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鬼たちの人情話―『吸血鬼』の弱さ―

実に1年ぶりくらい?

設定とかもろもろ忘れてそうで怖い。

誤字脱字の指摘待ってます。

001


 家の前に着く頃には、日は完全に沈んでいた。今夜のことを考えると、気が重かったが、僕は嫌なことは早めに済ませておきたいタイプの人間なので、事態が早々に収束できるというのはありがたいものだった。


 扉に手を掛けようとした時、携帯が鳴り響いた。携帯の画面にはアイツの名前が浮かんでおり、吸血鬼の全力で空に投げ飛ばしたくなったが、アイツはその程度じゃ諦めない、どころかそのまま「電話でなくって心配しちゃったよぉ」とか言って家に押しかけてくることが容易に想像できた。


 嫌々ながら応答すると、薬でもキメているような声が聞こえてきた。


「いやぁ、まさか神音ちゃんが助けようとした鬼塚友護くんが依頼主になるとはねぇ。これがあれかな、カオス理論ってやつなのかなぁ?」


「昨日の晩やってたジュラシック・パーク見て覚えたての単語使ってる中学生みたいな発言ですね。いろはさんは知ってたじゃないですか。また俺をこき使うための遊びかなんかなんでしょう?」


「そういうわけじゃないんだけどなぁ……。遊びにしたって、難易度ってものがあるよぉ。『無邪鬼』を遊びに使うなんて、自殺行為を通り越して、地獄行為だよぉ」


 いろはさんは、携帯の向こう側で顔をしかめているような気がした。


「ま、自殺でも地獄でも地熱温泉でもなんでもいいですよ。いつも通り、『吸血鬼』の力で終わらせて、僕は日常に戻ります。夏休みも近いんでね」


 僕がそう言うと、いろはさんはゲラゲラと笑い出した。


「……なにが可笑しいんですか?」


 その笑い声があまりにも不快だったため、僕の声には多くの怒気が含まれていた。


「アハハハ、ごめんごめん。これから先の未来を予測すれば、とても面白くてね。俺様の頭にあった予定を少し早めてもいいかなぁって思ってねぇ。しかし……これはお兄ちゃんを呼んだ方がいいかもねぇ」


「虎鉄さんがどうかしたんですか?」


 不穏な単語が聞こえた気がした。気のせいだと信じたい。


「いや、たぶん神音ちゃんには関係ないかな。いやいや、実際には関係ありすぎて関係がなくなるようなものかなぁ。例えるなら、ホースをつなぐ蛇口を探している時に、君は蛇口の中でグースカ寝ている、みたいなものだよぉ」


訳がわからないな、精神病院にでも送られればいいのに。


「ま、僕の口から言えることがあるとしたらぁ……」


 いろはさんは、一瞬なにかを考えて、まるで言葉を慎重に選んでいるかのように言った。


「怪異なめんな」


 どうやら考えていたのは今夜の晩御飯とかそういう類の軽いことのようだった。言われなくても分かってるよそんなことは、こちとら現役怪異だぞ! とか言おうと思ったときには、「お兄ちゃんに連絡するからじゃあまた今度ねー」と言われ、通話は切られた。


 普段は僕から切るのに、その相手から先に切られると、無性に苛立つのはなぜなのだろうか。探偵ナイトスクープに送りたいものだ。


「まったく、面倒だなぁ」


 僕は再度、自分の現状を確認したのだった。


002


 その晩、僕は姉貴にコーヒーを飲ませ深い眠りに送った後、自室で学校の課題に手を付けていた。今晩の仕事はコンビニに買い物に行くような気分で行こう。勿論、怪異を舐めたりはしていない。だが必要以上に警戒すると、柔軟な対応ができなくなる。怪異を相手取る時、それは致命的だ。あくまで、最低限の警戒を持って向かう。


 しかし、それはコンビニに行くのと何が異なるのだろうか。コンビニに行くときだって、不審者に会わない様に気を配るだろう。結局は、その程度の警戒が一番動きやすいということなのだろう。


 時間は深夜1時50分、そろそろ時間だ。


 階下では物音ひとつしない。両親はしっかり寝ているようだ。父さんはどうだか知らないが。


 学校指定のジャージを羽織る。初夏とは言え、夜はまだ涼しい。月が雲の合間を縫って顔を出す。その美しさに僕の視線は奪われた。


 何かを考えているようで、何も考えていない。そんな状態を自覚しながら、僕は自身の奥底から熱くて冷たいものが湧き出るのを感じた。


 電気を消した自室に置かれた姿見には、姉貴やお母さんと同じ色の髪、夜の住人の証の、輝く黄金の髪がたなびいていた。


「行くか」


 俺は静かに窓から飛び出した。


003


 ほぼ予定通りの時間に鬼塚家の門に着くと、そこは百鬼夜行の駐屯地と化していた。


 体長2メートルは優に超し、その瞳は大海を飲み込んだように青々と光っており、何より目につくのは、その純白の肌だった。


 僕は宇宙人、さらに言えばグレイ宇宙人のような、生々しい肌を想像していたのだが、それは誤りであったことを知った。


 その肌は白い毛皮を纏っているように輝いて、うっすらと光を放っているようだ。筋骨隆々の体躯は、金剛力士像を想起させる。角は2本の人(鬼?)もいれば1本の人も、その大きさも異なるようだ。


