鬼達の人情話ー『無邪鬼』ー
感想待ってまーす。
001
というわけで、不本意ながら速めに家に帰ることになってしまった。
家には姉貴がいるから、楽しいんだろうけど、なんだか複雑な心境だ。
はたして、今日の欠席は出席停止的な処置は受けられるのだろうか?
それが心配だ。
最悪アイツに言えばどうにかなりそうだが、それも嫌だな…。
ケータイには中学の友達だけでなく、小学生の頃の友達からも「手術がんばれ!」等の応援メールがあったことも、今の心境の原因の一つだろう。
そうして悶々としてる間に家の前まで来てしまった。
「姉貴や母さん達はアイツのこと知ってるし、とりあえず前向きに姉貴と遊ぼうか!」
電話してくるのは夕方ぐらいだと思うし!
「たっだいまー!!」
勢いよくドアを開ける。
ドアを壊す勢いでドアを開ける。
未来の不安の全てをドアを開けるという行為に注ぎ込んだ。
勢いに反して静かな玄関。
「そういえば、なにも言わず突然帰ってくるのって初めてかも」
お母さんと姉貴がこの時間帯になにしてるのか、すこし気になった。
足音を忍ばせて、リビングへ。
「さっきので気づいたかな…」
普通の人なら気づくだろうが、お母さんはたぶん気づいてない。
そこらへん鈍いし。
「……そぉっと…」
静かにリビングのドアを開ける。
電気もつけていない暗い部屋でテレビの音だけが響く。
「あれ?お母さんどこだ?」
どうやらリビングにはいないようだ。
すこし他の部屋を探してみると物置部屋から、音が漏れている。
「この部屋か?」
ゆっくり開ける。
「はぁ……。しおんったら…。」
気づかれた!?
身をこわばらせたが、よく聞いてみると独り言のようだった。
「昔はこんなにちっちゃかったのに…、あんなに大きくなって…」
どうやらアルバムかなにかを見ているらしい。
「二人とも昔は生意気で言うこと聞かなくて、かんななんて「しおんなんて大キライ!」とか言ってたのに、今は私とあの人みたいにラブラブなんだから…」
なんかこういうの恥ずかしいな…。
「本当に、幸せねぇ。あの人についていって、大正解だったわ」
あの人というのはお父さんのことだろうか。
二人の馴れ初めも聞いたことないな…。
きっと複雑なんだろうけど、聞きたいな。
「はぁ…、本当に二人とも…」
親の愛をここまでダイレクトに受けると、なんだか涙がでそうになった。
と同時に、いい加減むず痒くなったので、帰宅を告げようとした…。
「食べちゃいたい…」
けど、ジュルリとよだれを啜る音が聞こえたので止めた。
「きっと美味しいんだろうなぁ。なんといっても、私とあの人の子供なんだから」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
食べちゃいたいくらい可愛いとかじゃなくて、食べちゃいたいくらい美味しそうって言ったよこの人!
近親相姦通り越してんぞ、この母親!
この流れでただいまとか言えないよ!
言ったら、「今の聞いてた?…」ルートに入る予感!
玄関からやり直そう。
そして今のはなかったことにしよう。
そう考えて、またゆっくりと玄関へ戻った。
002
章も変わって心機一転!
僕は家族に普通に愛される、ただの少年!
決して家族に命を狙われたりはしてません!
