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黒猫カイくん家出する 強制的に休暇を取らされたので、異世界で無双します。  作者: WR-140


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光輝、空に舞う

カイは、人型を解いて猫のかたちに戻る。

猫じゃないけど、人型よりはこの方がしっくりくるのだ。

ネフィルがなぜだか残念そうな表情を浮かべたけど、カイには理由がわからない。

「カイ、何で猫にもどっちゃうのよ?」

「はい?ボクはこの方がラクなんですが、何か?」

「アンタ私より背が高いのね。」

「それが何か?」

カイはますます困惑した。意味がわからない。確かに、猫の姿よりは人間の時の方が大きいけど、それをいうなら本来の姿の方がもっと大きい。

だからといって、そんな些細なことに意味があるとは思えないが…?

「ま、まあいいわ。今そんなこと言ってる場合じゃないし。」

カイは頷いた。何だかまたネフィルの頬が赤い。熱はないけど。

「ね、私何で記憶がないんだろ?」

「6歳までの記憶ですか。」

そもそも、数少ない成功例と見做されていたはずのネフィルが、なぜ孤児院で育つことになったのか。

「推測していることはありますが、証拠はないし、今のところは別に優先すべきことがあります。」

「でも。逃げ回るのって、限度があるよね。何で私が狙われてるかもよく分からないし。」

ネフィルにとっては、それはその通りだろう。だから、自分について手に入る限りの情報を欲するのは自然の成り行きである。

だが、今ある情報だけで、既にカイの方針は決まっていた。

「あなたは利用された。誰か、多分あなたの父上によって、大規模陽動作戦のための鍵としてね。今あなたを殺そうとしているのも、同じ勢力でしょう。ガイロアをこの世界に招き入れるための通路が、制御不能になる前に閉じてしまおうとして。」

ネフィルの表情がこわばった。

「私が死んだら、ガイロアはもう来ないってこと?」

カイは首を横に振る。

「彼らはそう考えているでしょうね。あまりに愚かとしか思えませんが。事実は、あなたを殺しても通路は塞がりません。」

「どうしてアンタにそんなことが分かるのよ?」

「彼らよりその分野に詳しいからです。ボクは、自力で異世界間を行き来できる生き物ですから。異世界転移には、とんでもないエネルギーが必要なのですが、その大半は無理に世界を繋げたために起きる、時空の歪みをただすためのものなのです。それをせずに世界と世界を繋いだら、歪みはジリジリと拡大して、遂には世界が混じり合ってしまうでしょう。ゴム風船が弾けるようにね。」

ネフィルが青ざめるのがハッキリ見てとれた。

「そしたらどうなるの?」

「人間だけてなく、生物が生き延びるのは不可能でしょう。」

カイにとってはどうということはないが、それは言わない方がいい。その程度の分別はある。

「そんな…!」

「事実です。」

黒猫カイは淡々と答えた。黒い尻尾がゆらりと揺れる。

「だ、誰かが何とか出来るんじゃ?だって、ガイロアを招き入れたのは人間なんだから…。」

「この世界のテクノロジーと魔法はあまりにもお粗末です。風船に穴を開けるのは一瞬でできますが、穴を塞ぐには道具と余分なエネルギーが必要なことすら、わかっていない。」

カイは言葉を切って、ため息をついた。

何でボク、こんな目に遭ってる?

「それじゃ、ちょっと行ってきますね。」

「え?あ、あの、どこへ?」

「どこというか、風船の穴を塞ぎに。あなたはここにいて下さい。結界は残して行きますから。また後で。」

「あ、ち、ちょっと!」

黒い小さな猫は、フワリと浮き上がった。

風船の穴は、一つではない。

ガイロアは、世界の何箇所にも同時に現れたのだ。

〝となると。猫より本来の姿がマシかな。あんまり変わらないけど、幾らか大きいから〟

カイは、ネフィルを包む不可視のシールドを越え、更に上昇した。

連邦内で元の姿に戻るには、ご主人さまかその一族の許可が必要だが、ここは異世界である。

ああ久しぶりだ、とカイは思う。

そういえば前回本来の姿に戻った時も、時空の綻びに関係してたっけ、と何となく思い出した。

急激に、四肢に力がみなぎって行く。

圧倒的なパワーの感覚に、一瞬眩暈がした。

数トンの質量を現出させると、核爆発にも似た巨大な衝撃波が生じるが、その大半は新たに展開したシールドで防げるだろう。

少し強い突風くらいは起きるが、ネフィルの周りのシールドがそれを遮断する。

ネフィルは時空の特異点を内包しているが、カイは生まれながらにして一つの世界そのものに近いパワーを持つ生き物だ。

永劫にも等しい一瞬の後、廃墟と化した神殿の上空に、輝かしい銀の火球が燃え上がった。

「ド、ドラゴン?!」

それは一頭の巨獣である。

全身を覆う白銀の鱗にはホワイトオパールの輝きが宿り、巨体の周囲には陽炎が燃え立つように広がっていた。

鋭い線を描く長大な翼は、羽ばたくことなくゆったりと左右に広げられている。

無論この大質量を飛行させるには、鳥類のような方法は取りえないわけだ。

さて、時間はない。

出発するとしよう。

この世界のお姫様が呆然と見送るうちに、巨獣はぐんぐんと上昇しつつ加速する。

ドラゴンは、巨大な人類社会、連邦においてもイレギュラーな、伝説そのものの存在だ。

翼の騎士であるカイは、中でも破格の力を持つ。第15代連邦盟主、通称〝紫の宮〟のドラゴンとして、いま新たな伝説を築く途上にあった。

が…、

〝あーあ。やってらんないよね。こんな面倒な仕事、やる羽目になる、フツー?〟

と、その輝かしい外見に反して彼の頭の中はボヤキでいっぱいだ。

そうこうするうちにも、ドラゴンは上昇する。大気圏の青の領域から紫、やがて宇宙の暗黒へと、微妙なグラデーションを貫き、銀の光跡を描きつつ。

成層圏の放電現象であるスプライトは、既に眼下だ。

見下ろせば、大陸と海、湧き上がる雲の全てが視界に入る。

ちまちまと空間の修理作業をするより、この惑星を跡形なく吹き飛ばす方が遥かに簡単なのだが、と、カイは再びため息をつきたい気分だ。

〝でも、仕方ないもんね。この世界を救おうと決めたのはボクだし。ご主人さま、怒るかな?多分大丈夫だよね。あの人もなんだかんだ言って、かなりお節介だもん。〟


そんなわけで、カイは空間を繕うという、前代未聞の作業を開始した。

地味で繊細なその作業は、服やリネンの繕い物に驚くほど似通っている。虫喰いの穴を塞ぐのは、面倒で根気のいる作業だ。

ただし、主観的には、だが。

実際には、作業(?)を目にした者たちは度肝を抜かれることになった。



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