メンバー紹介-2
扉が開ききるかどうかの瀬戸際、ふいに光線が視界に飛び込んできて思わず躱す。光線の出所はこの生徒会室の中からで、さきほどまで私がいた場所の延長線上にある背後の壁には小さな焦げ跡がついている。扉の向こうで座る女がちぇっと唾を吐く。撃ったのはこいつか?
「リノン!代魔会出場者の私闘はご法度ですわよ!」
リノンと呼ばれた女はふんぞり返る。派手な髪色に着崩した制服。短いスカートから伸びる脚は組まれ、その長さを存分に見せつけている。
「だって、この人無詠唱で魔法使えるんでしょ?不意打ちしないと勝てないじゃん。」
「勝たなくていいですわ。仲間なんですから。」
「やだ。私は仲良くするつもりなんてないし。」
改めて見ると、なかなかに美人である。リスティもハーフ系の正統派美人ではあるが、このリノンはやや鋭く見える目つきのクールビューティー系だ。もっとも、先ほどの会話から性格と見た目がマッチしていないのは察したが。
「ごめんなさい、茅水封理。この子、ちょっと人当たりが強いんですわ…。」
「別に構わないよ。それに、いきなり戦いを仕掛けられるのは慣れてる。」
「それは…、更にごめんなさいですわ。」
いつかのリスティを責めたみたいになってしまった。ごめん。
「あんた?不意打ちされたのに怒らないの!?あんたが鈍かったら殺されてたかもしれないんだよ?」
「あんな殺意のない地味な攻撃で死ねるほど軟にはできてないから、大丈夫。」
ちょっとした威嚇程度にわざわざ反応するほど私は暇ではないし、この心に渦巻く重い感情をこいつなんかに割くリソースも持ち合わせていない。
「私が弱いっていうの?」
「そうは言ってない。殺す覚悟を感じなかったってだけ。」
「…殺す覚悟があればいいのね?」
彼女は静かに詠唱を始める。掲げた右手がバチバチと輝き、電流が可視される。
「やめなさい!安久慧 りのん(あくえ りのん)!」
リスティが叫び、制止を試みる。それにしても、こいつのフルネーム、創世しそうな名前だな。一万円と二千円あげたら愛してくれそう。
「そんな安い女じゃないわー!」
その手から渦巻く電流はどんどん巨大になる。弄ってごめんて。
「謝ってももう遅い!死ねぇぇぇえええ!!!」
「おやめなさい!」
彼女が今にもその電撃を放たんとした間際、私はそれをキャンセルした。電流がまるで粒子の霧のように拡散する。魔法じゃなければこうはならないだろうけど。
「…は?」
…は?、ではない。だって、電気は正負の極性をもつただのエネルギーで、構造を反転させてぶつけると容易に崩れるんだもの。相手が電気でなくても、対になる物質をぶつけるなどすることで、中級程度の魔法までは中和することが可能な私にとって、この程度は造作もない。チート乙。
「くっそ…。くっそぉ…!」
悔しがる安久慧りのん。一万円と二千円あげるから許してほしい。それにしても、何が彼女をここまでさせるのか。
「だって…!美人でそのうえ強いとか反則じゃん!私と若干キャラも被るし!」
そんな理由で人を殺そうとしたのか。怖い子だな、リノン。
「普段はとってもいい子なんですわ。なんで今日に限って…。」
「…リノン、その人の大ファン。」
小声でそう呟いたのは、リノンの隣にいる小柄なショートカットだった。リノンの陰に隠れるように座っていたので、今まで存在に気が付かなかった。それにしても、私のファンとな。
「そられ!言わないでぇ!」
そられと呼ばれたショートカットはリノンの心からの訴えを右から左へ受け流す。なんだ、こっちは無口キャラなのか?それにしても、このショートカットも相当可愛い顔をしている。このパーティはアイドルユニットか何かなのか?
