代魔会予選開始
ポンコツだけと有能な駄女神による、ある種卑怯とも言える連日の魔法講義は、雨の日も風の日も雷の日も続いた。実際は荒天ばかりだったわけではないのだが、そう説明したほうがそれっぽいし、私たちのパーティの属性に近い天気なのでなんだかパワーアップを連想できるかなと思ってそう言っておくことにする。
「…それでしたら、私だけ強くなってないみたいですわ。」
リスティの修行の成果は、次回作にご期待いただくとして、こうして遂に私たちは無詠唱魔法を会得するに至ったのであった。リスティとそられは比較的序盤からコツを掴んだようであったが、リノンは苦労していた。なんとか大会までに自分のものにすることができ、ここ数日はご機嫌で雷のボールを撃ち飛ばしている。少し迷惑だ。私も無詠唱を完全にマスターし、最近では、お風呂での洗髪時に蛇口の位置がわからなくなったとき、無詠唱でお湯を出して泡を流すなど日常生活で非常に重宝している。
「無詠唱の価値を下げないでくださいます?」
こうして、鬼コーチの修行に耐え抜いた私たちは遂に代魔会の予選大会を明日に控え、前日の今日は決起大会と称し、喫茶『みゃ』にお邪魔している。ここならイルミナパイセンの顔を借りてタダで飲み食いできるしね。
「あなた、時折図々しいですわね。」
「…なんなの、リスティ。さっきから茶々入れて!」
「茅水封理に任せているとイマイチ緊張感が欠落しますもの。これも私の役目ですわ。」
「いいなぁ、クリス先輩。フーリ先輩と仲良くてっ。」
「…リノンはファーストインプレッションが最悪だった。自業自得。」
「おう、お前たち。私を取り合うなー?可愛いやつめー!ぎゅってしてやるぞー?」
「「はわわー!好き!」」
「…何してるんですの、あなたたち。」
私が言うのもなんだが、この一ヶ月弱で随分仲良くなった。復讐なんて忘れて、この仲間たちと今を生きればいい。頭ではそう思うことも多くなった。だけど、心の奥底に巣食う何かがそれを拒絶する。勇者を殺せと、私の身体を操るのだ。
「はーい!みなさん!そろそろ始めますよー!」
「めがみ…メガミートパスタや!マスター特製の人気メニューやで!」
「わー!おいしそうっ!ありがとうございます!店長!」
「…店長、これイケる。美味。」
「雲雀張空零!味見が早い!はしたないですわ!」
あいつ、今しれっと女神って言いかけたな。持ってきた料理がミートスパでよかったな。
「みなさーん?ドリンクは手元に行き渡りましたー?…じゃあ、はじめましょう!」
なんで駄女神が音頭取ってんだ…。
「明日からの代魔会の勝利を願って~?女神の加護を~!かんぱーい!!!」
「「「「かんぱーい!!!」」」」
その日は、忘れられない夜になった。まだ私が心に支配されずにいた、最後の思い出だったから。
来る年に一度の世代魔術競技大会。通称、代魔会。毎年、学問・部活動・魔術のすべてが優秀な学校の中から、地区ごとに選抜された全70校ほどが出場し、優勝を賭けて魔法という青春の汗を互いに交し合う。…この言い方だとなんか汚いな。
開会式の会場を見渡すと、昨年優勝した聖マイレージ魔術学校をはじめ、我らがラベーヌ高等魔術学校など常連校の顔ぶれに交じり、初出場の新参校もちらほらと見受けられた。まずは、決勝トーナメント出場の座をかけて、予選のバトルロワイヤルが開催される。ここで一気に6校まで削られるのが厳しいところだ。昨年の優勝校及び準優勝校の2校は予選を免除されているので、勇者らしき者がいるらしい聖マイレージとの邂逅はひとまずおあずけということになる。どうやら、予選を勝ち抜かないと、そいつに会うこともできないらしい。
「何をぼーっとしてますの?始まりますわよ。」
