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第17話 ランク高めのチンピラなんて社会のゴミでしかない



「え? 指名依頼? ですか? ボクに? ええと……今はまだEランクだと思うんですけど……?」


「ええ、そうなんですよ。エニシさんを指名してグリーンウルフの討伐依頼が入ってるんです。Eランクでもグリーンウルフならそこまで問題はないということで。あと討伐後は死体を丸ごと欲しいみたいです」


 カイラッドさんを別の町まで送り届ける護衛依頼を終わらせて、一度ボーダントの町へとボクが戻ったのはランクアップのためだった。


 それなのに、なぜか指名依頼が入ってた件。


 ボクは軽く首を傾げている。

 ちなみに受付のギルド職員も同じように軽く首を傾げていた。


「……それって引き受けないとダメなんですか?」

「引き受けないことも可能ですけど……」

「正直なところ、自分が従魔にしてるグリーンウルフを狩るのはちょっと……」

「ああ、そういう意味でしたか……」


 別に本気でそう思ってる訳じゃない。

 その気になればいくらでもグリーンウルフの討伐くらいはできる。


 おそらく、問題なのは……。


「……そもそも、どこでグリーンウルフを狩ってこいと?」

「ですよねぇ。このへんだと最近は見かけないって話なので」


 ……グリーンウルフの居場所なんじゃないかって思ったら、やっぱりそうだった。


 実際のところ、ボクがほとんどのグリーンウルフをテイムして森の奥地で放し飼いにしてるからこの近くにはほとんどいないと思う。


 カイラッドさんに届ける抜け毛を大量に確保するために必要だから。


 わずかに残っていたはずのグリーンウルフは討伐依頼が割と高額だったから、たぶん森の浅いところだと狩り尽くされてるんじゃないかと思う。


「……エニシさんはどこでグリーンウルフをテイムしたんですか?」


 ギルド職員がそこに踏み込んできた。


「……それに答えると思いますか?」

「ですよねぇ……タダで手に入るような情報ではなくなってますから」


 ギルド職員も無理矢理ボクから聞き出そうとは思ってないらしい。

 おかしな対応をされたら冒険者ギルドと敵対するところだったので少し安心した。


「この前、依頼の掲示板で見ましたけど……小金貨でグリーンウルフを狩ってほしいって依頼がありましたよね?」

「ああ、知ってましたか」

「そんな依頼を出したから、グリーンウルフが狩り尽くされただけなんじゃ?」

「ギルドとしても、そうだろうと考えています」


 ……まさか?


「……この指名依頼って、ボクがテイムしてるグリーンウルフを殺して差し出せって話なんですか?」

「そこはなんとも……申し上げにくい部分ですねぇ……」


 微妙な表現んんんっっ!?


 ただ、その可能性もあるんだろうとは思う。


 野生のグリーンウルフがダメなら、テイムされてるグリーンウルフが欲しい。

 そういう思考の流れ自体は理解できる。協力する気にはならないけども。


 ……テイムしたホーンラビットとか、オークとか、牧場みたいな感じで肉にしてるボクには何も言えないかもしれない。


「……ところで、指名依頼の依頼者って教えてもらえるんでしょうか?」

「オウエー商会からですね。やっぱり受けてもらえませんか?」

「受けるつもりはないです」


 分かってたけどやっぱりそうなんだ。


 そこの商会のトップは毒殺済みなんだけど……まあ、そうか。

 別に商会そのものがなくなった訳じゃないから、トップが死んでも事業は継続させようとするよな。


 当然、グリーンウルフの抜け毛は欲しいはず。


 でも、オゥ、イエー商会に抜け毛を卸す気はない。

 カイラッドさんがあっちで商会を再起させたらそこに卸すんだし。


「オゥ、イェー商会って、グリーンウルフの何が欲しいんですか? 肉はまともに食えないはずですけど?」

「あそこはボーダントの繊維ギルドでも一番大きなところなので、おそらく皮と毛だと思いますよ。肉は……何かのエサにしかならないかもしれません。もしくは孤児院とかに……」


