70 防御魔法
レオンとミレイアが向かい合わせで馬車に乗り込む。
扉が締められ、やがてゆっくりと動き出した。
ミレイアは落ち込んでいた。
押し倒されたあの瞬間、咄嗟に魔法を使えなかった事実がミレイアの肩に重くのしかかっていた。
もしアゼルがくれたペンダントに防御魔法がかけられていなければ、あの刃は身体を貫いていたかもしれない。
「アゼルの魔法に助けられたの……」
そう呟くミレイアに、レオンは胸の内に複雑な思いを抱えた。自分が守れなかった悔しさと、無事でいてくれた安堵が入り混じる。
けれどそれ以上に――
「……なんで、ミレイアが狙われたんだ」
疑問は、怒りと共に胸を締め付ける。
そのとき、ミレイアの膝の上に小さな影が飛び乗った。
「ミレイアはね、自分のために使う魔法が下手なんだよー力も弱いのにー」
「危ないの〜。わたしたちが守らなきゃなの〜」
モフィとスインはレオンの方を見上げ、真剣な表情で語りかけるように耳をぴくぴくと動かす。
「……なんて言ってる?」
レオンはミレイアに問いかけた。言葉が通じていないのは明らかだった。
ミレイアは微笑んで、肩にくっついているふたりをそっと撫でる。
「ミレイアは自分のために使う魔法が下手、力も弱いし、危ないから自分たちが守らなきゃって言ってる」
レオンの目がわずかに揺れる。
「そうなのか?」
ミレイアは、静かに頷いた。
「……わたし、基礎体力や腕力は平均より低くて。剣術の訓練も受けたことがあるけど、全然駄目で……。だから、ずっと魔法を頑張ってきたの。でも……」
少し視線を落として、指先をぎゅっと握る。
「他人のための魔法ならすぐに発動できるのに、自分を守るために使う魔法は、ためらってしまうの」
その言葉に、モフィとスインが再び「なのなの〜」と同意するように頷いた。
レオンは眉をひそめ、何かを決意するように体を起こした。
そして、席からすっと立ち上がると、ミレイアの隣へと移動する。
「……ああ、分かった。だったら、俺たちでミレイアを守ろう」
その声には、迷いがなかった。
「ミレイアを守るためなら、俺は誰とだって手を組むさ」
そう言って、そっとミレイアの胸元――アゼルが渡したペンダントに手を添える。
柔らかな魔力がゆっくりと注がれる。
アゼルのものとは違う、レオン特有の熱を帯びた魔力。
それはペンダントの宝石を突き抜けてミレイアの奥まで流れ込み、ドクドクと音をたてる。届かないはずの場所に痺れを感じ、体中を熱く満たすような感覚が広がっていった。
「あ……っ」
甘い声が、思わずミレイアの唇からこぼれる。
ペンダントがふわりと光を灯し、レオンの防御魔法がそこに重ねられたことを知らせていた。
レオンは、優しくミレイアの肩を抱き寄せる。
「もう二度と……君を傷つけさせない」
その言葉に、ミレイアはそっと目を閉じた。
モフィとスインがミレイアにぴったりと寄り添い、レオンと競うように彼女に甘えている。
馬車の中は、静かに、温かい温度に満たされていた。




