表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫カイくん家出する 強制的に休暇を取らされたので、異世界で無双します。  作者: WR-140


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/22

涙って、少ししょっぱかったりします。

最終話です。

何の前触れもなかったが、ネフィルは予期していた。

画面からカイの姿が消えた瞬間に。

案の定。

「お帰り、カイ。」

ふわりとソファに着地した黒猫は、ふう、とため息をひとつ。

「ただいまです。」

「ねえ、何で?」

「はい?」

「何で殺さなかったの?」

ネフィルは傍のカイを見下ろしながらそう訪ねた。

黒猫はエメラルドの目でネフィルを見上げる。

「あなたがそれを望まないからですよ、ネフィさん。」

ネフィルは首を傾げた。

「私、自分で殺したいって言った。聞いてたでしょ?」

黒猫は頷いたが、こともなげに答える。

「それも本心ではあるでしょうね。だけどあなたは生きている限り後悔し続ける。ボクにそれがわからないと?」

「だとしても余計なお世話っ!」

ネフィルはカイの首根っこを掴むと、目の前に持ち上げた。

「く、苦しいっ!猫をこんなふうに持っちゃいけないんですってば!」

「アンタ猫じゃないじゃない!」

ネフィルはカイを床に放り投げた。

猫じゃないけど、今は猫であるカイはひらりと着地を決める。

〝うーん、我ながら10.0。

ボクはちょっぴりいい気分だけど、ネフィルは違うみたい。〟

カイは、彼女を振り向いた。

「イヤなの。」

ポツンと呟いて、ネフィルは俯いた。

「ネフィさん?」

「あ、あんなのが私の…。」

「ネフィ…。」

膝の上でギュッと握った拳に、ボタっと涙が落ちる。ひと滴、更にひと滴、生暖かい涙が震える頬を滑り落ちた。

突然、ソファの座面がぐっと沈み込んだ。

ネフィルは立ち上がろうとしたが、その前に人型のカイが彼女の肩を抱き寄せる。

「ひ、卑怯だよね、アンタって。」

「情報将校なので。」

ネフィルは黙って頭をカイの肩に預けた。

「…あなたを傷つけたなら謝ります。ボク、ひとの感情への配慮が足りないってよく言われますから。」

特に女性に対して。

「アンタ、私に構いすぎだよ。」

「え?」

「ほっといてくれたらいいのに。」

唇が震えた。後から後から、涙がどんどん溢れてきて止まらない。

一体どこにこんなにも涙のストックがあったのか、ネフィル自身呆れるしかなかった。

なぜ泣いているかもよくわからない。

あの男が生きてることが悔しいのか、カイの手を汚すことにならなかったのが嬉しいのか、自分の血を呪いたいのか。

「ボクね、かなり強い生き物なんです。」

カイがポツリと言った。

「だから、ボクには他人の気持ちがわからないって、ご主人様に言われました。他人の痛みや苦しみ、悲しみみたいなことに疎いって。」

ネフィルは泣きながら黙って耳を傾けた。

「お前は弱者を知るべきだって言われて、士官学校に放り込まれました。24時間、2年間を人間として過ごしてみろってね。もしも正体が露見したら、ご主人さまにお仕えすることができなくなる条件でした。」

「それ、キッツ…。」

白い栗鼠もどきに変身出来るネフィルとしては、変身した姿でそんな長い時間を過ごすなんて考えられない。

「ボクもそう思いましたよ。絶対ムリだって。ご主人様は、ボクが要らないからそんな無茶な条件を出すんだって。深い深い穴の底に突き落とされたみたいな気分でした。でも、ボクにはご主人様以外、主君も家族もいない。ボクらはそういう性質の生き物なんです。」

「そっか…。やっぱ人間とは違うんだ。」

カイは頷いた。

「そしてボクはやり抜きました。今では楽しい思い出です。まあ、ご主人様ははっきり言って、かなりクセのある方ですけどね。」

「でも帰るんだね、カイ。その人のとこへ。」

ネフィルは知っていた。

これはカイなりの別れの言葉だということを。


「あの遺言動画ですが、ネットのどこを探しても残らないよう処理済みです。」

ネフィルの今後を考えての処置だろう。

「あとね、ボクはあまり優しくはないですから、あなたがここで見ていた映像は、リアルタイムで全世界配信済みです。全てをね。こちらは消去してません。どこかの複数のアーカイブに、永遠に残り続けるでしょう。そしてあなたには申し訳ないですが、この国では今後、大規模な政変が起きるでしょう。他国に併呑されるかもしれません。生き延びて下さいと言ったら、あなたはボクを恨みますか?」

