お誘いラッシュ
午前のオリエンテーションが終わると、担任のアデランは教室を後にし、生徒たちも思い思いに荷物をまとめて立ち上がりはじめていた。
今日の予定はここまで。午後は自由行動となっており、寮へ戻って休む者、学園内を探索する者、そして早速友人とランチを共にする者など、空気は一気に和らいでいた。
ミレイアは、荷物をまとめているクラリスを見つけ、勇気を出して歩み寄る。
「……あの、クラリスさん。もし、これから予定がなければ……」
お昼ご飯を一緒に、と誘おうとしたとき、
「ミレイアさんっ!!」
ルイスが勢いよく前に回り込んできた。瞳がきらきらと輝いている。
「もし、もし今日のお昼が決まってなかったら……一緒に、学園のレストランに行きませんかっ!」
「え……」
一瞬面食らっていると、追い討ちをかけるように
「わ、私もご一緒したいですっ!」
と、元気いっぱいの声でティナ・ルーエが手を挙げた。
「ミレイアさんのお話聞きたくて!それに、弟子入りしたご挨拶も、まだちゃんとできてませんし!」
「え、ええっと……」
戸惑ってオロオロしていると、さらに、
「女神さま〜」
少し離れた教室の入り口から、よく通る声が届いた。
白銀の騎士服をまとった青年――ユリウス・セリオンが堂々と現れ、周囲の空気がぴたりと静まる。
「久しぶりにお会いできてうれしいです」
「あ……ユリウス?」
ユリウスはノクシア侯爵家の騎士団見習い。
三年前の大洪水の際、ミレイアの魔法によって命を救われた一人である。
彼女のためなら、命も惜しくない――と本気で言ってのけるほど、筋金入りの崇拝者だ。
「女神さまのために、カフェテラスの1番いい席とっておきました。一緒に行きましょう」
「……ありがとう。でも……」
そのとき、背後からすっと伸びてきた手が、ミレイアの手提げを取る。
「彼女を連れていくのは、僕だよ」
飄々とした声。振り向けば、いつの間にか教室に入ってきていたアゼルが、当然のようにミレイアの隣に立っていた。
「初日で疲れただろう?ゆっくりできる所にいこうか」
ミレイアの手を強引に引こうとしたとき
割って入ってきたのは――レオン。
アゼルの肩を掴み、ミレイアから引き離す。
アゼルはおかしそうに笑う。
「ふふ、また怒ってる。殿下、さっきから僕に対してずいぶんと過敏じゃない?」
「恋人同士でもないのに距離が近すぎです」
「でも、あなたも彼女の婚約者ではないでしょう?」
静かな火花がバチバチと散る。
ルイスとティナとユリウスは、いつの間にか意気投合していてミレイア談義に盛り上がっている。
「ずいぶんと人気者だな。ミレイアさんはどうしたいの?」
ロイがミレイアの顔をのぞきこむ。
「わたし、どうしよう……!みんなのお誘いすごくうれしいけど、わたしはクラリスさんと話したくて……でもなんて断れば、いや、断るなんてもったいないことできな……やっぱり順番に……」
ミレイアは明らかにパニックになっていて目が泳いでいる。
教室に残っている生徒たちが、騒ぎの様子を眺めている。
「なんかすごいことになってるね……」
「女神様、やっぱりただものじゃないよね……」
――と、口々にささやきながらも、どこか面白がっていた。
そんな中、クラリスが静かに一歩前に出る。
「……じゃあ、こうしましょう。全員で行けばいいわ。場所は私が確保する。文句ある?」
その冷静な口調と完璧な采配に、全員が思わず黙る。
「さすがクラリスさん……」とミレイアが小さく呟く。
そして一行は、賑やかに学園内のレストランへと向かった。