表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/273

治療室の動揺

学園の治療室に転移したミレイアとアゼル。

穏やかな空気の中、ふたりは抱きしめ合ったまま、静かに言葉を交わしていた。


「アゼルも転移魔法を使えるなんて……わたし、知らなかった」

ミレイアが顔を上げてつぶやく。


「ああ。魔塔でこき使われるのが目に見えてたからね、黙ってたんだ。実は今までも、ノクシア領に行く時はこっそり使ってたよ。……まあ、今回ので、魔塔にはバレちゃったけどね」

アゼルは苦笑しながら肩をすくめる。


「ごめんなさい、わたしのせいよね……。だけど、アゼルが来てくれなかったら、きっと……」

ミレイアが眉を寄せる。


「謝るな。謝るのは僕の方だ」

アゼルはミレイアをぎゅっと強く抱きしめた。

「昨日、刺客に襲われたと聞いた。僕は、ミレイアを守ると決めていたのに……何もできなかった」


「そんなことない!」

ミレイアは、胸元のペンダントに手を当てる。

「アゼルがくれたこのペンダントが、攻撃を跳ね返してくれたの。アゼルは、ちゃんと助けてくれたよ」


アゼルは抱きしめていた手を緩め、そっとペンダントに触れた。


「……これは……、僕のとは違う制御魔法が重ねられてるね。しかも、かなり濃厚な……。なんだか気分が悪いな」


彼は手のひらをミレイアの胸元に密着させ、魔力を流し込んだ。

ペンダントを突き通った魔力が、そのままミレイアの体内へ流れ込む。

いつもの穏やかなものとは違い、強引に奥深くまで押し入ってくるような、熱を帯びた魔力だった。


「っ……あ、アゼル……ちょっと、それ……」

ミレイアは身体の奥が敏感になるような震えを感じて、顔を赤らめる。


「これで大丈夫。僕の魔力で、上書きしておいたからね」

耳元で囁かれる甘い声に、ミレイアは照れくさそうに顔を逸らした。


「あのね、アゼル。あなたも、レオンも……わたしのことを守るって言ってくれるけど、やっぱり、守られてばかりじゃ嫌なの。わたし、自分のことは自分で守れるようになりたい」


「そうか……」

アゼルは優しくミレイアの髪に指を通す。

「ミレイアが、自分のために魔法を使うのが苦手なのは知ってる。だからこそ、僕が守ればいいと思ってた。でも……君がそう簡単に黙って守られる子じゃないことも、よく知ってる。危ないことをするなって言っても、言うことを聞かない。無鉄砲で、頑固なところもよく知ってる。僕は、そんな君に惹かれているんだから」


アゼルは、ミレイアの頭を愛おしそうに撫でる。


「アゼル、わたしに――身を守る術を教えてほしい。もしも命を狙われているなら、甘いことばかりは言ってられない。ためらわずに反撃できるように、なっておきたいの」


「ミレイア……君は本当に……」

アゼルは嬉しそうに口元を綻ばせた。


「もちろんだよ。君が苦手を克服できるように、僕が手伝う。……君がもう、危険な目にあわないように。全力で力を貸すよ」


「ありがとう、アゼル……」


ミレイアの潤んだ濃紺の瞳を、アゼルはじっと見つめる。

ペンダントが、淡く光を灯す。

そっと肩に手を添え、ゆっくりと距離を縮め――


アゼルはミレイアの唇に、優しく口づけた。


キョトンとした顔で目を見開いたミレイアは、それを拒むことなく受け入れた。

唇が重なり合い、アゼルの舌がそっと滑りこむ。

熱を帯びた深いキスへと変わっていく。


「ん……」

ミレイアは目を閉じ、甘い吐息を漏らした――


――その時。


「おい、何をやってる」


治療室のドアが勢いよく開き、レオンが入ってきた。

その視線は鋭く、二人を見据える。


「……いいところだったのに」

アゼルが小さく舌打ちする。


ミレイアは我に返り、アゼルから慌てて距離を取った。

真っ青な顔で、アゼルとレオンを交互に見比べる。


「ミレイアは俺のものだ」

レオンがアゼルから奪うようにミレイアを抱き寄せる。


「さっきクラリスに、ティナから連絡があった。ミレイアがあなたと一緒に学園の治療室に転移したって。……ふたりの雰囲気が危険だったから、殿下に急いで知らせたほうがいいのでは、ってな」


レオンは、じろりとアゼルを見据えたあと、肩で息をつく。

「まさかとは思ったが……。まあ、あなたをミレイアのもとへ向かうように仕向けたのは俺だ。俺にも責任はある」


彼はミレイアの顔を覗き込む。目が泳いでいるミレイアをじっと見つめ――口角をわずかに吊り上げた。


「とはいえ、ミレイアにしたことについては、改めてきっちり話を聞かせてもらうよ。……今は、ミレイアにも色々と“お仕置き”が必要だしな」


そう言って、レオンはミレイアを横向きに抱き上げると、そのまま治療室を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