重圧
朝が来た。
窓のブラインドを開けて、陽射しを入れる。
日光はいい。浴びると生まれ変わったような気分になれる。
身体の中の不純を洗い流し、活性化させてくれる。
そうだ。俺達は日光さえ浴びていればいい。
しばらく日光に浸った後、俺はやむを得ず支度を始めた。
学校に行かなければならない。
学校に遅れてしまう。
こんなこと考えたくもなかった。
行きたくない、ただそれだけだ。しかし条約の上では、俺達が学校へ行かなかった場合、現在の生活を剥奪されてしまう。
それは困る。
今この小さなアパートに住める事が唯一の支えだ。
国が用意したアパートで、日本に10ヶ所ある。
そしてそこに住むのは、俺同様昆虫人間である。
隣も上も下も全て自分と同じ種族が住んでいる、というのはとても安心する。
しかしお互い決して仲がいい訳ではない。
同じ種族といっても、それぞれ違う。俺は蜂だが、縄張り意識の強い甲虫や喧嘩早い蟷螂、警戒心の強いトンボなど、様々だ。
特に、捕食されやすい蝶々なんかは、捕食禁止条例がだされても今だにビクビクしている。
つまり、みんなピリピリしているのだ。
当たり前だ。
こんな条例だらけの生活で、共存も糞もない。
学校の制服に腕を通した。
相変わらず嫌悪感しかない。
本来俺達は服なんかきなくていい。
人間のまね事のようで、酷く馬鹿馬鹿しかった。
俺は人間でいうと高校生にあたる年だから仕方なかった。
「………言い訳にもならねぇ…」
こんなことを思う自分も嫌いだった。
シンクに転がっている栄養水を何本か適当に鞄に詰め、もう一本を開けた。
そして、体内を洗い流すように飲んだ。
空になったボトルをごみ箱に投げ入れた。
そろそろ家をでなければ。
気が重い。
けれど家から学校まで徒歩で行ける距離なのが唯一の救いだ。
俺達はまだ電車には乗れない(乗りたくもないが)。だからといって羽根を使う事は許されていない。
ここまでやることが制御されてしまうと、俺達はもう本来の俺達ではない。
まったく馬鹿げた話だ。
とにかく不満が多すぎる。
人間の食いもんはまずいし。
「………出るか」
この玄関のドアだけがいつも重い。