…よし。
「ただいま!!!」
さっきの10倍くらいの声をだす。
「あれ?今日って午前授業だったかしら♪」
そう言って奥から食人…母さんが出てきた。
「た、ただいま!き、今日はわけあって速く帰ってきました!」
「そう、わけあったなら仕方ないわね…。お昼はどうする?」
「お、お昼!?」
「そうだけど…。なんか、挙動不審だよ?隠し事でもあるの?」
「いやっ!ないけど!」
「隠し子いる?」
「いるかっ!」
まあいいわ♪、と言ってリビングに入っていった。
「さっきのは悪い夢だ、大丈夫!」
なんとか持ち直した。
昼飯ができるまでにはまだ時間がある。
「よしっ!姉貴の部屋に行こう!」
しかしこの時僕は気づいてなかった。
あんなに大騒ぎしたのに、姉貴がなんの反応も返してくれないことに。
いつもならまっさきにおかえりをいいに下まで降りてくるのに。
003
「あっねきー!帰ったよー!」
ハイテンションで姉貴の部屋に突撃した。
いつもの10倍のテンションで。
しかし、そこに姉貴の姿はなかったーーーーわけではない。
さっきあんなに分かりやすいフラグを立ててしまい申し訳ない限りだが、姉貴は普通に部屋にいた。
普通に起きていた。
普通にゲームをしていた。
そしてーーー異常に集中していた。
「あ、姉貴?」
「…………」
おそるおそる声をかけるが反応はない。
ただリ○レウスの鳴き声だけが響く。
ここで今一度部屋の描写について、話そう。
窓らしい窓がない部屋。
その造りはオーダーメイドらしいが、詳しくは知らない。
そして部屋の中央に置かれてるベッド。
いつも朝起こしにいくと姉貴が甘ったるい声で時間と天気を聞いてくる。
そしてその隣。
学習机と椅子があるのだが、そこに姉貴は今現在すわっている。
そして黙々とモンハンをやっている。
それを後ろから驚きの視線で見つめる僕。
こんなところだ。
「あのー、姉貴?」
「………」
「姉貴?大丈夫?」
「………」
どうにも聞こえていないようだ。
これは何らかのアクションを起こせという神からのお告げかもしれない。
そう思い僕はすこしイタズラをしてみた。
「えぃっ」
モニュモニュ。
なんとも形容し難い柔らかな感触、心をくすぐる弾力、そしていけないことをしている背徳感。
そう、僕は乳を揉んだ。
パイオツにタッチした。
ほんのイタズラ心で、いきなり脇を擽るような感覚で。
しかし姉貴は。
「………」
なんの反応もしめさない。
「???」
機械的にリ○レウスを狩る手の動作だけが唯一姉貴の確かな意識を確認できる。
てか…えぇ…。
「姉貴二人プレイの時はあんなに楽しそうなのに、ソロプレイだとこんな風になんの…?」
結構ショックだ
昔の姉貴を思い出す。
でもいつまでも無視されるのは心外だ。
「姉貴!帰ってきたよ!」
「…さっきから五月蝿いな。今生死をかけたバトルしてんの。少し黙ってて」
わーお、こんなの姉貴じゃねぇ。
「そんなこと言わずにさ、スリープモードにすればいいでしょ?珍しくこんな時間に帰ってきたんだから、遊ぼうよ」
「これはゲームであっても、遊びではない。故にスリープモードになどできない」
やべぇ、将来革新的なゲームシステムを開発して、自らの欲望のために何万人もの命を犠牲にしそうな発言だ。
「姉貴、いい加減にゲーム中断してよぉ」
少し強引に肩をひく。
その瞬間、姉貴の背中からいくつもの細長い槍状の物体が服を破り、一斉に僕の体を貫かんばかりの勢いで突いてくる!
「ちょっ!姉貴!」
「少し待つことも出来ないのか無能。そのまま動くな。動いたら刺し殺す」
僕の肌に触れる寸前で槍状の物体は止まった。
これは吸血鬼の『能力』を使ったんだろう。
絵的にとてもグロテスクだ。
そのまま確かな殺気を僕に向け、ゲームを続ける。
そして5分後。
リ○レウスをなんとか狩り終えたらしい姉貴は槍状の物体を消し、一息ついた。
そして後ろで固まる僕を見てこう言った。
「あれっ!?しおん!?いつからいたの?なんでいるの?というかいたなら言ってよ!」
「いや、話しかけたけど…」
「えぇー嘘だー。全然気づかなかったよ?というか、やけに背中がスースーするんだけど…」
完全にトランス状態だったらしい。
自分で吸血鬼の『能力』を使ったことすら覚えてないようだ。
「まぁ全部忘れてるなら結果オーライか…」
「なんか言った?」
「いや!なんでもないよ」
忘れてもらったままの方が良いこともある。
「今日はちょっと厄介事に巻き込まれて早退したんだ」
「それってイジ…!」
「イジメじゃないから。いろはさん関連だから」
チッと小さく舌打ちしたように聞こえたのは気のせいだと信じたい。
「いろはってことは…また怪異?昨日の?」
「詳細は聞いてないけど、たぶんそう。今日の夕方くらいに電話が来ると思うから」
「私はもうしおんが傷つくの見たくないから」
姉貴が真剣な眼差しで見つめてくる。
「…わかってるよ」
「あと女の子連れてくるのも見たくないから」
「急に私情になったね…。わかってるよ。天羽さんのことは僕も想定外だったんだし。というか、僕だって姉貴が傷つくの見たくないから」
「そんなこと言ったって、私の方が夜は有利なんだし。
この前は寝ちゃったけど、今回は私も手伝うからね」
…ココアの用意をしておかなくては。
「とりあえずお昼ご飯食べよう。姉貴もまだでしょ?」
「うん♪」
そうして僕と姉貴は昼飯を食べに下に降りていったのだった。
004
姉貴とお母さんと昼飯を食べた後、僕は姉貴と今朝のゲームの続きをした。
二人プレイの時は本当に楽しそうで、それが少し怖かった。
もうあんな姉貴は見たくない。
そして夕方。
狙ったのか、偶然だったのか、4時44分ぴったりに姉貴の携帯電話が鳴った。
「姉貴、アイツに番号教えてたの?」
「教えないとしおんの番号聞くって言うから仕方なく…。でもかかってきたのは初めて」
ディスプレイには『アイツ』の名前。
「僕が出た方が良いのかな…」
「少なくとも、私は出たくないな」
「…はぁ」
仕方なく僕がでた。
「もしもし」
「あっ、もしもし?かんなちゃん?」
…僕と電話した時とのテンションの差はなんなんだろう?
