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黒猫カイくん家出する 強制的に休暇を取らされたので、異世界で無双します。  作者: WR-140


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4/22

猫好きもいろいろ。

「ネフィル様!ご無事でしたか?」

神殿でネフィを出迎えたのは、初老の男と若い男の2人だった。いずれも神官らしき装束に身を包んでいる。

どちらもホッとした表情を浮かべてはいたが、年配の神官の顔には懸念が、若い神官の顔には苛立ちが見てとれた。

「どうしたの、何かあった?」

ネフィルは平然たるものだ。

さっき怯えているように見えたのが嘘みたいに堂々としている。

神官たちは顔を見合わせ、年配の方が口を開いた。

「お姿が見えなかったので、お探ししていました。そこに銃声が。お聞きになりませんでしたか?」

若い神官が続ける。

「そうです。この辺りは禁猟区なので、事故でもあっては、とご心配申し上げていたところです。」

〝何だかどっちも腹に一物ありそう。〟

カイは人の感情を読むのは苦手であるが、それでもはっきりわかる違和感だった。

暗殺と関係があるとまでは思わないものの

この神官たち、どちらもネフィにあまり敬意を払っているようには見えなかった。

言葉遣いこそ丁寧なのだが。

そこへ飛び出して来た者がいる。

「姫さま!」

「ナギ。」

その女性が乳母なのだろう。

明らかにホッとした表情を浮かべている。

きちんと結い上げられた淡いマルーンブラウンの髪は艶やかだ。連邦基準で歳は40代か。中肉中背、ピンと伸びた姿勢に気品が感じられた。皇宮からついて来た、とネフィは言っていたが、乳母というより厳格な家庭教師タイプである。

カイは仕事がら、連邦各国のお家事情に精通している。こういうタイプの女性はよく見知っていた。


この国は、地図上でアトラクシア皇国と表示されている。惑星上に凡そ100ある独立国の一つで、GDPは世界8位だからまずまず大国の部類だろう。

元首は皇帝ラクサス118世。は?そんなに古い帝国じゃなかったはずだけどと、皇室の系図にアクセスしてみて、カイはため息をつきそうになった。

〝ややこしい〟

一夫多妻制。

そんな国は、連邦にはいくらもあるが、ここは一風変わっている。

歴代君主である皇帝はそれぞれ大ハーレムを擁し、数多くの皇子・皇女を産んできた訳だが、通常ならば正室である皇后の皇子が後継者となる筈だ。

よほどのボンクラだとか、病弱でもない限り、この順位は揺るがないものである。

つまり、産みの母の門地家格が最重要視されるのだ。

だが、この国ではそうでないらしい。

母親が誰であるかは大した問題でないのだ。

しかも、何と皇帝には任期がある。

僅か5年。その在位期間中に死んだ例も多い。

加うるに、皇帝に即位できるのは、25歳以上の男子である。それも、父親が在位している間に妊娠した子、どの絶対要件があるのだった。

つまり、皇帝が在位中出生した子であっても、妊娠したのが即位前であれば後継者となれない。逆に退位後産まれても、懐妊時期が在位中なら皇位継承権を持つ。

まあ正確な妊娠時期などわからないことが多いから、即位280日以内に生まれた子は継承権がなく、退位280日以内に生まれた子には継承権があるという基準がある。

25歳にならないと即位できないとは、言い換えれば退位したばかりの皇帝の子は、数代後でなければ即位できないのだ。

この結果。

皇族とされる者は現時点で数百名いるが、継承権を持つ者だけで凡そ50名。

高齢や病気などで継承不能な者を除いて、次代の皇位継承権を持つものだけで28名ということになる。

〝しかし5年でやれることなんて限られてるだろうに。〟

つまり、実際に国を動かしているのは別の機構なのだろう。皇帝が担うのは、次代を産む(産ませる)ことと、外交の顔となることくらいだろうか。

そういえば連邦にも、ハーレム外交を得意とする帝国があったな、とカイは思い出した。時代錯誤も甚だしいのだが、なぜかそれなりの成果は上げていたようだ。

これだから人間は…。

ま、ボクのご主人様には通用する訳がないけど。


「姫さま、その猫は?」

カイはナギという乳母の声で我に返った。

「あ、この子は森で会ったの。果物を食べてたわ。」

「はあ?猫が果物を?まさかガイロア?」

神官たちが一気に警戒モードに入るが、ネフィルはけらけらと笑った。

「そんなわけないでしょ。もうここは神域の中よ。」

あー、コレって、対ガイロアの結界なんだ、とカイは思った。ザルみたいにお粗末で穴だらけだけど、神官たちが警戒を解いたところを見るに、ガイロアにはある程度の効果があるんだろう。

しかし。カイには引っかかる点があった。

これで防げる…?それって?

まあ疑問は他にもあるし、今は検証の手立てがない。いや、面倒くさい。

ほっとこ。それが目下の結論である。

ボクは所詮通りすがりの猫だし。


「果物好きの猫って珍しいでしょ?それに、すっごくお利口みたい。果樹園があるって言ったら付いてきたもの。」

「あらあら。」

ネフィは一言もウソは言ってない。

乳母と神官たちに囲まれ、覗き込まれたカイは、何食わぬ顔で「ニャーン」

と鳴いてみた。くるくると丸い目が、猫好きの皆さまにどんな効果を発揮するかなど承知している。

案の定、乳母の目が融けた。

神官たちも、ネフィルに向けた表情がウソみたいににこやかだ。

うん、カワイイは絶対正義に違いない。

本来の姿では、誰にもこんなに可愛がってなんか貰えないのだ。〝まあ、ご主人様は別かな。あの人はボクがどんな姿でも気にしないから。でもやっぱり黒猫サイコー!だってこの姿なら、ためらいなくご主人様の膝や肩に飛び乗れるし♡〟


「どこから迷い込んだのかしらね。素敵な首輪をしているから、飼い猫でしょうに。」

「さあね。ああ私、少し疲れたわ。休みたいんだけど。」

「その前に、ネフィルさま。私に黙って外出してはならないと、あれほど申し上げましたね。」

一転して鋭くなった乳母の目が怖い。ネフィルは首を縮めて、乳母から目を逸らす。

「ご、ごめんなさい。」

身長はネフィルの方が少し高いのだが、乳母には叶わない様子だ。叱られた子供みたいに、嵐が通り過ぎるのをただ待っている。

幸い、今回はごく短いお説教で済んだ。

この乳母、かなりの猫好きだったせいもある。

神官たちは、カイを撫でたりあれこれ甘ったるい言葉を掛けるのに忙しく、乳母は2人をチラ見しながら自分もカイをかまいたくて仕方なかったのだ。

そんなわけで、カイが猫好きトリオから逃れられたのは、かなり時間が経ってからだった。


〝よく、〇〇好きには悪い人はいないとか言うけどさ、アレってどうかな?少なくとも猫好きにはいろんな人がいるもんね〟

というのが、目下カイの感想である。

宜しかったら、評価、ブックマークお願いします。

連載はまだ始まったばかり。

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

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