鬼達の人情話ー鬼塚一族ー
受験シーズン突入!
次回予告!
ついに本物の鬼と戦うしおん
苦戦するしおんに新たなる力が!?
次回!
『目覚めた力!コレゼンブデマカーセ!』
次はいつになるのか!
全く不明!
感想があったら少し書きたいかな!
001
人生は長い。
誰がなんと言おうとも、長いのだ。
それを短いと言うのはただの反骨精神というか、長いものに巻かれるのが嫌な人達なのだろう。
僕は巻かれるのが嫌いなわけではないし、むしろ、巻いて巻いて、僕を一生包んでいてくださいと懇願しようとすら思う。
姉貴とセットならなお良い。
とまぁ、こんな話をするのはなぜかと言うと、僕はこう言いたいのだ。
お前らヤのつく自由業に関わったことあるか?と。
あるといった君、僕も今日から君たちの仲間だ。
無いといった君、これからも無いといいね。
てなわけで、本題だ。
僕は今、屋敷の中央部、大広間とでも言えばよいのだろうか?
とても広い部屋に連れてこられた。
前には簾がかかっており奥が見えない。
大河ドラマで城主がその姿を隠すように作られた簾だ。
そして僕は客人だ。
はい、そうです。
僕は今、城主側の立ち位置におります。
「こちら側からもよく見えないんだ…」
そんな感想をこぼす。
僕の『超視力』に透視能力があれば、と思う。
先が見えないのは不安になるから。
一寸先は闇、ただしブラックホール。みたいな!?
…テンションをあげようとしたが無理だ。
「何かが間違っているよこの家」
率直に感想を述べる。
「お客人、お待たせして申し訳ない、少し立て込んでいるので手間取った」
低く重量感のある声だ。
そしてなぜだか懐かしい感じもした。
人に安心感を与えるというか、聞いていて安らぐ声だ。
「えーと…、いえいえこちらこそお忙しいなかお邪魔しちゃって申し訳ないです」
低姿勢できた相手に低姿勢で返すのが日本人の多くである。
「お邪魔なんてとんでもない。私たちにはあなた方の力が必要なのです」
なにも知らない相手をよくここまで信用できるものだと思う。
「そんな大層な力を持ってるわけではないのですが…」
「またまたご謙遜を。この町の怪異を次々に倒しているのだとか」
「はぁ……まぁ」
「少し前にはあの『赤マント』を倒したとか」
「いやぁ……それは…」
「あげくの果てには世界征服を目論んでいるとか」
「ちょっと待て」
アイツはどんなホラ話をばらまいてやがるんだ。
それじゃまるで僕が悪人みたいじゃないか。
「あんまりネットの情報を信用しない方がいいですよ」
ネット上にはろくなやつがいない、アイツを筆頭にして。
「いや情報屋本人から聞いたのだが」
「なんてアクティブ!」
あんな弱そうなのに、きっと個人情報とかもバレバレだろう。
「とても強そうなお方だった。あった瞬間に身構えたのは久々だ」
「あの人かよ!」
そりゃそうか。
シスコンなあの人が妹を危険な場所に行かせるわけないか。
スラム街にATMをつくるようなもんだ。
閑話休題
「…僕はまだほとんど話の現状を聞いてないのですが…、情報屋の人から説明を受けるように言われたのですが…、もしかして聞いてないですか?」
「いえいえ、聞いてます。これから一から十まで、何もかもを話しましょう。この『鬼塚組』の全てを」
渋い声の男はそれに続け
「まずは自己紹介からといきましょう。私は『鬼塚組』次期組長の……」
挨拶と共に簾が上がる。
そこで僕は思い出した。
この声を、この低く渋い声を。
あの心優しき
「鬼塚友護と申します」
友人を。
002
バサッと上がりかけていた簾を無理やり戻す。
「……お客人、どうなされました?」
「いやぁ!なにも!ただ少し電話させてくれませんか!」
「構いませんが……」
急いで携帯から奴のアドレスを引き出す。
本当は一生このケータイからはかけたくなかったが、今は緊急事態。
あとで解約すればいい話だ。
呼び出し音が鳴る。
「♪〜♪、はい、もしもし神音ちゃん?どうしたのてかこれ神音ちゃんの番号だよねやった嬉しいこれから毎日一時間毎にかけるから朝から次の日の朝まで俺様と一緒に愛をかたろうぜぇ」
「うるせぇよ!話が違うぞてめぇ!」
お互い譲ることのない第一声だったと思う。
「話?はてさて俺様がいつ鬼塚友護君が怪異に襲われたなんて言ったかな?」
「くっそう、コイツやはりわざとか!」
いや知ってたんだけど。
「ま、乗り掛かった船だし、よろしく〜」