「いや、僕です。梛川神音です」
「お!しおんちゃんだったか♪
元気してるぅ?」
「誰かさんのせいで生死をさまよってます」
「それは大変だねぇ。今度こらしめとこう」
「ぜひお願いします。なんなら僕も手伝うんで」
吸血鬼の全力を使ってもいい。
「それじゃあ、今この町に現れている『怪異』、そうだねまずは名称から話そう」
そして『アイツ』の口から、あの『怪異』についての説明が始まった。
005
いま町にいる『怪異』は、君達『吸血鬼』と、ある意味近く、そして根本的に違う。
そう、『鬼』だよ。
でもただの『鬼』じゃあない。
彼らは伝承上で色々な風に呼ばれている。
善鬼、白鬼、一部の地方では『神』として崇められたりしてる。
その最も正しい呼び方はこう。
『無邪鬼』(むじゃき)。
その名の通り、邪な感情は一切なく、本当に『鬼』なのかすら疑問をもたれる。
これから話すのはその『無邪鬼』の伝承の1つだよ。
この『怪異』は珍しく人間と共存した『怪異』でね。
そのせいで彼らは傷つき、蔑まれ、『鬼』からはぐれた『鬼』なのさ。
それじゃ、昔話の始まり始まり。
006
『泣いた赤鬼』という話は知っているだろうか?
人間の友達を作りたかった赤鬼に、赤鬼の友達である青鬼が、一芝居うって赤鬼に人間の友達を作らせる話だ。
映画版ジャイアンみたいな効果を利用したんだっけたかな。
見事成功して、赤鬼には人間の友達ができた。
しかし青鬼は、赤鬼が人間の友達を失うのを恐れ、赤鬼の前から去ってしまう。
そしてその時、赤鬼は自分が本当に大切なものを失ったことに気づく。
青鬼という親友を。
ここまでは知っているだろう。
しかしこの話には続きがある。
赤鬼は泣いた。
とてもとても泣いた。
その涙は止まることを知らず、気づくと赤鬼の体は白くなっていた。
そう、赤鬼の赤い肌は昔からの鬼達の悪行が産んだ呪いのようなものだった。
しかし今、赤鬼は今までの鬼達とは違う、優しい心をもつ鬼になった。
その涙が体に染み付いた呪いを消し去ったのだ。
まったくどこのドラえもんだって話だし、最初から最後までドラえもんだったってわけだ。
その後、白くなった赤鬼、『無邪鬼』は人間を守るために働いた。
そして他の『鬼』からも少しずつ似たような者が現れた。
彼らは集まり、徒党を組んだ。
今でいう自警団のようなものだったらしいよ。
そして『泣いた赤鬼』の話は受け継がれ、青鬼の好意を忘れないために、もう一匹の優しい鬼を忘れないために、彼らは人間と交わり、こう名乗った。
「我々は鬼塚。守るべき者を守る為に生まれた」
とまあ、怪異の説明をしたところで終わりました。
次の更新なのですが、実は最初の方の話を読んでいたら、どうにも書き直したいところがいくつも出来たので、しばらくはそちらにつきっきりになりそうです。
でも終わり次第更新するので、待っててくれるとありがたいです。
あと感想…、いやなんでもないです。