かんぱい
勝利の美酒、には少し早いのかもしれない。というのも、我々は未成年だからだ。…じゃあ、勝利の美ジュースならいっか。ということでもない。いくらボロ勝ちしたからといっても、まだ予選を勝ち抜いたに過ぎない。諸手を挙げて喜ぶには些か時期尚早だし、これしきのことでいちいち祝ったりするほど、我々も間抜けではない。…と言えたらかっこよかったんだけど。
「かんぱーい!」
駄女神の音頭が響き渡る。前日の決起大会に引き続き、『みゃ』にて宴会が催されているのだ。開催地が近いとこういうとき便利だな。店選びに困らない。初勝利記念、というのはもちろん口実で、ただ駄女神を筆頭に飲んで食って連中が騒ぎたいだけなのだ。私は帰りたかったけど、帰してもらえなかった。右に駄女神、左にリノン。二人のポンコツコンビに両腕を捥がれかけながら、有無を言わせず連れてこられたのだ。…私、今回何にもしてないからちょっと気まずいんだけれど。しかし、今日の宴も店長の奢りになるんだろうな。可愛そうに。
宴といっても羽目を外しすぎるのは素人のやることだ。明日からも本戦トーナメントがある。昨年の優勝・準優勝の2校を含めたベスト8によるトーナメントなのだ。…やっと、目的の男に会える。と密かに復讐の炎を燃やしていたが、そうは問屋が卸さない。結局、今日の最後に発表されたトーナメント表によると、私たちが勇者らしき人率いる聖マイレージとあたるのは決勝になるようだった。そりゃそうだよね。この手のお話はだいたいそうだよね。
「どうしたんですかー?もしかして、また勇者さんのこと考えてましたー?」
夜風にあたっていると、パイセンがグラス片手に寄ってきた。…酒くさっ。飲んでるの?
「私は女神ですよー?未成年とか関係ないですから。それに、多少酔ってもオートヒールで回復しますから。ちょっと残念ですけどー。」
どっかで聞いたことある悩みだな…。スキルってのも良いことばかりじゃないな。
「女神にもできないことはあるんですよー。そんなことより、…やっぱりまだ復讐したいですか?」
「そりゃあね。あんたから前世の記憶を戻してもらってから、この疼きは収まったことがないから。」
「そうですか。残念です。…包帯いりますか?」
巻かねーよ。封印とかそういう病気じゃねーよ。
「今の生活、嫌いじゃないんでしょう?復讐を果たせば、みんなとも居られなくなりますよ。」
…それは、そうかもしれない。だけど、物事には優先順位がある。だったら、それは考えても仕方のないこと。
「…私、もう帰るよ。明日もあるし。」
「…そうですか。お気をつけてー。」
「あ!フーリ先輩っ!お帰りですか?…じゃ、私も帰りますっ!」
リノンと共に店を後にする。明日こそ、あいつに会えるんだ。会って、正体を見極めてやる。もし、勇者だとわかったその時は…。私は、もう迷うことはないだろう。
「じゃ、私こっちなんでっ!先輩!お疲れ様でしたっ!明日も頑張りましょうねっ!」
曲がり角でリノンと別れる。彼女の思う明日と、私の思う明日はきっと違う。…いいのだろうか、このまま彼女たちを利用していて。…こんな善人じみた悩みを真剣に悩むときがくるなんて。どうかしている。
…そう、どうかしていたのだ。
この距離で、襲撃に気付けないほどに。
閑静な夜の住宅街に、突然悲鳴が轟いた。はっとして声の出所を探る。…さっきリノンと別れた方角だ。…もしかして、リノン?
その疑いを反射的に脳裏に描いたときには、既に私の足は踵を返し走り出していた。…声がしたのはそこの角を曲がったところだ。頼む。どうか予想は外れてくれ。頼む…!
祈るように走りながら、角を曲がると…最悪の光景が目に飛び込んできた。
…リノンが意識なく倒れている。その身を中心に薄暗い液体のようなものが弧を広げている。
ダメだ。それはダメだよ…。
揺らぐ視界のなか、リノンの傍にフードを被った人影が立っていることを認識する。…お前か!リノンを傷つけたのは!
その人物は、とどめを刺さんとばかりに右腕を振り上げる。掲げた傷まみれの手に刃物が握られているのが見えた。…やめろ!やめてくれ!
「やめろおおおおぉぉ!!!!!」
叫びながら氷の槍を飛ばす。しかし、炎の魔法、私の嫌いな炎の魔法でその氷の槍は一瞬の間に大気と化した。それと同時に振り上げた右腕が勢いよく下される。…ダメ!やめて!やめてよぉ!!!
―――…
…次に私が認識したのは、その刃物が道端に転がる金属音だった。刃物はリノンへ到達する前に、何者かに弾かれたらしかった。…恐る恐る顔をあげる。誰か、いる。フードを被った男に相対するように、金髪のイケメンがリノンを庇って立ちはだかっている。
「お前何者だ!」
金髪イケメンは、フードに問う。しかし、答えはない。
「…答えないならとっ捕まえて吐かせてやる。いくぞっ!」
両の腕に木刀を構え、フードに斬りかかっていく。が、フードの男は火花と煙幕の魔法を使い、視界を奪う。そして、視界が晴れてきたときには、もうその姿はそこにはなかった。
「くそっ、逃げられたか。…君、大丈夫か!」
安全を確認したと同時に金髪イケメンはリノンに駆け寄る。そして、…治癒魔法でリノンの傷を癒した。
「応急処置レベルだけど、これで命は助かるはずだ。…そこの君、この子と知り合いなんだろ?早く病院へ連れていってくれ!俺はさっきの奴を追う!必ず捕まえて見せるから、この子のことは頼んだぞ!」
そう言い残すや否や、颯爽と金髪イケメンは消えていった。




