鬼達の人情話ー『鬼』の家ー
001
「鬼塚…ですか」
鬼塚。
その名を僕は知っている。
あの大きくて優しい、友人だ。
そういえば今日、鬼塚君からメールはきていたか?
いや、クラスのほとんどの人からきていたが、鬼塚君のはなかった。
あの『鬼』は鬼塚君だったのか?
昨日のあの『鬼塚組』というのは…。
「そぉ、君の周りにもいたよねぇ。確か…鬼塚友護君だっけぇ?」
音声しか聞こえないとは言え、今アイツが笑っているような気がするのは気のせいではないだろう。
いつもならそんな創造したくもないが、どうにも動揺しているらしい。
「…これはあなたが仕込んだものじゃないですよね」
一度落ち着くために無意味な質問をする。
「当たり前だよぉ。これ以上好感度下げたくないし。でも、まぁ、結果として、…『理由』はできたねぇ」
そうなのだ。
あのような啖呵を切ったからには。
いや、あれがなくても。
「…『怪異』の情報、出現条件、退治、いや、封じ込むか?まぁなんでもいいです。『戻す方法』を教えてください」
「うん♪」
やらなくてはいけない。
友達を守る、救うという、僕の呆れた志を。
あの先輩からの忠告を忘れたかのように。
002
「とりあえず、これから俺様が言う場所に行って。そこで、俺様より事情を詳しく知る人から話を聞いて」
それだけ言うと、アイツは電話を切った。
「神音?どうしたの?」
姉貴が心配な顔で見ている。
「大丈夫だよ。ただ、今回は夜まで待てなさそうだ」
そう言って僕は早速着替える。
「えぇー。まだクエストは終わってないのにー。いろはに何言われたの?」
姉貴が寝転がりながら言う。
「今回はまた友達が関係してるらしいんだ。ほっとけない」
姉貴は嫌そうな顔をする。
「この時間帯じゃ外出れないよ〜」
まだ夕日が顔をのぞかせている時間帯だ。
「じゃあ留守番してて。大丈夫、夜には一回帰ると思うから」
さすがに生身で『怪異』と殺りあおうなんて、人間には無理だ。
いや、『普通の』人間には、か。
「それならいいけど…。気をつけてね」
「うん。行ってくる」
そう言って僕は姉貴の部屋を出た。
003
階段を降りると、お母さんが夕飯の支度をしていた。
「お母さん、少し出掛けてくる。晩御飯はいらないから」
「神音」
母さんに呼び止められた。
おつかいでも頼まれるのだろうか…。
「神音、どこに行くのか知らないけど、なんだか嫌な匂いが外からしてくるの。気をつけなさい」
「…え?」
初めて母さんの口からそういうことを聞いた。
「神音には『鬼』の匂いなんて言っても分からないだろうけど、とにかく、危ない奴らがいるかも。だから気をつけて」
「いやいや、危ない奴らって…」
「『鬼薔薇の会』には一回痛い目見させたし…こないとは思うんだけど…。まぁ、神音なら大抵の『怪異』なら勝てるだろうし、転ばないように、みたいな軽い注意ぐらいに聞いといて♪」
母さんや、『鬼薔薇の会』とか初めて聞いたよ?
なにそれ次回への布石?
しかし母さんの言うとおり『鬼』が相手なわけだし…。
「…母さん、『無邪鬼』って知ってる?」
「『無邪鬼』?あの美白な鬼のこと?」
美白なんだ…。
「どんな『鬼』だか知ってる?」
「そうだねー、無害、だね。人畜無害ならぬ鬼畜無害ってやつ?しかも『鬼』の中でも五本の指に入るくらい強力だからさ、他の『鬼』には嫌われてたよ」
「どうして?」
「神音はやる気のないくせに器用になんでもやるタイプでしょ?そんな神音に言っても、ましてやそんな神音のお母さんが言っても分からないだろうけど、そういうのって結構嫌われるらしいよ」
「へぇ…」
よく分からないが、嫉妬のようなものだろうか。
『鬼』にも嫉妬心とかあったんだ…。
「まぁお母さんにも『無邪鬼』の知り合いはいるんだけどね、面白いよ♪『無邪鬼』に会ったら、名前をよく見てみなさい。それが『その人』だから」
母さんは最後に『鬼』ではなく、『人』と言った。
それはわざとなのか、勘違いなのか。
その時は確かめるのが億劫で確かめることはしなかった。
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
暗い廊下の奥から母さんが手を振るのが見えた。
004
「ケータイのGPS機能を使って、いろはさんに言われた住所にやってきたわけですが…」
100メートル位前から徐々に足が重くなっていくような感覚に見舞われる。
それもそのはず。
「ここかよぉ…」
そこはとても大きな屋敷だった。THE日本家屋。
え?前も聞いた?
うん、僕もだよ。具体的には16時間ぶりくらいかな?
「はぁ…」
昨日の夜、いや今日の早朝か。
天羽さんが消され(強制的に徐霊されただけ)、僕が危うく解剖実験(被害妄想です)されそうになったあのいわくつきの屋敷だ。
その屋敷の門の前に今僕は立っている。
門は閉じられたまま、チャイムらしきものもなく、少し途方にくれていた。
「えっと、確か合言葉を言えば…て誰にだよ」
1人ツッコミをしてしまった。
「おや?君は…」
ビクッと体が飛び上がる。
「あぁやっぱり、無事だったんだね。ハーレム気味の少年君」
後ろを振り返ると、グラサンに黒のスーツという、やっぱりヤ○ザっぽいお兄さん、確か名前は…。
「えっと…、鬼丸魁人さん?でしたっけ?」
「そう、よく覚えてたね。ハーレム気味の少年君」
「昨日ハ僕ハ1人デシタヨ?」
「まぁそうしとこうか。で、何か『鬼塚組』にようかい?」
やっぱり怖いな…。
「えっと…『黒を白にする為に来ました』。です」
よくわからない合言葉だ。
政治家とか言いそうだけど。
「えっ!?君が情報屋が言ってた助っ人?」
「えっと…たぶんそうですね」
お兄さんは少し考える素振りを見せるがすぐに態度を改めた。
「お客人とは露知らず、失礼な態度をとり、まことに申し訳ない。今すぐ中でお話を。準備はすでにできております」
顔が引き締まり、さらに厳つくなる。
お兄さんが手を二回叩くと門がゆっくりと開き始めた。
「こちらが『鬼塚組』の総本山。『本家』でございます」
門の奥には同じくグラサン、スーツの本職の方がずらっと左右に直立に並んで、いっせいに頭を下げた。
「「「ようこそ、『鬼塚組』へ。お客人!!!」」」
あ、やべぇ帰りたい。