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禁じられた外出

秋晴れの穏やかな朝、ミレイアの部屋にはぴんと張りつめた空気が残っていた。

昨日の襲撃事件により、ミレイアは周囲の者たちから外出を固く禁じられていた。

王太子から護衛として派遣されたセルジュが、今もミレイアの部屋の前に控え、ノエルとフローラも、未来からの手紙の言葉に従って、ミレイアのそばを離れずに見張っていた。


3人揃って朝食をとり、動きやすいドレスに着替えた後、ミレイアは本を読みながらのんびりと過ごしていた。ノエルとフローラは向かい側のソファに2人並んで座り、今は、うとうとと目を閉じている。夜通しミレイアを見張っていたのだから、眠くなるのも仕方ない。

ミレイアは、床でコロコロと転がって遊ぶモフィとスインに目をやった。


その時、ふとポケットの中から小さな振動が伝わってきた。

取り出したのは、親指ほどの大きさの携帯用通信魔道具。もちろんミレイア自身が設計製作したものである。

従来のものは場所を指定して繋ぐが、この携帯用は、相手の名前と顔を思い浮かべるだけで瞬時に繋がる仕組みだ。発売前の試作品だが、すでに完成度は高く、信頼のおける学園の友人たちにひとつずつ渡して感想を求めている段階だった。


ミレイアはノエルとフローラを起こさないように、部屋の隅の執務机に移動し、魔道具に手をかざした。

器具は淡く光り、やがて上擦った声が静かな部屋に響き渡った。


「ミレイア……!」


声の主は学園で親しくしている友人、ティナだった。


「ティナ? 落ち着いて。何があったの?」


「兄さんのいる商会のリュネ支部が……攻撃魔法で襲われたの。犯人たちは捕まったんだけど……山が崩れて、みんな閉じ込められてて……! 私、たまたま近くまで来てて……。今その場にいるの。また土砂が崩れかかってる! 救護団も危ないから入れないって言うし、魔塔にも連絡したけど、すぐには来れないって……!」


ティナの声は、息も詰まるほど切羽詰まっていた。


「お願い……無理を言ってるのはわかってる。ミレイアならなんとか出来ないかって……思って……」


ミレイアは短く息を飲んだ。

ティナは、昨日の出来事も、未来からの手紙のことも知らない。


ソファで眠るノエルとフローラを見て、一瞬迷ったが、今自分が行かなければ……という気持ちが優った。


「……わかった。私が行く。必ず助けるから、心配しないで」


通信が切れると同時に、魔道具の光もすっと消える。


ミレイアはすぐに机へ向かい、王国地図を広げた。

リュネ鉱山――地形は険しく、魔力障害も多い。精密な計算と高い制御が必要だが、転移は可能。


視線で座標を確かめながら、頭の中で転移魔法の術式を組み立てる。地図を畳み、足音を忍ばせて部屋の中央に立った。


ノエルとフローラにちらりと視線を向け、心の中でそっと詫びた。


行き先を言ったら、絶対止められるもの……


足元に展開されていく、淡い光の魔法陣。

魔力が空間を振るわせる直前、光に気づいたノエルが目を覚まし、フローラもつられて立ち上がった。


「……お嬢様……? 待って、まさか……!」


「だめっ、ミレイア様!」


フローラの叫びが響く中、ミレイアは振り返らず、ただ強く言い切った。


「ごめんなさい、ノエル、フローラ……! すぐに戻るから!」


その瞬間、光が爆ぜるように広がり、彼女の姿は消えた。


モフィとスインは、迷うことなくそのあとを追うように、光に包まれて消えていった。


フローラは急いで部屋の扉を開け放ち、廊下に立っていた護衛のセルジュに声をかける。


「セルジュさん! ミレイア様が、いなくなりました!」


セルジュは一瞬目を見開いたが、すぐに真剣な表情に変わる。

部屋の中を素早く確認すると、転移魔法の余波とわずかな光の痕跡が、彼の目に映った。


「……転移魔法か。承知しました!」


短くそう言い残すと、セルジュは踵を返し、勢いよく駆け出す。向かう先は王族寮――レオンがいる執務室だ。

報告を一刻でも早く届けなければならない。

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