再び、あの教会へ。
「店長!いる?」
数日ぶりにバイト先に顔を出す。あの日以来、シフトもサボって寄り付かないようにしていたので、店長の顔もうっすら忘れてしまうところだった。まあ、私は忘れないので今のは願望だけど。
「…マスターや言うとるやろ。封理、よう来たな。…コーヒー飲むか?」
「いらない。ちょっと野暮用でがあってね。例の女神に会わせてよ、店長。」
「復讐するつもりか?相手は女神様やで?」
「それも魅力的だけど、今日は違う。ちょっとしたお願いをしたくて。」
「…わかった。着いて来ぃ。」
店長に連れられ、店の奥に進む。カウンターの奥の古びたコーヒーミルを通常とは逆回転に3度回すと、ガコンと音がした。今まで壁だと思っていた薄暗い空間に、ぽっかりと地下へと続く階段が顔を現した。なるほど、この前はここを通って教会のような場所へ連れていかれたのか。
長く暗い廊下を進む。光源は店長の炎魔法を応用したランプの魔法のみだ。普通の女の子であれば、こんな場所を進んでいくのはいろんな意味で怖いのかもしれないが、不思議と恐怖はなかった。私がこんなだからなのか、それともこの狭い通路にも女神の加護が漏れ染み込んでいるのだろうか。
「…女神様の加護やで?もうちょっと綺麗そうな表現できんか?」
店長のツッコミは無視することにする。
しばらく歩くと、突然広い空間にでた。…例の教会だ。
「女神様!いる?」
「おるわけないやろ。ここに住んでるわけやないんやから。」
「知らないよ。じゃ、呼んで。」
「…わかっとる。」
店長はいつぞやの十字架の前で片膝をつき、祈りを捧げ始めた。しばらくして、暗いはずの教会が目も空けられないほどの眩さで満たされた。
『…えーっと、私一応女神なんですけどー。』
輝きが落ち着き始め、そこにいなかったはずの人影が呟く。
『そんなタクシーみたいに気軽に呼んでほしくないっていうか…。』
「タクシー扱いするなら、異世界まで連れてってよ。お金払うから。」
「女神様に何て口の利きかたしてんねん!」
「…店長は黙ってて?」
私は店長に向かって右手をかざす。女神・イルミナを呼んだ時点で店長の役目は終わった。邪魔をするなら容赦なく吹っ飛ばす。
『相変わらず物騒ですねー。それで、私に何か用があるのでしょう。』
「あなた、今実体あるの?」
『…いいえ。私は女神。今はそこの京権充郎氏の寿命を使って、この世に顕現しています。』
「店長寿命削ってるの?!」
「…そうや。どうせジジイや。少しくらい無くなっても変わらへん。それに、これくらいしかできんからな…。お前への罪滅ぼしは。」
「店長…。」
私を騙したこと。店長もきっと苦しかったんだ。でも、そうせざるを得ない事情があったんだろう。だから、せめて私のために寿命を削って女神様を呼んでくれたのだろう。一体、どれほどの寿命を消費して…。
『5秒です。』
…一体、どれほどの寿命を消費して…。
『だから、5秒です。私を1回呼ぶのに5秒。つまり、私が彼から奪った寿命は計2回で10秒ということになりますねー。』
いや、コスパ良すぎん?
「イルミナ様、そこは黙ってて欲しかったんやけど…。」
『そうですよね!ごめんなさい☆』
…もしかして、この女神ポンコツか?
『ポンコツとは心外ですねー!こう見えて、私、結構存在感に溢れているんですよー?尾行とかさせたら、必ず気付かれてしまうんですから!』
あ、やっぱりポンコツだ。駄女神だ。
『駄女神とか酷いですぅ!私、神様ですよっ!』
「そうですね。ちょっと頼みごとしようと思ってきましたけど、やっぱりいいです。」
光の女神をパーティメンバーにできたら強くね?と思ってここに来たし、なんなら力づくでも従わせようと思ってたけど、間違いだったようだ。お暇しよう。
『待って待ってー!頼みごと?なになに?私に頼みごとって何ですかー?女神様、聞いちゃうぞっ!』
「いや~…、やっぱり女神様に頼みごとなんておこがましいし大丈夫でーす。」
『やだー!聞きたい聞きたいー!女神様に教えてー?』
…なあ、私こんなやつに人生曲げられたの?なんかめちゃくちゃ腹立つんだけど。
『…言ってくれないなら心読みますよ?』
「えっ、そんなことできんの?」
『これでも女神ですから。…ふむふむ。茅水さん、それはナンセンスですよー。仮にも神を脅してパーティメンバーにしようだなんて。』
「…マジで心読めるんだ。」
『でも、まあいいでしょう。パーティメンバーになってあげましょう。…今、ラベーヌ高校に架空の女生徒を一名転入させるようにしました。それが現世での私の依り代です。』
「え、いいよ。他をあたるから。大丈夫、大丈夫。」
『私にもあなたの人生を狂わせた罪悪感があるのです。だから、気まぐれですしいろいろギリギリですけど、罪滅ぼしさせてください。』
そう言い残しイルミナは光の柱となって空の方向へ消えた。勝手に話を進めて、勝手に消えないでほしい。しばらくして、その消えた方向から一人の女生徒がゆっくりと降りてきた。まるで現世に降臨した女神のように。いや、その通りなんだけど。
「お待たせしましたー。これが現世でのイルミナの姿。そうですね、入見 実那とでも名乗っておきましょうか。」
「そのまんまじゃねーか。」
「てへっ☆明日からよろしくでーす!茅水封理さん。」
うちの制服を来たシルバーヘアーの美少女は言う。駄女神、イルミナ。もとい、入見実那。こんなのをパーティメンバーにしてしまったら、本当にただのアイドルグループになってしまう。…ま、いいか。私の目的は勇者を探し出して殺すことだし。数が足りるなら、誰でも。
「言い忘れてました。封理さん、私は勇者が誰かを知っています。でも、勇者を見かけても、その人が勇者だとお教えすることはできません。これだけは女神として絶対のルールですので。」
そう都合よくは行かないらしい。ともあれ、5人目のメンバーが確保できたことは幸いだ。この人選がどう転ぶのか、知ったこっちゃないけれど。




