第12話 こっちの世界に期待したくてもできない
「……これ、ゴブリンじゃなくてオークの鼻じゃないですか……」
「ええ、オークの鼻ですけど……常設依頼でしたよね? 討伐関係の?」
「そ、そうですけど、あなたはまだGランクなのに……」
「あ、そういうことか」
山脈の麓の拠点から戻ったボクは、冒険者ギルドの受付で提出したオークの鼻について、受付係と話している。
「普通はGランクだとオークを倒せない感じですか?」
「それはそうですよ。オークはCランクの魔物ですから。冒険者のランクと魔物のランクは同等での討伐が推奨されてます」
「なるほど……ボクの場合は従魔がオークよりも強いので倒せるって話です」
「あ……そうでした。あなたはあの時の……パレードみたいにブラッドベアーに乗ってた人ですね……」
いや、パレードみたいにって。
あれ? そう言われてみればすごく注目されててパレードっぽい状態だったような気もする。
「確かにオークはCランク、ブラッドベアーはBランクですから、そういうこともあるのかもしれませんね」
「そういうことです」
「……魔物使いがブラッドベアーを従魔にしているなんて初めてだったので、疑ってしまって申し訳ありませんでした」
あ、ちゃんと謝ってもらえるのか。
そういう対応なら問題ない。
「いえいえ。それで、討伐報酬はもらえますか?」
「はい。でも、鼻の数が多いので少々お待ちください。あ、オークの体や解体した肉をお持ちではないですよね?」
「そうですね」
持ってるけど、ここに出すつもりはない。
カイラッドさんの方が信頼できるというか、あの人がもうかるならそっちがいいというか。
ボクとしてはそういう小さな信頼関係を積み重ねたい。
カイラッドさんはすごく印象がいいし。
……この世界だと信頼できそうないい人との出会いが少ないってこともある。
受付の人が疑問をもったのは、鼻の数の問題もあったのか。
いくらなんでもオークの鼻を50個は多すぎたか? ボク、何かやっちゃいましたか状態かもしれない。
でも、それでも拠点にあったオークの鼻の1割なんだよな。今はさらに増えてる可能性もあるし。
……厳密にはボクがひとりで倒したオークの鼻もあるけど、わざわざそのことを主張する必要はない。
いつ、どこで、誰に目をつけられるか分からないんだ。
ボク自身もある程度の強さがあるなんて、いざという時のために秘密にしておいた方がいいに決まってる。
まあ、それでも気づく人は気づくだろうし。
「お待たせしました。オークの鼻を50でしたので、討伐報酬のみ、オーク1体につき小金貨1枚として合計で金貨5枚となります」
「……ちなみにオークを一体、丸ごと持ち込んだ場合はどのくらいに?」
「大きさ次第ではありますが、だいたい金貨1~2枚になるくらいでしょうか?」
……物価がまだよく分からんけど、ハチミツとオークが同じか。
あれ?
普通だったらジャイアントビーの大群と戦って巣を手に入れないとハチミツは手に入らないんじゃなかったっけ?
ジャイアントビーのハチミツの値段ってどうなんだ?
いや。巣を丸ごと手に入れた場合、ハチミツの量も多いんだろうな。
ジャイアントビーの大きさ考えたら巣のサイズも半端ないだろうし。
あの小壺で金貨1枚はむしろ妥当なのかもしれない。
カイラッドさんに任せるって決めたんなら、裏切られてもボクの責任。
そう考えた方がいいか。
「あ、それとエニシ様の冒険者ランクはとりあえずFランクに上がりますので」
「あ、はい」
ランクアップテンプレきたわ~。
でもGからFのワンランクアップか。
オークがCランクならガツンとCまでいくのかと思ったけど、ひとつだけとはね。
……でも、とりあえずって言ったな?
ひょっとしたら次に来たらまた上がるのかもしれない。
宿を決めて、部屋へと向かう。
今回は森に従魔は残してきた。また騒ぎになるのも嫌だったし。
(……ご主人さま。誰かついてきとるのじゃ……ふたりなのじゃ)
いつものバックハグ大しゅきホールドをしたまま透明化してるミカゲからの囁き。
ついでにぺろりと耳をナメるのはやめて!? 気持ちいいけど変な声が出そうになるから!?
……それにしてもどうなんだ?
宿の中で部屋までついてくるってことは……部屋を確認して夜にでも襲撃するつもりか?
それとも盗みに入るのか?
どっちにせよ、敵対的存在の可能性が高い。
……キンタを連れてきたら宿に泊れないからしょうがないとはいえ、ボクだけになるとどうしてもナメられるよな。
(いつからボクの後ろにいるんだ?)
(わらわがはっきりと気づいたのはこの宿の中でなのじゃ。おそらく冒険者ギルドの受付での話を聞いておったのではないかなのじゃ?)
あの話だと……オークは従魔が倒した的な内容か。
それならボク自身は弱いって考えてるはず。
魔物使いの本質をちゃんと理解してたらそれはありえない話なのに。
つまりバカなヤツなんだな。
そうすると――。
ボクはカギを開けて、ドアを開く。そして、中に入ってドアを閉めようとした。
その瞬間、ガシっと足を差し込んでドアの動きを止められた。
――いきなり襲撃してくるかもって思ったら、そうだった件。
「よう。景気がいいみてーだな?」
「オレらにも分けてくれよー」
ヘラヘラ笑ってるチンピラっぽいヤツがふたり。
ミカゲが魔法をかけようと動く前に、ボクは半歩、踏み込んだ。
まず左の男に左手でボディに一発。
「ぐぼぅっ!?」
殴った反動で腰を逆回転させて今度は右のボディブローを右の男に。
「だはぁっ!?」
そのまま「く」の字になったふたりの顔面をガシっと掴む。
ギリギリ、ギチギチ……。
顔面を握り潰すように力を込めていく。
リンゴを潰せる握力で。
「い、いてててててて」
「や、ややや、やめてくれ……」
「そっちから狙ってきたんだろ? 相手が思ったよりも強かったら許されるとでも思ってるのか? ありえないだろ?」
(ご主人さま……カッコいいのじゃ……しゅき……)
チンピラ程度ならオークよりもはるかに弱い。
それでミカゲが惚れ直してくれるんなら何人でも殴りたい今日この頃。
……それにしても治安、悪いな?
こうやってまたボクはこの世界への期待を失っていくのであった。




