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黒猫カイくん家出する 強制的に休暇を取らされたので、異世界で無双します。  作者: WR-140


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12/22

ただいまです

惑星上空の遥かな高みに浮かんだドラゴンの首が、三たび虚空へと持ち上げられる。

音なき咆哮。

そして、3度目のブレスが惑星に向けて放たれた。

それは、煌めく紫のオーロラとなり、折り重なりさんざめく光のカーテンとして地上に降り注いだ。それはまた、満遍なく生きとし生けるものを満たし、周囲のあらゆる事象を輝かせつつ消えた。

『神の祝福』

それが、この壮大な黙示録的光景の締めくくりに、人々が贈った名称である。

かくしてガイロアの脅威は地上から去ったのだった。


〝ん?なんか変に注目されちゃってない、ボク?〟

そういえば通信衛星なんかは壊さなかったなあ、と遅まきながら事態に気付いたカイであった。

めんどくさいな、と内心では再度ため息をつきつつも、補修作業の最終点検を行う。

穴の性質上、昆虫以下あまり小さなものは通れないはずだが、それは絶対ではない。

生命は、ただ単に穴を通って出入りするわけではなくて、一旦分子レベル以下まで分解され再構築される。

その際、分解された細胞内組織やなんかが誤って再構成されることもあるのだ。

つまり、何かが混ざったり欠けたり、壊れたりする可能性は排除できない。

だがしかしそこまではカイの知ったことではなかった。

こちらの世界に溢れてきたモノは、空間に亀裂を入れる触媒となりかねないから、元いた場所に返さねばならないのだ。

その結果までは面倒を見切れない。

何が起きるにしても、二つの世界がそっくり消えて無くなるよりはマシというものだろうし。

〝うん。まあこんなとこだよね。〟

概ね満足して、カイは一息つく。

ネフィのところに戻らなければいけない。

目立たないように。


人々は見た。

しろがねのドラゴンが虚空を仰ぐのを。

長大な双翼は一度、ゆらりと羽ばたきのように翻った。そしてそのまま、ドラゴンは宇宙の深淵に向け飛翔する。

その航跡はやがて輝く銀の糸となり、加速につれてどこまでも遠く遥かに紡がれるかに見えた。

この奇跡に、人々はただ刮目し化石するしかなかった。狂おしいまでの憧憬。

全てをその眼に焼き付けずにはいられない衝動。

歴史は、いままさに刻まれたのだ。

そして彼らは目撃者となった。


「ただいま、ネフィさん。」

倒壊寸前の神殿の屋上である。

忽然と現れた黒猫の姿を見て、ネフィルは弾かれたみたいに立ち上がった。

今まで1人でボンヤリと座っていたのだ。

「あー、おっかえりカイ!どこ行ってたのよもう!心配したんだからねっ!」

「ちょっと繕い物を。」

「つくろいもの?なにそれ?」

「んー、大したことじゃありません。それより、ここに誰か来ませんでしたか?」

「ああ。こんなになっちゃったもんね。それがさ、なんか車がいっぱい登って来かけたんだけど、途中でみんな引き返してったみたい。変なの。」

神殿は、岬に通じる道の途中の小高い場所にある。道路はここからよく見渡せた。

衛星砲が着弾し、果樹園と神殿が破壊されたことは把握していたはずだが、カイのハイスペシールドにより、ネフィルの生存は知られていない。

破壊の規模からして皇女ネフィルが生きている訳はなく、ここに向かっていた車列は事後処理と隠蔽工作のためのものだったのだろう。

そこに、ドラゴン出現の知らせがあれば、優先順位としてはそちらが高くなる。

ガイロア侵攻はネフィルを攻撃した者の仕業だから、今までは自分たちが事態をコントロールしていると信じていたはずだが、ここにきて突然ドラゴンなどという存在が現れたのだ。

彼らの計画にとって、未知なるイレギュラーが。

敵勢力、あるいは敵国による謀略?

いや、内部に叛乱分子が?

