表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
264/373

交渉

レオンたちが公邸に到着してから3時間後。ーーようやく応接室の扉が開き、アレキサンダス帝国の皇太子と外務大臣が姿を見せた。


「待たせたね。皇太子のヨウィエル・アルシェイタだ」

ヨウィエルは涼しげな水色の瞳で室内を見回し、気安く片手を上げる。

プラチナブロンドの髪を無造作に流し、首元にじゃらじゃらとアクセサリーをつけた、軽い雰囲気の男だった。


外務大臣のソトシンは、旧友のブリックに一瞬目配せした後、穏やかに一礼した。

「ソトシン・ザルティアです。本日は率直に話し合えると幸いです」


レオンは深く頭を下げ、丁寧な帝国語で挨拶をした。

「レガリア王国王太子、レオン・エルヴィス・レガリアでございます。本日はお時間を頂き、感謝いたします」

宰相のソウダインと文官長ブリックも続けて丁重な挨拶をする。


ヨウィエルは気取らない笑みを浮かべ、3人を椅子に座らせた。


「皆さん帝国語がお上手だ。レオン王子のことは、ずっと噂には聞いていたが……会うのは初めてだな。同い年だし、立場も近い。気楽に話そう」


「はい。よろしくお願いします」


「さて──単刀直入に聞くよ。レガリア国王陛下は、どうして我が国に戦線布告の書面なんて送ってきた?そして、何故すぐに取り下げた?」


テーブルに肘をつき、レオンをまっすぐ見たヨウィエルが、淡々とした口調で問いかける。

「それにさ……昨晩、国境の町が君たちの兵に占拠されたという報告があった。『建物の崩壊、多数の怪我人あり』ともね。けれど今朝見に行ったら、そんな痕跡はひとつもなかった。兵は『王命の手違い』を主張し、既に撤退した後だった。──この食い違いの理由を説明してほしい」


重い問いかけに、レオンは姿勢を正して答えた。


「……信じていただけるかわからないのですが、事実をお話しします。

王宮では、多くの者が“精神魔法”によって操られていました。国王陛下も、例外ではありません……」


レオンが、レガリアの現状を出来る限り詳細に説明する。

国境の町の被害が消えていたことについては、自分たちも確認したが、混乱が生じていたため誤った報告がなされたのだろう……と誤魔化すことしか出来なかったが……。


室内がしばし静まり返る。


続けてソウダインが口を開く。

「私も……操られていた一人です。自分の意志とは違う発言をし、気づけば悪夢の中に閉じ込められたような感覚でした。今は術が解けていますが、その間の記憶は断片的にしか……」


ソトシンが驚きと複雑さの混じった表情で友人のブリックを見る。

「ブリック。なぜ……なぜ相談してくれなかった?」


ブリックは眉を下げ、悔いるように首を振った。

「確信がなかった。そもそも王宮内の多くが精神魔法に操られているなど、言ったところで信じてもらえないと思った……。それに、誰が敵かも未だわからなくて……」


ヨウィエルはしばらく黙って聞いていた。

やがて、指先でテーブルを一度だけ軽く叩き、口を開いた。


「精神魔法──存在は知っているよ。古い文献で読んだことがある。

暗示を掛けるには対象者の“心の隙”が必要で、幾度も接触して継続的に魔力を重ねる必要がある。術者は恐らく、王宮に頻繁に出入りできる人物だな。

それに、たとえ暗示状態になっても、理性を失うだけで潜在意識は残るらしい。つまり……」


ゆっくりと、レオンへ視線を向ける。


「レガリア国王陛下が一時的とはいえ帝国を攻めようとしたのは、心の奥底に“領土を広げたい”という欲があったんじゃないのか?」


レオンの目が揺れる。


ヨウィエルは続ける。

「犯人も、目的も、まだ不明。そんな段階で“正気に戻ったから信じてくれ”っていうのは……少し都合がよすぎると思わない?」


軽薄な笑顔に隠れていた“帝国皇太子”の冷静な威圧感が露わになる。


レオンはまっすぐ顔を上げた。

「……おっしゃる通りです。ですが、私は断言いたします。レガリアは帝国に敵対する意思を持ちません。私は、このようなことが二度と起こらないよう、王宮の監視体制を整え、精神魔法の使い手の特定と排除に責任を持って取り組みます」


ヨウィエルはじっとレオンを観察する。


「これからのことは君を信じるしかないが、今回の責任はどうとる?

すぐに撤退したとはいえ、あれは国際問題だよ」


レオンは深く息を吸い込み、答える。


「覚悟しています。そのために参りました。

賠償として、我が国からは“黒魔石”の提供を考えております」


ヨウィエルは一瞬だけ「へえ」と眉を上げ、椅子にもたれかかった。


「黒魔石か。……正直、それは魅力的だね。帝国でも高品質のものはなかなか手に入らないし」


軽い口調だが、真剣に価値を測っている目つきだ。


ソトシンが静かに補足する。

「ですが、今回の件は軍の移動を伴い、周辺地域に不安を生じさせました。被害がなかったとはいえ、帝国の威信が揺らいだのも事実。その“損失”をどう評価するかが問題です」


レオンは深くうなずいた。


「我々としては、黒魔石の継続的な供給契約を結ぶことで、誠意を示したいと思っています。年ごとの数量は、帝国側の要求を伺った上で調整したい」


ヨウィエルはレオンの言葉を聞き終えると、組んでいた腕をほどき、体を前に倒した。

水色の瞳が、真っ直ぐレオンをとらえる。


「……ねえ、レオン王子。俺もレガリア王国とは敵対したくないんだ。こちらの条件も聞いてほしい。なに、そんなに難しいことではないよ……条件は3つある」


レオンは静かに頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