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第15話 抜け目ない商人に学びたい



 冒険者ギルドでグリーンウルフの討伐依頼が出てる。

 しかも、Eランクの魔物の買取価格としてはかなり高い金額で。


 1匹丸ごと納品で小金貨3枚だって?

 たかがEランクなのに?

 確かグリーンウルフは食いたくない肉って話だったような?


(ご主人さま? 気になるのじゃ?)

(ちょっと高いような気がして。ウチの子たちが狙われたら嫌だしな)

(森の浅いところにいるのはテイムしとらんヤツなのじゃ。心配はいらんのじゃ)


(まあ、狙われても実質的にウチの子たちはもうEランクレベルじゃないけど。レベルアップしてるし)

(それはそれで……冒険者に犠牲が増えて事件になるやもしれんのじゃ。グリーンウルフ絡みのことなら、あの商人に話を聞いてはどうじゃ?)


(そうだな。ちょうど行こうと思ってたし、聞いてみるか)


 カイラッドさんはボクが渡したグリーンウルフの抜け毛で糸を作った。

 布にするのはあきらめて、貴族相手の高級刺繍糸にする作戦にしたらしい。


 腹側の薄い緑の毛で作ったヤツをシルクグリーン。

 他の緑色の毛で作ったヤツをウルフグリーン。


 そんな名前を付けて、貴族の女性たちに売り込んだという。


 それがよく売れたらしくて……腹の方の抜け毛は麻袋5袋で小金貨5枚、他の抜け毛は麻袋10袋を小金貨5枚で買い取ってもらえることになってる。


 実際、どのくらいカイラッドさんがもうけてるのかは知らない。

 そこは踏み込まないつもりではある。


 テイムした森の奥のゴブリンたちが作業してくれてるだけで、ほぼ何の苦労もなくボクにはお金が入ってくる。

 その金額が多いとか少ないとか、あんまり騒ぐ気にはなれない。


 抜け毛の入った麻袋は、ボクが直接お店に行かなくても……フクロフクロウ宅急便が届けてる。

 カイラッドさんのお店の裏庭で夜にホーホーと鳴き声が聞こえたら、いつの間にか裏庭には麻袋があるという……ホラーみたいな笑い話ではある。


 ひょっとしたら……カイラッドさんのライバル商会の人がこの依頼を出したのかもしれないな。


 マズいと言われてる肉をわざわざ食べるはずがない。

 肉目当てじゃないなら、皮や毛が狙いなんだろうし。






「ああ、オウエー商会でしょうね」

「オゥ、イエー商会?」


 なんかヒャッハーしてそうな商会だな? パーリーピーポー的な?


「オゥ、イエー、ではなく、オウエー商会です。私にいろいろと探りを入れていましたから間違いないでしょう」

「探りをって……グリーンウルフの刺繍糸の?」

「ええ。その依頼が出たということは、グリーンウルフの毛が材料だというのは気づかれてしまったようですね。まあ、いずれは気づかれると思っていましたが」


 カイラッドさんのところでお茶をごちそうになりながら、そんな話をしてる。

 これ、一般的にはかなり上客への対応らしい。


 普通はお茶も出さないんだと。

 カイラッドさんがって話じゃなくて、一般的には、だ。


「刺繍糸を真似されるってことですか?」

「新しいものを売り出して誰かがもうけると、誰かがそれを真似しようとするものですから」


 カイラッドさんは軽く苦笑いしてる。


「……そういうの禁止する仕組みとかはないんですか? 独占できるように?」


「うーん。例えばこの町なら、子爵様の命令でそういう形にすることはできなくもないですね。ただ、その場合は子爵様にいろいろと……それに、他の町ではどうすることもできませんので」


 特許みたいな考え方はないのか。

 あったとしても……守らないか、守らせることが難しいか。


 全ては治安というか……ボクがいたあの社会はそういう仕組みを作り上げていったってことなんだろう。


 異世界にきて知る、元の世界の凄さ。

 特許ってすげぇ。


 こっちだと無理なんだろうなぁ。


 ……いや、考えてみればあっちの世界でもアニメの海賊版とかあったな。


 何をやるにしても限界はあるのかもしれない。


 ここで子爵と手を結んでも、子爵に利益を分けないとダメだし、他の領地では禁止できないからあんまり意味がないって話になるのか。


「今のところ、職人の引き抜きも防げているので特に問題ないですよ。給金もはずんでますからね。ああ、それとも、エニシ殿はあちらにもグリーンウルフの毛を卸したいのでしょうか?」


「あ、そういうつもりはないです。冒険者ギルドにグリーンウルフの依頼があったので気になっていただけなんで」

「それはよかったです」


 カイラッドさんが嬉しそうに微笑んだ。

 うんうん。お互い、いい関係でいられるように努力しましょう。


 この人、フクロフクロウのこととか、ちゃんと秘密にしてくれてるから。


 ……それだけ、ボクがカイラッドさんをもうけさせてるとも言える。


「もし、あちらに卸すようになったとしても、ウチよりも高値で卸してもらえると助かります」

「……もし、そうなったら、そうしますよ」

「ええ。ウチと取引するよりも、エニシさんに利益がないとダメですよ」


 いや、卸さないけど。

 でも、そういうところはカイラッドさんもちゃんとしてるんだな。


「ちなみに、ボクがその、オゥ、イエー商会? に高値で抜け毛を卸すようになったらどうするんですか?」

「ウチはグリーンウルフの刺繍糸から手を引きます」

「え?」


「いつまでも独占できるようなものでもありませんし、エニシさん以外の誰かがエニシさんのように大量の抜け毛を集められるとも思えませんから」

「なるほど……」


 カイラッドさん……なんて潔いんだ……。


「それに……」

「それに?」


「もし、ウチから職人を引き抜いて、エニシさんから抜け毛を手に入れたとしても、利益は少なくなるでしょう?」


「ああ、そうか。引き抜いた職人への支払いは高くなるし、材料費も高いから」


「ええ。そうなると……他の商品に穴ができるでしょうね?」


 にこりと笑ったカイラッドさんがちょっと怖い。


 おぅ。

 グリーンウルフの糸を奪われたら、他の部分で勝ちに行くのか……。


 これが、抜け目ない商人の生き方!?

 勉強になります!


 こういう感じで、カイラッドさんはボクにいろいろと教えてくれてる。

 たぶん、ハチミツを卸したり、オーク肉を安く売ったりしてるからだろう。


「……そもそも、エニシさんはオウエー商会と取引するつもりはないでしょう?」


「ないですけど……なんでボクがオゥ、イエー商会と取引しないって分かるんですか?」


「オウエー商会の名前を覚える気もないじゃないですか。さっきからずっとオゥ、イェー商会としか言ってませんよ」


 そう言って、わははとカイラッドさんは笑った。


 なるほど、と思う話だった。






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