2回目の幸せ
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レガリア暦427年3月18日
小さな港町でアゼリオと暮らし始めてから1ヶ月。
わたしたちは、治療院を開いて細々と生活していた。
幸せな日々……だけど、そんな日々はあっという間に崩れ去った。
わたしたちの居場所が魔塔と神殿に見つかってしまった。
神官たちは聖女が攫われたと思っていて、魔術師たちは、魔塔主を誘惑されて奪われたと考えていた。
魔力の高い神官と魔術師たちが、港町を囲み、互いへの攻撃魔法を次々と繰り出した。
町はあっという間に燃え上がり、無関係の町の人たちが……わたしたちを慕ってくれていた温かい人たちが……巻き込まれた。
アゼリオは、魔法で火を消し、瓦礫をよかし、町人たちを救い出した。そして、神官たちを攻撃し、仲間の魔術師たちにも攻撃を加えた。
わたしは、怪我を負った人たちに治癒魔法を施しながら、一箇所に集めて頑丈な結界を張った。
いつもいたずらをしてきた小さな男の子が泣いている。
いつも食べ物を持ってきてくれた明るい婦人が震えている。
いつも綺麗な花を見せてくれた庭師のノールは…… 仲間たちを守りたくて、結界を飛び出した。
放っておけなかった。
魔術師が放った雷魔法が、ノールを貫こうとした時、わたしは彼の前に飛び出した。
ーー神官たちの治癒により一命を取り留めたわたしは、神殿に戻された。
アゼリオは、わたしに二度と危害を加えないことと、港町の復興に尽力することを条件に、魔塔に戻った。
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レガリア暦427年5月25日
新しい国が生まれたらしい。ーーアレキサンダス帝国。
紛争中の近隣国をひとつにまとめ、今やレガリア王国を超えて世界最大の国になった。
初代皇帝は、人型精霊の妻を持つという。
絵空事だと言われているが、わたしは本当のことだと思っている。
前世では、普通に街中にたくさんいた聖獣や精霊は、今ではほとんどいなくなった。それでも時折、わたしの前に姿を見せ、話しかけてくる。聖獣や精霊の声が聞こえるのは、聖女の力のひとつなのだろう。
聖獣は、自らの大きさを変えることができるので、小動物に擬態して生活をしているものもいる。
精霊は、形も大きさも様々で、人に近い種族も存在している。
あの子たちは、そろって契約をしたがるけれど、わたしは断っている。精霊たちと契約をするためには、膨大な魔力が必要。一生を通して責任も伴う。自分のことで精いっぱいの今のわたしには、とても無理だ。
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レガリア暦427年6月20日
カルファル陛下が、アレキサンダス帝国に侵攻し、皇帝と皇妃を暗殺した。
奪い取ろうとした帝国の政権は、皇太子によって守られたようだけど……。
無敵だと思われていた帝国の長を無くし、世界にはレガリア王国への畏怖の念が広がっている。
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レガリア暦427年7月12日
アゼリオに再会した。
治癒を施すために訪れていた治療院に、患者のふりをしてやってきた。
……もうすぐ父親に勧められた相手と結婚すると伝えに。
お別れを言うために。
彼は、指輪を渡してきた。
"別れを切り出したばかりの相手に指輪ですって?贈る相手を間違えているでしょう?"
戸惑うわたしに、
"いつか同じ時代に生まれ変わったら、一緒になろう。そのための約束の指輪だよ"
って。
……わたしたちは、人目を盗んで最後の口付けをした。
今までで1番せつない魔力が、流れ込んできた。
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レガリア暦427年12月1日
港町で命を救った庭師のノールが会いに来てくれた。
手紙のやり取りは続けていたけれど……心配になって会いに来たんだと思う。
ノールは、わたしが空元気で頑張っていることを見抜いていた。自分の前では弱音を吐いてもいいし、聖女でいる必要もない。そう言って黙って側にいてくれた。
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レガリア暦428年2月24日
ノールが神殿の庭師として働き始めてから2ヶ月が過ぎた。いつも弱音を吐かせてくれる優しい彼に、少しずつ惹かれているわたしがいる。
アゼリオからもらった指輪は、まだ外せないけれど……
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レガリア暦428年3月1日
わたしに求婚状が届いた。……カルファル陛下からだ。
陛下は、従順な王妃と幼い息子を持ちながら、たくさんの側室を作って、飽きると捨てることを繰り返している。隣国の王女を囲い始めたという噂もある。
わたしも、ついに使い捨ての側室に選ばれてしまったのだろう。……王命を断ることは、死を意味する。
……わたしは、まだ生きていたい。
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レガリア暦428年4月1日
王宮への輿入れの日。
着飾らされた姿で、ベッドに押し倒されたわたし。
あの男は、笑いながら言った。
"ようやく手に入った。この日をどれだけ待ち望んでいたか。邪魔をしていた魔塔主は、もういない。別の女と結婚して子作りをすれば、黙るかと思っていたが……聖女にだけは手を出すなと、うるさくてね。さっき、この手で殺めてきたよ"
頭が真っ白になった。
もう、何もかも……どうでもいいと思った。
あの男は愉快そうに口笛を吹きながら、わたしのドレスを破いた。
だけど……
そのとき、指輪から強い衝撃波が飛び出して、あの男を弾き飛ばした。
アゼリオが、強力な防御魔法をかけていたのだろう。
わたしは、我に返り王宮から逃げ出した。すぐに追われることになってしまうかもしれないけれど……
あの男が憎い。世の中が憎い。アゼリオを守れなかった自分が憎い……
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レガリア暦428年5月5日
あれから、1ヶ月が過ぎた。
王宮から逃げて数日は、身を隠しながらビクビクすごしていたけれど、事態は意外な結末を迎えた。
あの男が暗殺されたーー帝国の皇弟によって。
両親の仇打ちもあるけれど、囲われていた隣国の王女が、彼の恋人だったらしい。
アゼリオと同じ転移魔法を使う精霊の息子……彼が現れなければ、今、わたしはここにいなかっただろう。
カルファルに心酔していた要人たちや、神官たちは、暗殺されたことを聞いても涙一つ流さなかった。むしろ、目が覚めたように晴れやかな顔をしている。
新しい国王になったコートナルは、前世で愛したレオナルの子孫。
この国は、きっと今より良くなるよね。
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レガリア暦431年4月15日
アゼリオが亡くなってから、3年。
ずっと側で支え続けてくれたノールと結婚することになった。
待たせてごめんね。幸せになろうね。
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レガリア暦433年3月12日
ノールが亡くなった。
馬車に跳ねられて、即死だった。
これまで聖女の力で、たくさんの人を救ってきたのに。
神様、もうこれ以上……わたしの大切な人を奪わないで。
わたしのお腹の中には、新しい命がいる。ノールが残したわたしたちの赤ちゃん。
必ず守りぬくから。
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レガリア暦466年2月14日
わたしはそろそろダメみたい。もう、魔力が枯渇してしまった。
だけど、前世の倍も生きられたし、娘のラルアも結婚して、孫の顔まで見せてくれた。
充分幸せだったわ。
だけど、もう一度生まれ変わるなら、もう恋愛はしたくないかな。
大切な人を失うのは、つらすぎるから。
ノール、アゼリオ……もうすぐそっちにいくからね。




