表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

鬼達の人情話ー兄と妹と弟(と姉)ー

よいお年を!

001


場所は前回と変わらず学校の保健室。



目の前のソファーには仏頂面をした虎鉄さんと満面の笑みのいろはさんが座っている。


「まずはしおんちゃん、おはよぉ」


「…おはようございます」


朝から心と身体に暴行を受け、僕はもう泣きそうだった。


しかし家には僕の帰りをまつ姉貴がいる。


僕もう少し頑張るよ!


「いろはさん、いくつか確認と質問をして良いですか?」


「いいよぉ、しおんちゃんからの質問ならなんだって答えちゃうよ。昨日の晩御飯から俺様の女の子の日まで、なんでもきちゃいな!」


気持ち悪いなぁ。


「……、まず確認を。その3本傷の男の人はいろはさんの兄、神取虎鉄さん、あってますか?」


「あぁ、俺はこの女王様の兄だ」


今度は虎鉄さんが答える。


「では質問を。なぜ『女王様』とか『奴隷』とか兄妹らしからぬ言葉を?」


「俺がいろはに仕えているからに決まっているだろう」


ふん、とさも当たり前のことを言っているような口ぶりで話す。


しかしこの話から推測すると……。


「いろはさん、僕は普通の趣味なのであなたの趣味にはついていけなさそうです」


これで僕を諦めてくれれば…。


「お兄ちゃんの話はあってるけど、しおんちゃんは重大な誤解をしているよぉ!俺様にだってそんな趣味はないし、その疑いをかけられるべきはしおんちゃんでしょ!」


ビシッとこちらを指差す。


「な、なんのはなしですか?」


「まったく、しおんちゃんは。何を真面目にかんなちゃんと結婚する方法を探しているの!検索履歴に『兄弟 結婚 法律』ってほぼ毎回あるのを俺様は知ってるよ!」


なぜそれを…、というかアレ?