「まてまてまて、今から僕はこの屋敷から逃げ出すつもりです。幸いまだ顔は見られてないので、がんばって……」
「100人」
そう言って、いろはさんは僕の話を遮った。
「今この屋敷にいる裏事業の人の人数。+して、逃げたら……」
「逃げたら……?」
ゴクリ……
「お兄ちゃんを呼びます」
「卑怯だぁ!いやまて、それは虎鉄さんがこの仕事をやってくれるって……」
「お兄ちゃんに神音ちゃんを襲わせます」
退路をたたれた。
というか退路に虎が寝ている。
裏事業の方を100人率いて。
「……俺の吸血鬼のことは話してもいいんでしょうか?」
「大丈夫だよぉ。お互い似た者同士だし、まぁ決定的に違うんだけど」
「は?」
「詳しく聞けばわかるよ。じゃね」
プチッ、と通話が切れた。
静寂が戻る。
「よろしいかな?」
鬼塚君はまだ僕だと気づいてないようだ。
「えーと、名乗り遅れて申し訳ないです。僕は……」
簾を持ち上げ「いらっしゃーい♪」な感じになってるが、自己紹介をする。
「梛川神音です」
そして時は再び止まる。
003
5秒ほど時が止まり、そして鬼塚君の顔が無表情のまま
「……わ、私の名前は、た、田中裕一デス、ヨロシク…」
と言った。
「今さら誤魔化すのは無理じゃないかな…」
だいたい顔見ちゃってるんだし、名乗っちゃってるんだし。
「…なぜ梛川が?」
取り繕うのはやめたらしい。
「嫌な情報屋に鬼塚君の家が大変なことになってるって聞いてね。鬼塚君が怪異に襲われたのかと思ったら、違うみたいだ」
事情を説明しても、やっぱり納得いかない顔だ。
「質問が悪かった。梛川、お前何者だ?」
あぁ、どうして僕がここにいるのかを聞きたかったのか。
「僕は吸血鬼と人間のハーフで、友達が困っているのを助けたくなるんだ」
大事なことはさらっと言うのが僕の信条だ。
「吸血鬼だと?『鬼薔薇の会』の実質的トップの?」
「ねえ『鬼薔薇の会』ってなんなの?急に話に絡めてきて、流石にこまるんだけど」
「なんの話だ?」
「大人の話」
閑話休題
「そうか、梛川は俺を助けるために…。それは申し訳ないことをした」
額を畳につけ土下座する。
「やめてよ鬼塚君。好きでやってるんだから」
「しかし、いや、これ以上とやかく言うのは野暮だな。では梛川、いや、お客人。事情が変わったかもしれないが俺達の話を聞いてくれるか?今実は……、大変困っている」
申し訳なさそうに話す鬼塚君からは、真摯に助けを求めている雰囲気が現れている
もちろん僕は
「ぜひもない」
と答えた。
そして鬼塚君は語り出す。
『無邪鬼』の、『鬼塚組』の全貌を。
004
まずは俺達からの要求、俺達の目的から話させていただく。
兄を救ってほしい。
これが俺達の願いだ。
『鬼塚組』というのは『無邪鬼』という怪異から生まれた集まりで、世を正そうとする鬼の集まりの『1つ』だ。
ここでわざわざ『1つ』と言ったのには理由がある。
つまりもう『1つ』、『無邪鬼』の集まりはあるのだ。
それが『鬼塚会』だ。
この2つを大きく分けるとしたら
『鬼塚組』は人情を
『鬼塚会』は秩序を
ともに守り抜く。
2つをあわせて『鬼塚一族』なんてよんでいて、その本家もこの場所が兼ねている。
そして兄は『鬼塚会』の会長、まだ若いが志は誰よりも高い。
『吸血鬼』が血で繋がる『鬼』であるように、『無邪鬼』は魂で繋がる『鬼』なのだ。
そんな兄が、『狂鬼化』しかけている。
『無邪鬼』はその名の通り、邪気のない鬼だ。
しかし『鬼』であることに変わりはない。
『無邪鬼』は『邪気』に触れると『悪鬼』になる。
純白の心は、ほんの少しのシミでも純白じゃなくなる。
人間はそこらへんの折り合いをつけるのが上手いが、我々には不可能だ。
一度悪を知ったら、狂気は止まらない。
兄は今、警察に勤めている。
捕まったとかではなく、職業が警察なだけだ。
『鬼塚会』の者はだいたいがそう言った職業に就いている。
法律家、政治家、警察…、恐らく日本の中でその手の職種に就いているものの4割は『鬼塚会』だ。
やや異常に見えるかもしれないが、事実だ。
『無邪鬼』は邪気のない鬼。
そして、邪気を嫌う鬼。
つまり、『悪』を嫌うのだ。
正義感が強いのもその特徴だ。
神音殿をここまで案内した鬼丸もその一人。
まぁ彼は少し立場が特殊だが。
話を戻す。
その職場で恐らく兄は『邪気』にあてられた。
その原因は分からないが、このままだと兄は『悪鬼』になってしまう。
そこで戻すための禊を行う。
