お出かけ
土曜の王都。朝から賑わう商店街の空の下、ミレイアはクラリスとティナに挟まれて、あちこちの店を巡っていた。
「ねぇミレイア、この紅茶の専門店、絶対好きだと思うの!」
ティナが指差す先には、華やかな缶がずらりと並ぶ店。ミレイアは目を輝かせて頷く。
「すごい……こんなに種類があるなんて、知らなかったわ」
「でしょ。王都の醍醐味はここよ」
それぞれの護衛たちは数歩後ろを静かに歩き、少女たちの賑やかなやりとりを見守っている。
「あそこに、可愛い雑貨店もあるわよ」
クラリスもティナに負けずにミレイアに商店街の紹介をする。
午前中たっぷり歩き回ったあと、三人は評判のカフェでランチをとることになった。
護衛たちは外で待機しており、テーブルには彼女たちだけ。
料理が運ばれてきたタイミングで、クラリスがふと声を潜める。
「ねえ……殿下と付き合うことになったんだって?」
ミレイアはフォークを持ったまま、ぴたりと手を止めた。
「な、なんでそれを……?」
ティナが身を乗り出す。
「やっぱり! 最近ランチのときの雰囲気が妙に甘かったもん」
クラリスは肩をすくめて笑う。
「ロイがね、あの山小屋の時に、殿下から聞き出してきたのよ。で、我慢できずに私に喋って……結局、私が殿下に問い詰めたら、あっさり認めたってわけ」
ミレイアが少し恥ずかしそうに視線を落とす。
「……うん。自分でもまだ信じられないけど、そういう流れに、なって」
「キスされたんでしょう?」
「な、な、なんでそこまで知ってるの!?」
真っ赤になったミレイアに、クラリスが笑いながら目を細める。
「その様子だと、ミレイアの方もまんざらじゃなかったのね。安心したわ。殿下のことは、小さい頃から見てきたから応援もしてるけど……あの人、恋愛になるとポンコツだから」
「ポンコツって……さすがにそれは不敬じゃ……」
ティナが心配になる。
「事実よ。あの人、本能で動くから。もし、それ以上のことを求めてきても、簡単に許しちゃダメよ。絶対に」
言葉の意味に気づいて、ミレイアの顔がさらに赤くなる。
「わ、わかってるわ……!」
そのとき、ティナがミレイアの胸元を指差す。
「そういえば、ミレイアがつけてるそのペンダント、素敵。もしかして、殿下からのプレゼント?」
ミレイアが少し戸惑ったように指先で宝石をなぞる。
「ううん、これは……アゼルがくれたの」
空気がピンと張り詰める。
「……もしかして、二股?」
ティナが冗談めかして言うと、ミレイアが慌ててかぶりを振る。
「違うの! これは、魔道具なの。わたし……恋愛感情が高ぶると、魔力が暴走する体質で……」
クラリスとティナが、驚いたように目を見開く。
「それで、恋愛する気がないって言ってたのね」
「……大丈夫なの? 殿下と付き合って、暴走とか」
「……何度か暴走は起きた。でも、今のところ、周りに害を与えるようなことはなかったの。……昨日、アゼルに、わたし、レオンのことが好きだって伝えたら、このペンダントを渡してくれたの。彼の魔力が込められてて……暴走を抑えてくれるの」
クラリスが少し静かに尋ねる。
「……アゼルさんは、納得してるの? 」
「……わかってくれたと思う。諦められないとは言われたけど……」
少し切なげに微笑むミレイア。
すると、クラリスとティナが同時に、手を握るようにして言った。
「ミレイアが幸せなら、どっちでもいいの」
「わたしたちは、殿下でもアゼル・フェンリルでもなくて――ミレイアの味方だから」
ミレイアの目に、そっと熱いものがこみ上げてきた。
「……ありがとう。二人とも、大好き」