「……大丈夫、…俺じゃない…」


なんか虎鉄さんの顔色が優れない気がする。


身体を前に傾け、両手を合わせ硬く握っている。


足が震えているように見える。


汗が滝のように流れているようにも見える。


「あの、なんかお兄さんの方体調悪いみたいですよ?」


「え?」


隣を見たいろはさんは驚き、すぐに虎鉄さんの背中をさすった。


「どうしたの、お兄ちゃん!?汗が凄いよ!?」


「いやぁ、大丈夫だ。俺はちゃんと履歴を消してあるから…」


瞬間、空気が凍った。


凍った空気が溶けるには時間にして十秒、体感的には一時間くらいかかった。


最初に言葉を発したのはいろはさんだった。


「…しおんちゃん、少し待ってて。」


そう言い残していろはさんは保健室から出ていった。


そして沈黙が五分ほど続き、スライド式の扉が開く音と共にいろはさんが帰ってきた。


「待たせたねしおんちゃん♪あと…」


一呼吸置いてた後


「後で話があるから、虎鉄兄さん」


と、いつもの高い声とは反対の低い声を怒りと共にぶつけた。


その目はジト目というか、蔑んだ目というか、その類いの視線になっている。


先ほどまで、力で満ちていた虎鉄さんの目には、絶望や後悔と言った負の感情しか浮かんでいない。


「まあ…愛の形は人それぞれですよね。僕は良いと思います。兄妹の禁断の愛」


一応フォローしておいた。


僕にも思うところがあったりなかったり。


「お兄ちゃんもだけど、しおんちゃんはそろそろ姉離れすべきじゃない?」


「いやでも、家族なんだから、仲が良いのは大事ですよ」


「『梛川神音』…お前…」


まるで仏を拝むように僕を見つめる。


「元気だしてください。さっきまで殴りあいしてましたけど、姉や妹が好きな男に悪いやつはいません。家族を愛するのは普通のことです」


「そう…だよな。家族だもんな!」


絶望が浮かんでいた目には、今はもう、十年来の親友にあったような柔らかな光が宿っていた。





「なんでそこの二人が仲良くなってんの。俺様だけおいてけぼり?」


今までの人生で初めて同じ趣味嗜好の人に出会えたんだ。虎鉄さんとは一生涯の友達になれるだろう。


「しおんちゃん、話戻して」


もはや諦めが表情に見えるいろはさんが脱線していた話を戻そうとする。


僕としてはサブタイトル通りに兄弟姉妹の愛について語りたいのだが、それはまた今度にしよう。


「これは関係ないかも知れないんですが、いろはさん一人称変えてますよね?」


さっきから気になっていたのである。


俺様だったり私だったり。


「俺様キャラがきついのもわかりますけど、勝手にキャラを変えないでください」


「しおんちゃんは誰の目線でものを言っているの?まぁ一人称を変えてるのも一応理由があるというか…」


「その事について話すとしたらもう少し先の話になるだろう。この先もお前がいろはとつきあっていくならいずれ分かる」


僕としてはつきあうつもりは全くないのだが。


「ならいいです。三つ目の話に入るのにだいぶ時間がかかりましたが、本題はこれからです。なぜ『僕に攻撃してきたのか』。まずこれが聞きたいです」


やっと真面目な話の雰囲気になってきたのがよほど嬉しかったのか、いろはさんが嬉々として話し始めた。


「俺様もお兄ちゃんが喧嘩吹っ掛けるとは思わなかったよぉ。俺様はただ『私の新しい騎士の梛川神音を連れてこい』って命令しただけなんだから」


確かに連れてこられたんだが、やり方が荒い。


「すまなかったな。普段からいろはがお前を誉めていたから、実力が見たかったのだ」


落ち着きが戻ったらしい虎鉄さんが無表情で謝罪する。


しかしそんな理由で攻撃されるなんて、いろはさんはありとあらゆる場面で僕に不幸をもたらすようだ。


「いいですよ。怪我の治りは速いんで。それと最後に、さっきの質問の答えとも関係あるんでしょうけど、『目的』を教えてください。俺を呼んだ『目的』を」


とたんに空気が静まる。


この空気は…。


002


「この町にまた『怪異』が現れたみたいなんだよねぇ」


やっぱり…、絶対面倒ごとに巻き込まれると思った。


というか昨日のアレなんだろうな。


「それで?僕にどうしろと?」


とりあえず事件を知らないふりをする。


面倒だしね。


いろはさんが少し驚いた顔をする。


「どうしろって、退治してよ」


さも当たり前のことのように話す。


「いろはさん、僕は守りたい者だけを守れればいいんです。この町がどうなろうが、知ったことではありません」


そうして僕は言う。


虎鉄さんには敵わないけど、威圧をこめて言う。


「僕は正義の味方じゃない。手の届く範囲の人を守れたらそれでいい」


それが梛川神音のやり方であり、生き方だ。


めんどくさがりで必要最低限のことしかしたくないのだ。


「でも…」


いろはさんがなんとか反論しようとした。


でもそれより速く、虎鉄さんが僕の話を一刀両断する。


「ふざけるな」


僕の何倍も威圧的、いっそ殺人的と言っても過言ではない。


「手の届く範囲だぁ?馬鹿かお前は」


「ちょっとお兄ちゃん!」


「いろは、黙ってろ。こいつはわかっちゃいない。『怪異』と関わる時の心得が」


僕自身が若干『怪異』なのだが、なんだろう?


自分探しの旅にでも行けとでもいうのだろうか。


「お前が相手取ってきたのはなぁ『人間』じゃねぇ。『人間』相手なら確かに手の届く範囲とやらで十分だろう。だがな『怪異』は違う」


まるっきりなぁ、と言う。


「僕は今までそうやって戦ってきました。何が違うんですか?」


「俺は『怪異』と殺り合うときは2つしか守らない。守れない。自分の身体と…、時と場合によって変わるが、大体いろはだ。それしか確実に守れないからだ」


あれほど強い力を持つ虎鉄さんが?


「相手が『人外』の時はそうでもしなきゃまともに戦えない。お前が今までどんなやつと戦ってきたかなんて知らない。だから偉そうに言えるかわからないがな…」


「じゃあ虎鉄さんはどんな『怪異』、『人外』と戦ったんですか?」


「戦ってない。殺し合ったんだ。そうだなぁ…。


『世界を造るやつ』

『神』

『悪魔王』


この3体は強かった」


次元が違う。


そう思った。


たかが幽霊に苦戦していた自分が恥ずかしくなるくらいに。


「 『世界を造るやつ』ってのは僕も知り合いに1人います。でも他の2体は…」


「 『世界を造るやつ』ってのは、俺は逃がしちまったんだけどなぁ。だけどまぁ分かっただろ?『人外』ってのは総じて『理不尽』だ。それから何かを守るには強くあらねばならない」


いや、守るというよりは、と続けこう言った。


「こちらから攻撃しなくてはならない。『人外』との戦いの心得1、『攻撃は最低限の防御』だ。そして2は、言いたくはないが…、『危険な可能性は全て排除する』だ。これらはたぶんお前の人生において、今後『怪異』と戦う時必ずお前を助けるだろう」


いきなり先輩みたいに語られても困るのだが…。


「…覚えておきます」


一応頭の片隅に置いておこう。


「話を戻すけど、じゃあしおんちゃんはこの依頼受けてくれる?」


「…質問なんですが、虎鉄さんはどうなんです?僕じゃなく虎鉄さんでも、虎鉄さんの方が良いんじゃないですか?」


僕よりかなり強いし。


「あっ、えーと、ほら。お兄ちゃんはさぁ、家族じゃない?」


…それはあれか?


