濡れた足跡がひとつ増えている
夜のシャワーを浴び終え、バスタオルで髪を拭いているとき。
ふと、床に残った濡れた足跡が目に入った。
素足のまま脱衣所を歩いた、自分のものだと思っていた。
けれど――違和感があった。
足跡が、ひとつ“多い”。
私の足跡は左から右に向かって並んでいる。
でも、それとは逆向きの足跡が、重なるように残っていた。
まるで、誰かが私の後ろから付いてきていたかのように。
私は凍りついた。
家には、誰もいないはずなのに。
怖くなって、床を拭き取った。
何度も、タオルでごしごしと。
濡れた足跡が消え、少しだけ安心した。
それでも、ベッドに入っても落ち着かなかった。
暗い天井を見つめながら、うとうとしてきたころ――
廊下から、水音が聞こえた。
ぽた、ぽた、と何かが落ちる音。
水道を止め忘れたかと思い、起き上がる。
ドアを開けると、廊下の床に、また足跡があった。
濡れたままの、素足の足跡が。
今度は、寝室の方へ向かって並んでいる。
心臓が跳ねる。
足跡は、明らかに私のものじゃない。
間隔が広く、サイズも違う。
しかも、途中で一度立ち止まり、振り向いた跡がある。
私は、そっと寝室の扉を閉じようとした。
そのとき。
背後から、ひたり――ひたり――と、濡れた足音が近づいてきた。