。

「で、伊那人の目的は魔法増量腕輪?」

「魔力増量腕輪な」

 さすが魔法極めているだけあるな。一千万より腕輪を取るとは。

「あー、打撃能力向上腕輪もあるらしいな。一千万から百万削れば貰えるらしい」

「じゃあMAXの五百万削って一番高価なのを貰おう」

「二人ともバカね」

 一番のバカに言われたくない。

「だって伊那人は魔法腕輪だから、一千万いらないじゃん。だから二人で分ける。一人五百万になる。打撃能力向上腕輪を貰う。よし」

「何がよしなのよ」

 え? これで完璧のはずなんだけど。

 打撃能力を上げられれば、あいつに勝てるかもしれない。絶対に取ってやる。

「ちなみに空属性の魔法付加には、二十人以上の戦闘不能者を出せばいいらしい」

「じゃあデスマッチ開始直後に殺りまくろう」

「お前俺の作戦聞いてたか?」

 ちゃんと聞いてたけど、それじゃあどう考えても間に合わない。学年の人数は四クラスで、百二十人なんだから、間に合うはずもない。

「大丈夫だ。俺が間に合うようにする」

 そんな僕の胸の内を察したのか、伊那人が言う。

「頼むよ。これは僕にとって今までにない最大のチャンスなんだから」

「分かってる。じゃあ、話は終わりから俺は帰るぞ」

「あ、じゃああたしも」

 二人は立ち上がり、リビングのドアを開ける。

「もう帰るんだ。もっとくつろいでいってもいいのに」

 なんだか少し慌ててるような二人に僕は言う。

「もうそろそろお前のお母さんが帰ってくる時間だろ」

 あー、今日水曜日か。じゃあ二時くらいに帰ってくるな。

「そうだったね。じゃあ、また明日」

「ああ」

「また明日ね」

 それぞれの返事で、リビングのドアを閉める。

 玄関まで見送ろうとも思ったけど、よく考えたら玄関の鍵閉める必要もないし、ここで見送るのと大差はない。別にいいだろう。

「とりあえず、これさっさと食べないとな」

 お母さんが帰ってくるまでに食べておきたい。そんなに多くはなかったし、食べ切るのに十分も掛からなかった。

「ただいまー」

「おかえりー」

 お母さんが帰ってきたのはそれから五分後。伊那人がいてよかった。

 いなかったらそのまま遊んだり色々してたかもしれないから。

 バレたら酷いことになるし。

「そういえば、お父さん今日は帰り遅くなるって」

「あ、うん。分かった」

 お父さんには訊きたいことがあったんだけど、いいや。明日訊けばいいことだ。

「じゃあ、僕部屋に戻ってるから」

「はいはい」

 ガチャりと部屋のドアを閉め、今日貰ったクラス内の生徒が書いてある手紙を取り出す。

 腕輪はどうしても欲しい。強い人を選ばないと。

「僕顔狭いんだけどな……」

 このクラスに知っている人がいるかどうかさえ不安だ。いたとしても、戦力になるような人がいた覚えはない。

「さて。どうしようか」

 諦めて寝てやろうか。いや、夜寝られなくなるな、止めておこう。

 可哀想な人がいたよな、確か。

 実力はクラス内で最下位、頭は良くて、容姿もいい。

 実力無くても頭が良ければいい活躍してくれそうな気もするし、この人でいいかな。大体、この人以外知ってる人いないや。

「よし、決まり、と」

 僕は鞄にプリントをしまってベッドに飛び込む。

 明日、その人に声をかけよう。この学校であの二人を除いたら、唯一仲の良い友達だ。

 多分、大丈夫だと思うけど。

 今、ゴチャゴチャ考えても仕方がない。

 寝よう。もういいや。


 


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