家族でもなんでもない僕なら傷つけてもいいと?


「確かに僕は前からいろはさんはそういう人だと思っていましたが、やっぱりそれは人として最低です」


「そ、そうじゃなくてね!ま、まぁ俺様にも色々考えがあるんだよぉ♪」


まったくこの人は…。


「わかりましたよ、引き受けます。詳しい話は電話でしてください」


「どうして?今話そうよぉ」


「もう僕の心臓が潰れそうなんですよ。いろはさんのせいで」


これ以上この空間にいたら死にそうだ。


それくらい疲れた。


「も、もう!しおんちゃんたら、お兄ちゃんの前でそんな…、わかった、後でしおんちゃんの家に電話するね♪」


何を喜んでいるのだろうこの女は?


そしてなぜ虎鉄さんは一段と濃度の増した殺気を僕に向けているのだろう?


まぁいいや。


「ではさようなら。僕は授業に戻ります」


「あ、そうだった!しおんちゃんは今、生死の狭間をさまよう程の重症を負って、緊急手術中ってことになってるから♪家に帰っていいよぉ♪」


「なにしてんですか!?僕ピンピンしてますよ!?」


「明日には学校来れるってことにしてるから大丈夫♪」


うちの学校はそんな話を信じたのか…。


「もう疲れた…。さようなら」


そうして僕は帰った。


家には僕を癒してくれる女神がいることを信じて。




余談だが知らない間にポケットにメモが入っていた。


そこには達筆な字でメールアドレスと一文が書かれていた。


「共に家族を愛そうぞ。神取虎鉄より」


いつの間にとかつっこむのはやめた。


「しかしなんでこんなに厄介事に巻き込まれるんだろうなぁ。あんな狂暴そうな『鬼』と殺り合うかも知れないなんて…。次こそ死ぬんじゃね?」


そんな独り言を言いながらも僕はまったく死ぬことなんて考えていなかった。


だって僕は『吸血鬼』なのだから。


夜は不死身だ。




???


「『梛川神音』にはお前の『夢』、『野望』をまだ話してないのか?」


当たり前だ。まだまだ彼は弱いから。


「今に話すよ。しおんちゃんは私の王子様になるんだから。どんどん強くなる」


「それならいい。俺はお前の俺様口調があまり好きじゃないんだ。できることなら速く『梛川神音』にも本当のお前を見せてやってくれ。…そういえば俺はあいつの戦った相手について興味がある。教えてくれ」


「ください、でしょ。奴隷なんだから。ちんけな妖怪5匹と…、『赤マント』だよ」


お兄ちゃんが少しばかり驚く。


「『赤マント』といえば、なかなか有名ではなかったか?あの男の吸血鬼の能力はそれほどなのか?」


わかってないよ、お兄ちゃん。


「『赤マント』を倒したのはしおんちゃんのお父さんだけどね、『赤マント』が最期に面白いことを言ったらしいんだよ」

「面白いこと?」


しおんちゃんのポテンシャルは。


「『あの子供が来なくて良かった。まだ無名のガキよりは『神災』に殺された方が格好がつく』ってね」


「どういうことだ?」


生物の中でもかなり上位、もしかしたら頂点。


「『赤マント』は中学一年生の少年に命の危険を感じていたんだよ」


なんていったって彼は…。


「お兄ちゃん、今年の夏は旅行に行こうよ」


「お姫様から奴隷に対しての発言には思えないな」


「あの二人の姉弟もいっしょに、ね♪」


「…あそこか、成る程。わかった、予定は空けておこう」


彼は、彼らは『吸血鬼の王族』と『最強の化物』の血を受け継いでいるのだから。


「あの二人が私の脅威になるか、はたまた私の家族になるか。全てはこれからだね♪」


生徒会室には二人。


片方は仏頂面、片方は満面の笑みで窓から外を見ている。


そこにはこそこそと学校から抜け出す少年の姿が映っていた。



なんか事件について語るの次回になっちゃった(笑)



いや、マジですいません。お気に入りから削除しないで。


まぁ次は1月の終わりか2月中旬ぐらいかな?


でもちゃんとあとがきを読んでる人は気づくだろうけど、この予告ほとんど当たらないから。


ではまた次回に。


PS、スマホにしたら意外と?使いにくい。

困ったなぁ…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