ネフィルは首を振った。

「もう十分よくしてもらったよ。私の人生だもん、これからは、私が頑張るしかないじゃない。」

「あなたなら大丈夫。…それと、今後シドルーフォス卿は、全世界から糾弾されて、死んだ方がマシだと思うことになるでしょうね。一族の資産は凍結しましたから、逃亡しても捕まるのは時間の問題でしょう。も一つおまけです。彼は今後生きている限り、絶え間ない疼痛に見舞われ続けるでしょう。」

「え?なんかの病気とか?」

「神経を少しいじりました。治ることはありません。苦痛で発狂するかも知れませんが、誰かを害するほどの身体機能は残してないので、まあ大丈夫でしょう。生ある限り苦しんで頂きます。」

「エグ…。アンタってほんと容赦ないんだね、カイ。」

「お褒めに預かって恐縮です。」

褒めてない。絶対褒めてないんだけど。

ネフィルは涙に濡れたアクアマリンの目を上げた。

「もう行くんだね。」

「はい。それからあなたの新しい身分に関するものはテーブルの上にあります。では、ボクはこれで…」

言いかけたカイの唇に柔らかで温かいものが押し当てられた。

ネフィルの唇である。彼女の両腕はカイの首に回されている。

キスは長く続き、カイはネフィルを抱きしめた。

そのままどれくらいの時間が経っただろうか。

「さようなら、ネフィル。」

そんな声を聞いたような気がした。

抱きしめていたはずの両腕から、確かにそこにあっだはずの質量が喪失した時。

「さようなら、カイ。」

その言葉はカイに届いたかどうか。

ソファの上にはただ1人、ネフィルだけが残されていた。


ひと月の後。

巨大国家連合の中枢、首都惑星リマノにある行政府〝宮殿〟の迷路の奥深く、闇に囲繞された盟主執務室に、跪くカイの姿があった。

「翼の騎士カイ・エミリオ・バルト、只今帰還致しました。」

近衞である飛龍遊撃隊特有の敬礼は、かなり古めかしい。

この部隊に所属しているのは全員、人型に擬態したドラゴンである。

彼らは長命種だ。

隊の儀仗的あれこれは数千年の歴史を持つ礼法に則っているから、万事が時代遅れなのは致し方ない。

「お帰り、カイ。」

答礼を省いて、柔らかな微笑みを見せたのはカイのご主人様。

今日は簡素なロープ姿である。

第15代銀河連邦盟主〝紫の宮〟は、歴代最強の〝神族〟である。

だが。

「どやった、休暇は?」

ゆったりした関西弁だ。

少なくとも数百の言語に通じる盟主だが、これが1番リラックス出来る言葉であるらしい。

「どう、と仰られましても、龍一さま。」

「ふふ。美味い果物にでも会えたんか?」

カイは少し考えた。

「そうですね。」

柔らかな桃のような香りと色。

甘い唇の感触。

「でも、最後はちょっとしょっぱかったです。」

盟主の笑みが深まる。

「人生そんなもんかもな。」

「御意。」

ネフィルの前から姿を消して約1ヶ月、カイは人知れず彼女を見守り、同時にあの世界の行く末を眺めていた。

いくつかの危険な兆候に対処しつつ、シドルーフォスと教皇の残党狩りも行いはしたが、ネフィルがそれを知ることは永遠にないだろう。

それで良かった。

彼女は大丈夫だ。


「で、おまえは何してたんや?」

「ちょっと世界を救ってました。」

盟主はビロードの声で笑う。

「なんや。ここでしてることと変わらへんな。」

「龍一さまのお役に立てているんでしょうか、僕ごときが?」

自信なんか全然ない。カイは最強のドラゴンだけど、まだ30年も生きてはいない赤子のようなものだから。

それに最愛のご主人様は、ナマクラ刀一本でも、カイを殺せるだろうから。

ご主人様はカイの問いには答えず、跪くカイの頭を撫でる。殆どペット扱いだけど、カイにとっては無上の喜びの瞬間だ。

猫の姿ならゴロゴロと喉を鳴らしてる。

「今日はゆっくりしぃ。明日からまた忙しいさかい。」

「はい。それではこれにて。」

退出の礼法に従い、カイは執務室を後にした。

〝でもやっぱり、涙ってちょっぴりしょっぱかったよね。〟

などと、内心で呟きながら。


           ー完ー

お読みいただきありがとうございました。

次は何を書くかまだ決めていません。

ご意見、ご感想をお寄せ頂けましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