集合
ルイスは弟のタムを抱き、妹のカヤとマヤを連れて港町の集落を回っていた。
冬前の稼ぎ時に漁に出られず、王都へ出稼ぎに行った者もいるが、多くは先祖代々の漁師家系で、他の仕事に踏み出せず家にこもっている。
最初に訪れたのは町長の家だった。町長は元漁師で高齢だが、長年、町長のほか漁業組合長も務めている。
「町長、お話があります」
ルイスは、海に毒が流れた可能性があること、魚の大量死は病気ではなく毒によるものだということ、そして今まさにそれを解毒できる“マジですっごい女神さま”が来ていることを説明した。さらに、その人が町の皆を港に集めたいと言っていると告げると――
「信じがたい話だが、この町一番の期待の星であるお前がそこまで言うなら、協力しようじゃないか」
町長はそう言って、ルイスと共に呼びかけに回ってくれた。
「ありがとうございます。あとは我が家だけなので、自分で伝えに行きます」
「ああ、後で港に行くぞ」
町長と別れた後、ルイスはふと気づく。
――ティナが町のどこにもいない。
「まさか町を出たんじゃ……? 隣町は物騒だし……」
胸がざわつく。とにかく家族に港集合の件を伝えて、もう一度探そうと決めて家の玄関を開けた。
「ただいまー!」
マヤとカヤが先に駆け込む。ルイスは、目を覚ましたタムをそっと下ろした。
すると、奥に行ったはずの二人が、ばたばたと戻ってくる。
「ルイス兄ちゃん、彼女がうちに来てた!」
「今、父ちゃんと母ちゃんと話してる!」
「えっ!? ティナが!?」
彼女じゃないと言い返す暇もなく、ルイスは慌てて部屋へ飛び込んだ。
「あ、おかえり、ルイス!」
そこには、怒って去ったはずのティナが、なぜか上機嫌で立っていた。
「なんでここに……」
困惑しつつも、ほっとするルイス。
ティナはすっかり両親や弟妹たちと打ち解け、まるで家族の一員のようになっていた。
――この一時間足らずで何があったんだ?
聞きたいことは山ほどあるが、とりあえずみんなで港に来てほしいとだけ伝える。
「ミレイアが呼んでるのね」
事情を察したティナは、弟妹たちを引き連れて外へ出た。マヤとカヤが嬉しそうに手を引き、港へ向かう。
両親も後に続いて家を出る。
「母ちゃん、まだ具合悪いんだから休んでたら?」
「大丈夫よ。私も行くわ。……ねえルイス、あなた、いい友達を持ったわね」
母は嬉しそうにそう言うと、父の腕に軽く寄り添いながら歩き出した。
ルイスは先に行ったティナたちを追い、港へと駆けていった。