リスティの声に意識を戻す。開会式から続けて行われる予選。その戦いの火ぶたは、まもなく切って落とされる。広いコロッセオでくんずほぐれつ乱れに乱れあう混戦の末、最後まで残った6校に、決勝へのチケットが授けられるのだ。
「よーしっ!いっぱい殺してやりますよっ!」
「だから殺しはNGですわ。リノン。」
血気盛んな奴がいるな…。大丈夫かな。
「ダイジョーブでーす。予選通過確率は80%でーす。」
大丈夫をカタカナにしたり、語尾をそう延ばされるとイマイチ信用できないんだけど。イルミナパイセン。
「出場者のみなさん!それではこれより予選を開始します!申し遅れました。私、司会進行兼審判のシンパです!みんなからは可愛く『しんぱん』って呼ばれてます!以後お見知りおきを!」
コロッセオを見渡せる特設の審判台からひとりの女がアナウンスをはじめる。呼び方、そのまんまじゃねーか。審判。
「みなさん!ルールはご存じですね?総当たりのバトルロワイヤル!一対一で戦うもよし。複数でボコしてもよし。殺さなければなんでもアリです!気絶した方は巡回の回収班が拾いに伺いますので、安心してぶっ倒れててくださいね!」
ゴミ収集車かよ。
「最後までチームのうちひとりでも残っていた上位6校が決勝トーナメントに進めます。…それではみなさん、準備はいいですか?」
各校代表が一斉に集中する。空気がしんと鎮まる。
「それでは!バトルロワイヤル、レッツダイマーッ!」
代魔会にかけたらしい謎の掛け声と共に、約340人が一斉に飛び出す。そこいら中で詠唱を行う声がする。近接で速攻を仕掛けるものもいれば、距離を取って遠距離魔法を準備するものもいる。どのように戦うか、それもまた戦局を左右するだろう。
「いた!お前が茅水封理だな!覚悟!」
…私のところにも接近戦を仕掛けてくるやつがいたか。でも、なんで私の名前知ってんだよ。
「まずは有名どころを潰す!セオリーだろうが!」
セオリーかセロリかはさして興味はないが、いきなりやられるのは忍びない。テキトーにあしらってやるか。
相手は風の槍のような魔法を放った。…さて、どういなそうかしら。と思っていると、その風の槍は突如私の目前で弾かれ消失した。
「…フーリ先輩と戦えると思うなんて、おこがましい。あなたの相手は、私。…先輩、いい?」
あ、うん。めんどくさいからやっちゃって。
「…わかった。」
返事をするや否や、バリバリことそられは相手を吹き飛ばした。それはコロッセオの壁まで一直線で飛んでいき、激しく衝突した。私をそれを横目で眺める。ありゃ、もうダメだな。
「あーっと!開始早々リタイアだ!ラベーヌ高校の雲雀張選手!凄まじい攻撃です!」
バリバリ目立ってんな、バリバリ。
「私も負けてられないですっ!」
今度はリノンが電気で形成されたイノシシみたいな魔法を放つ。電気イノシシに触れたものが片っ端から吹っ飛んでいく。
「同じく安久慧リノン選手!謎の電気魔獣を操り快進撃だーっ?」
すごいけど、なんでエレクトリック・イノシシで人が飛ぶんだよ。
「静電気みたいなイメージですっ。バチってなるのの強いやつ?みたいな?だから、触れたら飛びますっ。フーリ先輩、誉めてくださいっ!」
…あとでね。
目立っているのはうちのルーキーズだけではない。リスティやパイセンも、まるで戦車のように近寄る敵たちを木端微塵にしている。無詠唱戦車ども、恐ろしい…。うち以外にもそこそこ目を引く選手がちらほらいるが、今のところ目下の障害とはなっていない。魔法という魔法が飛び交う、このカオスな戦場のなか、表立った困難がなさそうなのは正直ラッキーだ。このまま、サクッと予選通過といきたいもんだ。