疑心暗鬼は更なる不信を生む。今はとにかく情報収集と守りを固めるのが優先事項。

だから帰還命令が出たのだろう。

おめでたいことに、ネフィルを殺害したからガイロアの侵略が止まったと信じているかも知れない。とすると…。

「カイ?」

「臨時ニュースみたいですよ。」

カイは空中に構築したウインドウにニュース画面を映し出した。

「は…?何これ?ドラゴン?」

ネフィルは笑い出した。

「ナイでしょ!そんなこと、あ、でもさっき通り抜けてったあの感じって…?」

「驚いたな。このシールド越しにあれが感知できたんですか。」

「え?あんなにはっきりしてたのに?」

ボクもまだまだだな、とカイは素直に思った。確かに、わずかならある種のブレスはシールドを透過するが、まさかネフィルが気付くとは思わなかった。

カイのシールドは強力無比である。

その能力があまりに強いから、時々生きたシールド製造機扱いされる位だ。

「…?!え、ち、ちょっと!これ何なの?このニュースおかしくないっ?!」

「まあ想定内ですね。」

しれっと答えたカイは、ネフィルに両脇をつかまれて、持ち上げられた。

画面には、ネフィルの写真が映し出されている。

「わ、私が自分を犠牲にしてドラゴンを召喚した!?あり得なーいっ!」

「ん?よく考えたら案外そうかも…。」

確かに、カイがここまで関わる羽目になったのはネフィルが原因である。

あと、果物と。

カイは、チラッとクレーターを見下ろした。衛星砲で破壊された果樹園の成れの果てである。

何だかふつふつと怒りが沸いてきた。

「もうっ!真面目に聞いてよ〜!」

ネフィルは、黒猫を揺さぶった。

「き、聞いてますから!落ち着いて下さいネフィさん!」

「だって!私が召喚の代償に死んだことになってるのよ!国を挙げて追悼式典ですって?冗談じゃないわっ!」

「好都合じゃないですか。これであなたは自由だ。」

「…え?」

カイは身体を捻ってネフィルの手から逃れた。

ヒラリと神殿の屋根に降り、ネフィルを見上げる。

「いいですか。皇女ネフィルは死んだんです。この国は、出生時に与えられる番号で国民を管理してる。ならば、その番号さえあればあなたは別の人物として生きることが可能でしょう。」

アメリカの社会保障番号制度と似てるな、とカイは思う。だからやり易い。

ここには戸籍制度はないから。

ネフィルは呆然としていた。声も出ない様子である。

「それとも、皇女の地位に未練が?」

「まさか!それは1ミリもないわよ。」

ふう、とため息をついて、彼女は腰を下ろした。

「何度も想像したわ。皇女なんかじゃなくなればいい、ここから出ていけたらどんなに幸せだろうって…。自由、かぁ。でもほんとに?」

カイは頷く。

公的記録は簡単に書き換えられる。

架空の身分をでっち上げることは、カイには容易い。

バレるバレないの次元ではなく、それが唯一の真性の記録となるのだ。

その前に少し作業しないといけないことがあるが、そちらも多少面倒ってだけで大した問題ではないし。

「ボクに任せて下さい。」

「お願いしちゃっていいの?」

「大丈夫。簡単なことですから。」

カイはチェシャ猫の笑みを浮かべた。

邪魔をするものは排除するまでである。

カイは気がついていないが、この辺の思考回路は彼のご主人様そっくりだった。

絶対強者の傲慢さといえばそれまでであるが、こちらから無闇に手出しするつもりはない。

ただ、逆らうならば容赦しないというだけのこと。

「さて。新しい身分についてご希望は?」

「あ、私とあんまりかけ離れてないのがいいかな。孤児で、勉強は出来ないけど、家事とか育児なんかはわりと得意で、あとは…」

ネフィルの希望を具体的なデータに落とし込みつつ、カイは世界中の報道をモニタリングし続けていた。

ネフィルの将来に問題となりそうな要素を特定するために。

チェシャ猫の笑み。

いつもはまんまるな、猫らしくない瞳孔が針のように細くなっていた。

応援いただけたら嬉しいです。

次回も宜しく。

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