そのセッティングを手伝って欲しい。
セッティングというか、時間稼ぎを、だ。
禊には兄がいる場所で、最低五人の『無邪鬼』が必要だ。
そして『無邪鬼』のうちの一人がーー恐らく鬼丸になるだろうがーー『同調』するまでの時間が。
生憎、俺は参加できそうにない。
頼む、兄を助けてくれ。
005
そうやって再び畳に額をつける。
「1つだけ、1つだけいい?」
「なんだ?」
「どうして、鬼塚君がやらないの?」
魂で繋がるというのなら、鬼塚君こそ適任に思えた。
『怪異』とはそのようなものだから、繋がりが重要視される。
少し顔を曇らせ
「やらないのではなく、やれんのだ」
そう答えた。
「『無邪鬼』は一応『鬼』だ、と言ったが、それは生来の気質だけでは消せないのだ」
鬼塚君の顔が陰る。
「俺達は齢が6になるまで名前を貰えない。そして、生まれてから6年間、一族の子供と遊ぶのと同時にに道徳のようなものを学ばされる。」
随分前衛的な英才教育だな。
「そして6歳になったとき、婆様という名付け人と一対一で1日過ごす。そこでいろいろ聞かれ、最後に「お前は何を守りたい?」と聞かれるのだ」
英才教育なんてレベルじゃねぇなコレ。
この家はやはり特殊だ。
少なくとも現代の日本では考えられないレベルで。
「そこで俺はこう答えたのだ」
一息ためてこう言った。
「友達を守りたい、と」
その顔はとても清々しく、凛々しい顔つきであった。
「『無邪鬼』は名前で『邪気』を完全に閉じ込める。鬼塚にとって名前は命をつなぐもの。その者の人生の大きな指針となるものなのだ」
「へぇ、最近のバカ親どもに聞かせてやりたいね」
DQネームと言うらしいが。
初めて聞いたときで友達に「あぁ、レベッカとかね」と
知ったかぶって恥をかいたのを思い出した。
「その名に沿った意味でしか、力を使えないように封印される。鬼の力が暴走しないようにな」
鬼塚友護。
友を護ると書いて友護。
母さんが名前を見ろと言ったのはこう言うことか。
この鬼達は、人間を護るために自らを縛っている。
彼らこそが正義の体現者なのかもしれない。
まぁ、そのわりにさっき面白い名前を名乗っていたが。
「それがなぜ、今に繋がるのかが分からないんだけど…」
「つまり、その……」
すこし俯きながらぼそぼそと喋る。
「今回は………が誰も傷ついてないんだ……」
「……は?」
「だから、……俺は!」
もしかして……
「友達に害が出ないと力を出せないんだ!」
……なんじゃそりゃ。
「なに、その超主人公的縛り、いやまぁ僕も人のこと言えないんだけど」
ただ違うとしたら、僕のは主義的で、鬼塚君のは命令的だ。
「僕のは最悪、自分の意思をねじ曲げればいいしねぇ」
そこまで意固地にはならない、なれない。
「まったく情けない、次期頭領だって言うのに……」
鬼塚君が自己嫌悪に陥っている。
そこでもう1つ気付く。
「現在の頭領さんは?」
「……親父なら今は北海道かロシアかだ」
「そんな曖昧な!」
「世の中には曖昧にしといたことがいいこともある」
「その言い方はもっと曖昧にしたほうが良かったかもね……」
僕も困る。
「というか、なんでそんな遠くに?」
いくら正義感が強いとはいえ、そこまでやるものなのだろうか?
「もちろん己の正義のためだ」
うんうんと頷く。
彼らの正義感は底なしらしいな。
昔の僕もそんなことを考えていたかもだけれど、成長するにつれて、そういうことを考えなくなったなぁ。
それが彼らの言うところの、折り合いをつける、ってことなのだろうか。
人生に、価値観に、正義感に、折り合いをつける。
そんなことを考えると案外彼らの幼いうちからの教育は的を得ているように思える。
「1つ聞くつもりが2つ聞いちゃったね、でもまぁ、大体事態は把握できた」
お家の内情にはあまり触れないほうがよいというのもわかった。
「それじゃその作戦はいつやるの?」
「今で……、なるべく早いほうがいいな」
今絶対アレ言いそうになったぞコイツ。
「……じゃ今晩のうちにやれる?あんまり時間かけたくないし」
鬼塚君が驚いた顔をする。
「そうか……、よし、わかった。お客人を信じて今宵決行しよう」
そんな信用されてもこまるんだけどね。
だけど、『吸血鬼』になればすぐに終わるだろう。
それぐらいには自信がある。
「では今夜の12時に、この家の前に来てくれ。兄の居場所は把握している」
そういって再び額を畳につける。
そして僕は1度家に帰ることになった。