 これも分かってたことだ。

 でも、ボクがわざわざギルドで確認することが重要。


 ボクは何も知らないってことをアピールできるから。


 毒殺だとバレてないとは思うし、容疑者にもなってないとは思う。

 それでも……できるだけ疑われないようにしとくべきだ。


「……珍しい毛になってしまったから欲しがってる?」

「グリーンウルフが珍しくなったのは最近のことですし、毛も今までは別に求められてなかったですから」


 そこでギルド職員は小声になった。


「……たぶん、新商品じゃないかと思いますよ」

「なるほど」


 ボクも小声で返す。


 やっぱりカイラッドさんの考えた刺繍糸を奪う気だったって話でしかない。それも分かってたことだけど。


 まあ、ボクが素材であるグリーンウルフの抜け毛を大量に卸さない限りは無理だろうから、その事業はもうどうしようもないはず。


「とりあえず指名依頼は断ります」

「あ、はい」

「それと、護衛依頼を終えたらランクアップって話はどうなりましたか?」

「あ、少々お待ち下さい」


 ギルド職員さんがカウンターから奥の部屋へと入っていった。


 ……ここのギルドはボクのランクを上げたいって言ってたし、このまま上げてくれるんだろうと思うけど。


(……ご主人さま。こっちをじーっと見とるのがおるのじゃ……)

(分かった。顔をよく確認しといて)


 また、面倒なのが寄ってきそうではある。






「よう、Dランクなりたてクン」

「ちょっと聞きたいことがあるんだが」


 森の中で話しかけてきたのは屈強な感じのオッサンふたり。


(……ギルドでご主人さまをじーっと見とったヤツらなのじゃ)


 冒険者ギルドでDランクになって、そのまま町を出て森へ入った。

 それから1時間くらいは歩いたので、だいぶ町からは離れた位置だ。


 こんなところで話しかけてくるなんて、怪しい存在でしかない。


(……こやつらだけなのじゃ。他にも誰もおらんのじゃ)


 ミカゲが周囲を索敵して、ちゃんと確認してくれる。

 これなら問題ない。


 誰もいないのなら、何が起きても誰にも分からない。


「……こっちは用事、ないですけど?」

「うるせぇよ。おれたちゃてめぇに用があるんだっつぅの」

「グリーンウルフの巣がどこか知ってんだろ?」

「……」

「そいつを教えてくれりゃあ、てめぇには別に何もしねぇよ」


 見た目からしてろくな連中ではないだろうと予想はしてた。

 それでも見た目だけで判断するのはよくないと思って、ここまで我慢したけど。


「……やっぱり見た目通りのバカだったか」

「ああん!?」

「てめぇ! Cランクなめてんじゃねぇぞオイ!」

「……それ、後ろを見てもまだ言えるのか?」


 ボクはCランクチンピラの背後を指さした。

 振り返るCランクチンピラ。


 油断しすぎだろ。

 今すぐ殴るのも簡単そうだけど、わざわざボクが手を出すまでもない。


 そこにはCランクチンピラよりもはるかに大きなクマが3頭、立っている。

 ブラッドベアーだ。冒険者ギルドの格付けだとBランクの魔物になる。


 ついさっき、ボクが召喚した魔物だ。

 そういう『魔物使い』としての便利な能力はずっと隠して使ってる。


「ブラッドベアーが3頭だと!? 従魔は連れてなかったはずだろっ!?」

「こいつ、1頭だけ従魔にしてるって話じゃ……ぐわっ!?」


 ブラッドベアーに驚いてるところを下草に隠れてたグリーンウルフが襲撃。

 Cランクチンピラの足に噛みつく。


「なっ!? グリーンウルフじゃねーかっ!? ぐはっ!?」


 噛まれた足元を見たら、ブラッドベアーの爪に肩から背中をえぐられる。

 グリーンウルフは一撃離脱でいい。狙われてるし。


「て、てめぇ……こんなことが許されると……」

「許すも許さないも……ここで死ぬ人に関係ないだろ?」

「なっ……ぐわっ!?」

「なんだこいつ……強すぎるだろ……」

「わ、悪かった……ゆ、許してくれ……」

「許す訳ないだろ。バカなのか?」

「そ、そんな……」


 ボクはブラッドベアーに視線を動かす。


「ぐあああっ!?」

「ぐほうぇぇっ!?」


 それだけでブラッドベアーはCランクチンピラにとどめを刺した。


「……死体は森の奥の拠点へ運ぶようにしてくれ。このへんで爪痕のある死体が見つかるのはよくないから」


 面倒でも、まだこの町で疑われるのは避けたい。

 つい最近、ポイズンスパイダーでの毒殺を実行したばっかりだし。


 ボクは心を乱さないようにしつつ、Cランクチンピラの死体をブラッドベアーたちが運んでいく姿を見つめていた。


 こういう感じで殺しに関する心が少しずつ、麻痺していくんだろうと思う。


 できればもっと……楽しい異世界であってほしかった。無理だと知ってるけどな。






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