表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫カイくん家出する 強制的に休暇を取らされたので、異世界で無双します。  作者: WR-140


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/22

遺言執行者

一斉に武器がポイントされた。

「やめろ撃つな!」

太った補佐官が鋭く制止する。

ドラゴンオーブに当たりでもしたら取り返しがつかないのだ。

ほぼ同時に、枢機卿が無言の身振りで指揮下の魔導師達を制止した。

枢機卿自身が卓越した魔導師で、ここにいる魔導師達は彼の子飼いの部下である。

先ほど教皇が口にしたこの国1番の魔導師とは他ならぬ枢機卿のことだった。

魔導師たちの闘いは、兵士のそれとはいささが違う。

火力もあるにはあるが、メインは補助的な魔法などで、火器に比べるとあまり派手さはない。

それだけに陰湿というか、敵対すると厄介な相手なのだ。

毒、麻痺、幻覚、精神錯乱など、対処が面倒な系統が多くて、それぞれの出力調整も自在にできる。最大出力ならば、どの系統であっても致命的だ。

つまり、クレーターの上の男を制圧してオーブを奪うことは、火器より安全確実に行えるのである。その筈だった。

だが枢機卿には、漠然としてはいるが、強い懸念があったのだ。

男は文字通り宙に浮いている。

なのに、何の力も感じられない。

これは、あり得ない事態である。

素早く2度、3度とサーチを繰り返すものの結果は同じだった。

魔法も、機械的な力場も、不可視のワイヤーなどの類も一切ない。

男は間違いなく実体のある人間だ。

つまりホログラムや幻覚の類じゃない。

考えられるのは二つ。

ひとつは、男が未知の、つまり枢機卿では特定不可能な能力を持っている。

今ひとつは、そのような能力を持つ何者かが男を浮遊させている。

しかし、そんなことは今までになかった。

どんなまやかしがあるにせよ、普段ならば一気呵成に制圧にかかるところだ。

枢機卿を思いとどまらせたのは、他ならぬドラゴンの存在だった。あのような奇跡が実在したのなら、自分が知らない能力がこの世にあってもおかしくない。

それにこの男の、あまりにも超然とした様子は何なんだろうか?

