ミレイアの控室
控室で寮に関する説明や、代表挨拶の段取りの確認が終わった頃、ミレイアは小さく息をついた。
「……ふう。あとは入学式だけね」
「いえいえ、まだ終わりませんよ、ミレイア・ノクシア嬢!」
にこやかに控室の扉を開けて入ってきたのは、魔法植物学の教師──と思われる中年の男性。
その後ろから、次々と他の教師たちの姿が見えた。
「あなたの論文、拝見しましたよ。十歳であの解析力とは、見事の一言です」
「卒業後は、ぜひ魔塔に来ませんか? 研究に最適な環境を──」
「いや、王立魔法技術研究院の方が設備も資金も整っています。ぜひ一度見学に──」
「ではでは、少しだけで構いません。魔法の適性検査を改めて──」
──ひ、ひとりずつ! 順番にしてっ!
ミレイアは笑顔を保ちながら、内心で半泣きになっていた。
初対面の男性に囲まれる。距離も近い。目も合う。しかも、熱心。
──こんな状況、魔力が……っ!
頬が少しだけ熱を帯びたその瞬間、床がなんとなく揺れたような気がした。
「……っ!」
急いで深呼吸。自分に言い聞かせる。
落ち着け、ミレイア。これは外交だと思って乗りきるの。地面を揺らしてる場合じゃない……!
「あの……あまり近づかれると、風圧でリボンが飛びますので……」
そう言いながら一歩下がると、教師たちの顔がほんのり青ざめた。
「あっ、そ、それはいけませんな!」
「失礼しました、我々の熱意が過ぎましたか……!」
ぱっと一斉に距離を取る教師たち。まるで怪獣を驚かせた小動物のようだった。
……よかった。暴走は、してない……はず
小さく胸を撫で下ろすミレイア。
そんな彼女に、傍に控えていた女性教師がそっと耳打ちした。
「あなたのご挨拶、本日の入学式の最初に予定されています。すぐに会場へご案内しますね」
「……はい。がんばります」
ミレイアは気を引き締めながら、学園最大のホール──入学式会場へと向かっていった。