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婚約者として

ミレイアは自分の部屋に転移したあと、携帯通信機に手をかざした。


「ベルトラン? まだノクシア領にいるの?」


『あー、今は馬車で二時間ぐらいの東の商人街に来てる』


「今、行ってもいい?」


『え? もしかして転移魔法で……?』


ベルトランは、父イグニッツ侯爵の被害者を少しでも減らそうと、商人街でひそかに動いているところだった。

近隣国に奴隷として売られた孤児たちを買い戻し、養護施設に預けていた彼は、今日は様子を確認しに来ていたのだ。


光とともに路地へ転移してきたミレイアの姿を見つけたベルトランは、孤児たちに「また後でな」と軽く手を振り、急いで駆け寄った。


「ベルトラン! 良かった。すぐ会えたね」


ミレイアが嬉しそうに飛び跳ねる。


「ちゃんと細かい場所まで聞いてから転移しろよ。……慌てんぼうが」


ベルトランの口調は荒いが、その目はあたたかい。


二人は人目につかない路地裏のベンチに腰掛けた。

ミレイアが会いに来た理由は、瞬間記録器で見た映像について知らせること、告発の準備状況の共有、そしてイグニッツ侯爵が関わる人身売買と犯罪のもみ消しについて、ベルトランの知る事実を聞き出すことだった。


「ああ。ミレイアが調べた内容に間違いはない。他にも、俺が知ってることは全部話すよ」


話し込むうちに、二人の距離は自然と近づき……手と手が触れ合った。


ベルトランは、胸に押し込めていたミレイアへの想いが高まっていくのを自覚し、切なげに顔を向けた。


「今の状況じゃ、ミレイアへ送った求婚状を取り下げるのは難しそうだ。父たちを欺くためにも、第二王子の婚約披露パーティーには……俺の“正式な婚約者”として参加してほしい。

パーティーの途中で父や第二王子派が断罪されれば、その婚約は自然となくなるだろう。

自分も加担した罪は少なくない。……すべての罪を償うよ。きっと、一生牢屋から出られないだろう。それまで……束の間の夢を見たら駄目か?」


ミレイアは少し考えてから、しっかりと頷いた。


「わかった。パーティーへはベルトランの婚約者として参加するわ」


「ありがとう……」


「だけど、ベルトランがすべての罪を被るのは駄目。あなたが妹とお母様を守るために父親の命令を聞きながら動いていたことも、騙されて借金を作った貴族を助けていたことも、全部知ってる。

フローラのお父様が無実の罪で処刑されてから、重犯罪でも死刑が出ていないのは、あなたがいつも裁判所に掛け合ってくれていたからだって聞いたわ。

人身売買の件だって、近隣国に売られた孤児たちをあなたが買い戻して養護施設に預けているよね?

そんな人が、罪の意識に押しつぶされたり、人生を諦めるようなことを言うなんて許せない!」


必死に捲し立てるミレイアに、ベルトランは深くため息をついた。


「はあ……。お前は本当に、なんでも知ってるんだな。

ミレイアを信じていないわけじゃないけど……父の冷たい目を思い出すたびに弱気になるんだよ。元々、父を道連れにして自首するつもりでいたし……」


「イグニッツ侯爵には重い罪がかかってしまうでしょうね。

全部を知って黙っていたベルトランも、侯爵位を継ぐのは難しいかもしれない……。

でも、わたしはイザベルが爵位を継ぐ道だってあると思うわ」


「あー、それができるなら一番いいな……」


「ベルトランは爵位なんかなくても、商才があるし、性格もいいし、かっこいいし、全部片付けば必ず幸せになれるわ。

わたしなんかより、もっと素敵な女性と」


「……ありがとう。ミレイアより素敵な女性なんて、この世にいるかわからないけどな」


複雑な笑みを浮かべるベルトラン。


「ベルトラン? わたし、あなたの婚約者として、やらなきゃいけないことはある?」


「……こうやって時々会ってくれたら嬉しいかな」


「元々、時々会いに来るつもりだったわ。友人だもの!」


「ああ……。パーティーにはお揃いのドレスで参加してほしい。今度一緒に買いに行こう」


「うん! それから?」


「……抱きしめてみてもいいかな」


「え?」


顔を覗きこむミレイアを、ベルトランは遠慮がちな手つきで抱き寄せた。


「婚約者なんだから、普通だろ?」


「……そうね。きっと普通だよね」


ミレイアがぎゅっと抱きしめ返すと、ベルトランは驚いたように目を見開いた。


「……このまま時間が止まってしまえばいいのに」


「え、なんか言った?」


ベルトランの呟きは、携帯通信機の着信音にかき消された。


「あ、アゼルからだわ」


『ミレイア、仕事が片付いたよ。今から西の森に向かう』


「わかった。わたしも向かうわ!」


ミレイアは通信機をしまい、立ち上がる。


「ベルトラン、また連絡するわ」


「ああ、また会おうな」


光に包まれて消えるミレイアを見送りながら、ベルトランはそっと肩を落とした。


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