武装した熟練の兵士と魔導師を前にして、こんなにも淡々としている様は異様である。どこか退屈げにさえ見えるのは、演技なのかハッタリなのか。

薄気味悪い。

読みきれないことが不安を煽る。

〝自分だけならまだしも…〟

枢機卿は、筆頭補佐官のブヨブヨした巨体を見た。

相変わらず、実に虫が好かない。何から何まで気に食わない男ではあるが、判断の素早さと正確さについては疑いの余地などなかった。

その筆頭補佐官が慎重な態度を崩さない。

感情を読むのが難しい男だが、今見て取れるのは強い警戒感である。

〝どうやらこいつも同じことを感じているようだ。〟

と枢機卿は確信した。


「君は何者かね?」

沈黙を破って最初に口を開いたのはシドルーフォス卿だった。

その口調には余裕がある。

普通に考えるなら、こんな若造1人などが脅威になるはずはなかった。

「私ですか。」

宙に浮かんだ男は、優雅に一礼した。

「カイ・エミリオ・バルトと申します。」

顔を上げ、微かに微笑んで続ける。

「ネフィル嬢の遺言執行者とお考えいただきましょう。」


「はあ?ちょっと私がいつ死んだのよ?」

思わず声に出してツッコミを入れながら、ネフィルは首を傾げた。

「てか、死んだんだっけ?んー、まあフツーにそうかもだけどぉ。」

どっちにしても、あの画像を見た人間はみな彼女が死んだと思っただろうから。

それにしたって。

「卑怯だよ、カイ。また人間のカッコなんかしちゃってさ。何がしたいんだか。」

ふうっと息を吐いて、ネフィルは腕組みした。

「私ドキドキしてる。何でかな…。」


「君。バルト君と言ったかな。ネフィルは私の娘だ。なぜ君が遺言執行者などと。不敬ではないかね。」

威圧と軽侮を言葉に乗せたが、プラチナブロンドの男はいささかも動じなかった。

「事実なので仕方がないてすね。証拠はこれで充分かと。」

むしろ退屈そうに、指先でオーブを弄んでいる。その稀少な宝玉にわずかな敬意すら持っていない動きだ。

シドルーフォスも枢機卿も逆にハラハラさせられた。

「気をつけなさい、君。神に対する冒涜ですぞ。それは神女ネフィルの形見の品です。所有権は当然リナクサス教にあるのですから。」

教皇の言葉に、シドルーフォス卿が首を横に振った。

「何を言われるのですかな猊下?皇女ネフィルはまごうことなき我が娘。その形見なれば父親である私こそが。」


「だ・か・らっ!誰が娘だ、キモっ!」

スクリーンの前で地団駄踏むネフィルであるが、どうしようもない。


「シドルーフォス卿、しかしながら神女ネフィルはハッキリ申された。あなたに殺されるとね。それが偽りだとでも?」

挑発を込めた教皇の視線を、シドルーフォス卿は嘲笑で跳ね除けた。

「ははは。猊下ともあろう方がまた異なことを仰る。覚悟の上とはいえ、死を前にしては若い娘が錯乱するなど当たり前。その身を持ってドラゴンを召喚し、世界を救った皇女ネフィルの偉業こそ讃えられてしかるべきでしょう。」

神妙な顔で祈りのポーズを取るシドルーフォス卿の姿に、教皇は呆れ返った。

今更あれこれ取り繕っている場合ではない。ここにいる者は皆ガイロア侵略の真相を知っている。

遺言執行者を名乗る若造も、勿論ここから生かして帰すつもりはない。

それにネフィルの件は、教皇にしてみればそもそもシドルーフォスに出し抜かれた、手痛い敗北なのだ。

「娘が聞いて呆れますな。そもそも、あなたが受精のための精子をこっそりご自分のものと入れ替えたのは、明らかな裏切り行為だ。」

そうだ。まんまとしてやられた。

自分の子であると主張することで、シドルーフォスはネフィルを引き取ったのだ。

神殿に隔離したのもシドルーフォスだし、ネフィルを処刑したのもそうだった。

ここでバルトと名乗る若者が口を開いた。

「何やら不穏な仰りようですね、猊下。そうすると、そちらのシドルーフォス卿とネフィル嬢を親子と呼ぶには少し語弊が?」

興味なさそうな、淡々とした物言いだ。退屈そうでもあるが、シドルーフォスと教皇は、白い指先でくるくると回されるオーブから目が離せない。

「無論、そうだとも、執行者よ。」

そう答えつつ、教皇は気もそぞろだった。

〝あれがあの高さから落ちでもしたら…!〟

魔導師達なら止められるだろうが、万が一ということもある。

大きな物なら大雑把な魔法で事足りる。

しかし、あんな小さな、しかも繊細な外見の物体だと力の掛け方によっては破損の危険があった。下手に魔力を向けて弾き飛ばしでもしたら一大事だ。


「それはどういうことか、ご説明頂けますか?その内容次第でこれをどうするか決めたいので。」

「無論ですな。そもそも、ここなシドルーフォス卿こそがガイロアの脅威を招いた張本人であり、哀れにも亡くなった、否、シドルーフォス卿に殺害された神女ネフィルこそ、ガイロアを招き入れるため作り出された鍵なのですから。」

「作り出された?」

教皇は両腕を大きく広げて嘆息した。芝居掛かった身振りである。

「人工授精。まあそういうことです。重要な遺伝子は卵子のみにあったので、正直精子など誰のものでも良かった。形質発現のコントロールに支障がなければ、ですが。それなのに父親だなどと。はは、片腹痛いことこの上ない。」


「アンタも同類のクセに良く言うよ。」

ボソッと毒づいたところで、ネフィルはハッとして固まった。

〝物音?〟

窓の方からだ。

忍びやかな足音。細かい瓦礫が周辺に散乱していなければ、全く聞こえなかったかもしれない。それは窓の前あたりでぴたりと止まった。

遅まきながら、ネフィルは思い出した。

車から降りた連中のうち数名が、周辺警戒のため散って行ったのを。

素早く室内を見回すが、隠れられそうな場所はない。いや、人間の姿では無理でも、小動物なら身を隠すのは容易いだろう。

だが。

変身するとき、ある種の魔力と、金色の光が生じる。兵士が窓の前に居るなら、当然気付かれてしまうだろう。

どうする!?

このままじゃ見つかってしまう…!?

一気に血の気が引く。

突然の眩暈がネフィルを襲った。膝から崩れかけて辛うじて体勢を立て直したが。

ガタンッ!

バランスを崩しかけて、踵が椅子の脚を蹴った。思いのほか大きな音が響く。

万事休す…!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