無詠唱
「いや、フーリさん。生きてますからねー。」
耳元で優しい声がして、目を開く。…ここは、コロッセオ?…あれ、私生きてる?
「あああー!!!先輩!フーリ先輩っ!良かったあああ!!!」
リノンが号泣しながら抱きついてくる。うるさい。
「本当に死んだかと思いましたわ。」
「…女神先輩が治癒魔法をかけて助けてくれた。すごかった。」
治癒魔法…?駄女神、そんなこともできたのか。…本当だ、どこも痛くない。空いたはずの穴の跡形すらも見当たらない。
「これでも女神ですから☆」
イルミナパイセンは耳元で囁く。女神はマジで半殺しにしないと思うけど。
「茅水封理が気を失ってる間に、私たちも女神先輩の胸を借りましたの。…皆コテンパンにやられましたわ。」
「…手も足も出なかった。代わりにクリス先輩に手を出そうと思う。」
「なんでですの!」
「クリス先輩、ナイスバディだから。」
「フーリせんぱぁぁああい!よかったああああぁぁぁぁ!」
…人が死にかけてたのに、騒がしいやつらだな。
「ねえ、パイセン。なんで私を生かしたの?」
「おかしなことを言うんですねー。フーリさん、模擬戦で殺人とか発想が怖いですー。」
怖いのはお前だよ…。なんだよ、あの強さ。
「どうやって私の攻撃を防いだの?確かに手ごたえはあったはず。」
そう、確かに打撃感はあったんだ。そして違和感も。
「簡単ですよー?私の属性は光です。光は熱を生むこともできれば、虚像を見せることもできます。光を屈折させて私の居場所を誤認させ、光による熱であなたの水分を水蒸気爆発させ手ごたえを感じさせた。あとは光線。つまり光の速度のレーザーでずきゅーん!ただそれだけですー。」
どこが簡単だ。そんなことをあの一瞬でコントロールできるのははっきり言って異常だ。光の女神はそんなことを平然とやってのけるのか。戦い慣れしすぎている。…でも。もし、同じ光属性の勇者も同様のことができるなら、私は確実に敗ける。
「さてさて。みなさんの実力を拝見しましたけど、はっきり言ってまだまだですねー。この程度じゃ代魔会では確実に初戦敗退を喫してしまいます。最低限、まずは無詠唱を覚えるところから始めましょう。」
「えっ?無詠唱ってそんな簡単にできるんですかっ?」
「簡単かどうかはみなさんのセンス次第ですー。」
「…じゃあ、そられにはできる。リノンにはできないね。ご愁傷様。」
「なんでよ!私だってできるもんっ!」
「はいはーい。喧嘩しなーい。まずは簡単なイメージについて説明しようと思いますけど、その前に。フーリさん、教えてください。あなたはどうやって無詠唱発動してますか?」
私の無詠唱…。前にも少し話したけど、私のは心の中で事前に詠唱しているだけの似非無詠唱だ。詠唱を脳内でイメージ化して、それを連想することで発動しているのだ。
「惜しいです!でも、独学でそれができるのはすごいですねー。」
語尾を延ばされると褒められているのか煽られているのかわからないんだけど。
「着眼点は合ってます!詠唱をイメージで捉える。これはとても重要です。」
例えば、詠唱や術式を何かに置き換えて連想する。それが何かの色であっても、絵であってもいい。パッと思い浮かぶものに頭の中で紐づけするのだ。回りくどくてめんどくさいので、私は発動後の魔法自体をイメージとして持つようにしているけど。
「フーリさん、素晴らしいです。ただ、それには一つ弱点がありますよー。発動した魔法が自分のイメージするものを超えられない、ということです。イメージしてしまった時点で、自分で限界を想像してしまっているんですねー。」
なるほど、そこまで考えたことはなかった。だったらどうしたらいいの?
「連想するのが苦手で、今のやり方を突き詰めたい…というのであれば、発動する魔法のイメージを極端に過剰にすればいいです。イメージするのは自由。イメージしたからと言って、実力に見合ったものしか発動できませんからー。」
「しかし、過剰にイメージすれば良いってものでもないですわね?魔法は術式詠唱ごとに特性がある。その点を意識しないといけない。」
「その通りです。クリスちゃんは、賢いですねー。クリスちゃんの言うように、なんでもかんでも強そうな魔法をイメージすればいいというものじゃなく、パワー系ならパワー系の。スピード系ならスピード系の。それぞれの魔法特性に特化したイメージを持つことがポイントのひとつです。だけど、これだけでは無詠唱はまだできません。」
「どうしたら使えるんですかぁ?」
お手本を見せましょう、とパイセンは魔法を発動する。彼女の目の前に3つの魔法が召喚される。…言っておくけど、複数発動も本来容易にできることじゃないよ。
「…さっき、剣出しながら同時に弾撃ったり地面凍らせてたりしたくせに。」
「私はできるんだよ。練習したから。」
「先輩素敵!」
「私語は謹んでくださいねー。さて、ここにある3つの魔法。これ、どうやって放ちますか?答えはこうです。…イルミネイト・レイ!」
魔法のうちの1つが光速のレーザーのように放たれ飛んでいく。遠くにあった狙撃練習用の的が一瞬にして穴あきになる。…なんか肩と腿が痛みだした気がする。
「…わかりましたかー?要は技名をつければいいんです。名前をつけて、イメージをそれぞれ箱にしまっておく感じですね。男性の過去の恋愛みたいなものです。そして、使いたいときに、それを取り出す。」
「先生!質問!」
「はい!なんでしょう!フーリさん!」
「技名を叫んだら、それはもう無詠唱とは言えないんじゃないでしょうか!」
「…名前を付けるのは呼び出しやすくするためだけです。なので、口に出して言わなくても技名を心の中で想像すれば魔法は発動しますよー。」
「そうなんだ!だったらなんで技名言ったんですかっ?」
「それは…」
それは?
「…だって!技名言うほうがなんだかカッコいいじゃないですかー!」
ここまでちゃんと先生してたから忘れてた…。こいつ、ポンコツ駄女神だったわ。