 その集団の中に、一人絢爛豪華な着物を羽織っている男がいた。間違いなく人間の姿だった。


 よくよく見ると、それは鬼塚くんであり、豪華な着物の割には浮かない顔をしている。


 目が合うと、鬼塚くんは苦笑いを浮かべた。


「まさか本当に、『吸血鬼』だったとは。お客人とはいえ、クラスメイトがこちらの業界に通じているというのは、変な気分だな」


 優しい声で俺を迎えてくれた。その声を聞いた他の『無邪鬼』たちが、俺と鬼塚君を囲むようにならんだ。


「今日はよろしく、頑張って時間を稼ぐから」


 僕の言葉に、優しい鬼たちは微笑んだ。


「お客人とはいえ、大怪我をさせたら合わせる顔がない。時間稼ぎが難しそうだったら、その場で引いてくれ。本来は内輪だけで収める話なんだ。失敗しても気にしないでほしい」


 『無邪鬼』のうちの1人が言うと、鬼塚くんは申し訳なさそうに


「すまない。次期頭領の俺がふがいないばかりに……」


 と頭を垂れた。


「若頭に落ち度はありませんよ。我々は若頭の本当の力を知っています。今回は大人しく宴会の準備でもしていてください」


 屋敷の方から鬼丸さんらしき人が現れた。


「すまないな、兄貴を任せた」


 ニヤリと笑う鬼丸さんは、他の『無邪鬼』とは少し異なっていた。


 他の『無邪鬼』は武器も何も持っていないが、鬼丸さんは自身の鬼の姿に合わせた大きな金剛杖を握っていた。


「さてお客人、行きますか」


 鬼丸さんの眼は、片方が地獄の業火のように紅く輝いていた。


004


 以前あの鬼と遭遇した土手に行くと、そこにはあの鬼がまた居た。


 しかし、以前の灰色の霊気は消え、黒い霊気が漂っていた。


「今は少し大人しくなっています。ですがいつ暴れ始めるか分かりません。我々は兄貴を囲って近づきます。我々が禊の準備についたら合図を出すので、兄貴の気を引いて、時間を稼いでください。準備ができましたら、俺が兄貴の邪着を封じますので、離れてください。いいですか?」


「はい……。問題はないと思います」


 俺の眼には、座り込んでいる鬼塚君の兄と思われる鬼を、どうやって動きを封じるか考えていた。


「少し攻撃したりして、動きを鈍らせてもいいですか?」


 そう言うと、鬼丸さんは目を見開いて驚愕の感をあらわにした。


「もし、それができるならお願いします。ですが迂闊に近寄らず、遠くから兄貴の気を引くだけでも十分ですから」


 鬼丸さんは遠慮しがちに言ったが、相手の動きを止められれば、それは禊を行うにあたり、効率がいいことは目に見えている。


 こくりと頷くと、鬼丸さんと他の4人の鬼たちはゆっくりと相手に近づいて行った。


 たぶん、鬼丸さん達は、俺を吸血鬼というよりも、若頭、鬼塚くんのクラスメイトとして見ているのではないだろうか。つまり、ただの中学生だ。


 その認識に誤りはない。俺はまだ生まれて十数年の若造だ。だけど、鬼塚くんのお兄さん、悪鬼と化そうとしているあの善良な鬼を止めることくらいはできるつもりだ。


 少し離れた位置から、鬼丸さんが金剛杖を振り上げた。それは準備ができたことの合図だった。


「ふぅ……倒すくらいの気概でいくか」


 僕は小さく呟いて、土手に咲く名前も知らない雑草を力強く踏んで、黒い鬼の前に立った。


「たぶん、もう意識は薄れてるんでしょ? だったら遠慮なくやらせてもらうからね。鬼なんだから、少しの大怪我くらい唾つけとけば治るだろうし」


 黒い鬼がこちらをギロリと睨んだ。重い圧力を感じる。無邪鬼に感じた神々しさは無く、代わりにこの世の悪を象徴するかのような胸糞悪さが伝わってきた。


「それじゃ、まずは一発!」


 俺が拳を構えた時、黒い塊が俺を吹き飛ばした。



005


 僕が目をゆっくりと開けると、見慣れた場所に横たわっていた。というか、保健室なんだけども。


 脇にはひたすらパソコンに何かを打ち込むアイツがいた。


「なにやってるんですか、いろはさん」


 喉から出た声は、本当に僕のものかと思う程弱々しかった。


 僕の声に反応していろはさんがパソコンから顔をあげた。数秒してから、いろはさんがニッコリと笑って言った。


「おはよぉ、しおんちゃん。敗北の味はどうだい?」


 敗北? 敗北ってなんだっけ。そんな変わったラーメン店に行ったっけ?


 いまいち状況が飲み込めない僕に代わって、いろはさんが言った。


「怪異、無邪鬼との戦闘での敗北のことだよ。しおんちゃん」


 いろはさんは、そのまま笑みを崩さず、むしろより口角を上げた。


「君を責めるわけではないんだけど、君のせいで鬼塚くんの家は本当に危ないみたいだよ」


「鬼塚……くん」


 そこで思い出した。僕が対峙したあの鬼を。そして僕は己の身体を見て、理解した。全身包帯で巻かれた僕の身体が語る。身体に残る鈍痛が語る。


 僕は、負けた。もっと言うと、ワンパンされた。


 どうしようもなく、負けたんだと。


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