「…可愛いだなんて、照れる。」
本当に照れているのかわからないテンションで彼女は頬を手のひらで覆う。
「可愛いでしょう。その子は雲雀張 空零。一年生ですわ。」
「そられです。…あなたのファンです。」
絶対嘘だ。こいつ、真顔でボケるタイプだな。それにしてもこちらも癖の強い名前をしている。バリバリか、Gsus2かどっちかだな。
「いくら、ソ・ラ・レだからってGsus2は少しこじつけが過ぎますわ。ほぼ不協和音ですし、もはやGsusというより、ジーザスですわ。」
ツッコめる奴がいてよかった。万能だね、リスティ。
「じゃあ、バリバリだ。よろしく。」
「よろしくお願いします。フーリさん。」
「…私も挨拶させてくださぁい!」
半泣きベソかきクールビューティーが割り込んでくる。さっきまでの威勢はどうしたよ。
「…もう遅い。フーリさんの後輩枠は、私。」
「ずるいよそられ!」
「…ファンだから恥ずかしくて見得張ったリノンが悪い。」
なんだよ、いざ来てみれば私モテモテかよ。
「モテモテだったら、最後の一人くらい連れてきてくれてもいいんですわよ?」
「なに?リスティ、嫉妬?」
「なんで私が嫉妬するんですの!この流れで!」
まあ、いいですわ。と続けるリスティ。
「紹介そびれましたけど、そちらが安久慧りのん。同じく一年生ですわ。」
「ぁ…あ…あああぁ…。」
創世のカオナシは緊張している。
「安久慧りのん、感情が迷子すぎですわよ。」
「すっすみません。緊張しちゃって…。」
「…緊張してる人は不意打ちで殺そうとしたりしない。」
「ごごご、ごめんなさいでした!フーリ先輩に実は憧れてて…。でも、なんかこれから一緒に戦うのに仲良くなりたいってのも違うかなって!あぁー!バカですみません!リノンです!これからよろしくお願いしますぅ!」
…ああ、うん。
「なかなか面白いメンバーが揃っているでしょう?この子たちが、我々と共に戦うラベーヌ高等魔術学校の精鋭たちですわ。得意属性も皆異なってますの。安久慧りのんが雷、雲雀張空零が風。茅水封理、あなたは水でしたわよね。」
闇属性も得意なのは黙っておく。しかし、バリバリのほうが雷属性って感じするのに、ややこしいな。
「ちなみに、私は土属性が得意ですわ。」
「クリ…」
「クリツチ―ヌンではないですわよ?」
リツチィ…じゃなかった、リスティ。ツッコミの速度が上がってきてるな。成長が速い。それで、得意属性がバラバラだと何が良いのだろうか。
「あなた、本当に代魔会に興味ないんですのね。属性には得手不得手があるのはご存じでしょう?その相性の問題ですわ。」
「要は、6匹のモンスターでパーティを組むあのゲームみたいな感じ?」
「そうですわ。ですので、うちのあと一人もフェアリーか炎タイプあたりが欲しいんですけど。なかなか適切な人材がいないのですわ。」
鋼あたりも良さそうだが、鋼とかフェアリーってどんな魔法なのか私には想像がつかない。でも、炎属性は嫌だな…。炎は嫌いだ。以前から漠然と苦手だったが、最近その理由に漸く見当がついた。私は一度焼かれて死んでいるからだ。だから、無意識に炎を打ち消す水属性の魔法を使っているのかも。
「いずれにせよ、もう一人メンバーを集めないと失格になってしまいますわ。茅水封理、あと一人なんとかならないですの?私たちにはもう人脈が残ってないんですわ。」
あと一人、あと一人か。私だって、共に戦ってくれるような友達などあてがない。にもかかわらず、得意属性が私たちと被っておらず、かつそこそこ戦える人材…。そんな人材、そう簡単には…。
「…あ。」
いや、いいことを思いついた。彼女なら、フェアリーのような属性の魔法、もしくは最低光の魔法くらいは当たり前に使えるだろう。一度交渉してみる価値はある。
「誰か候補がいるんですの?」
「ちょっとね。今から交渉してくる。」
そう言うや否や、私はある場所へ向かった。その場所に彼女が今もいることを願いながら。




