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秘められし誓い

通信魔道具が静かに光を落としながら沈黙した後、ノクシア侯爵家の執務室では、

ギルバート・ノクシア侯爵が椅子にもたれながら深い溜息を吐いた。


「……想像以上に、楽しそうだったな」


窓際に立っていた夫人のシルヴィアが、振り返って微笑む。


「嬉しそうに話していましたね。お友達もできたと。……でも……まさか、レオン殿下と同じクラスだなんて。再会の可能性は考えていたけれど、初日から食事を共にするほどに近づいてくるとは、正直、驚きました」


「殿下が魔術科を選ぶとは、予想していなかったからな……」


執務机のそばに控えていた執事ケインが、静かに書類を片付けながら言う。


「殿下とミレイアお嬢様が初めて会ったのは、6年前のあの舞踏会でしたね」


「……やはり、あの時、会わせるべきではなかったのかもしれない」


ギルバートが低くつぶやく。

その声に、シルヴィアがそっと頷いた。


「でも、あのときは仕方なかったのよ。国王陛下直々のお達しだったのですもの。拒めばミレイアに、そしてわたしたちにどんな害が及ぶか……」


「まさか、王太子殿下がきっかけでお嬢様の魔力が暴走するとは……」


ケインの顔がわずかに強張る。

あの時、足元から地面が大きく揺れたことを思い出す。


「感情が高ぶって魔力が漏れ出すことは、それまでも何度かあったけれど……あんなに大きく揺れたのは、あの日が初めてだったわ」


シルヴィアの声には、あの夜の恐怖と戸惑いがまだにじんでいた。


「神殿で検査を受けた時、言われたでしょう? “強い感情――とくに恋愛感情のような心の動きが、魔力の暴走を引き起こす”と」


シルヴィアの声には、当時の衝撃がまだ残っていた。


「土や水、火、光、そして異空間への転移まで……制御できないまま、一斉に複数の魔法が発動する可能性がある。命にかかわるかもしれないと……神殿の長老がはっきりと」


「だからこそ我々は、殿下との関係を断たせたのだ。王家には“危険な体質”という理由で婚約辞退を申し入れた。だが――」


ギルバートはふと視線を落とし、低く言葉を継いだ。


「もし、あの出会いが二人の心に残っていたとしたら? 再会してしまった今、当時と同じように……惹かれ合うことがあれば、再び――」


「……あの子の心が大きく動くかもしれませんね」


――ふと、ケインが思い出したように言う。


「しかし、ここ最近のお嬢様は、どこか雰囲気が変わったように感じます。領地の知り合い以外に会うことを恐れなくなりました。“学園には行かない”とおっしゃっていたのに、ある日突然“絶対に行く”と……目の色が違いました」


「そう、急に前向きになって……驚いたわ」


シルヴィアが言葉を継いだ。


「……もしかすると、“あの手紙”の影響かしら」


「三年前からでしたね。読んだら消える、不思議な手紙が毎晩ベッドに置かれていると仰っていました」


「内容は一度も明かしてくれなかったけれど……あの子は、いつも手紙のことを大事な知り合いのように話していたわ。あの手紙が、あの子の進む道を後押ししているような……そんな気がするの」


ギルバートも静かに頷いた。


「……シオンたちの魔力による導きかもしれん」


その名に、空気がひときわ張り詰める。


3人の視線が、棚の奥に飾られた絵へと向けられた。そこには、幼いミレイアを抱いて微笑む2人の人物の姿が描かれている。


「シオンとアリアが命を賭して守り抜いた娘……我々のもとに託された奇跡の命だ。あの手紙が、あの二人の残した何かなら――」


「だったら、私たちは、信じてあげるべきだわ」


シルヴィアの声は、優しくも揺るぎなかった。


「強すぎる魔力も、人を惹きつける気質も、すべて遺伝だ。“女神様”と呼ばれているのも、ある意味で必然なのだろう」


ギルバートは、しばし目を閉じた。


「このまま静かに日々が流れれば、それが一番だ……だが、あの子の運命が動き出すのなら、備えておかねばならん」

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