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招かれた夕食

案内された部屋の長いテーブルには、向かい合わせに二人ずつ座れるように席が用意されていた。

しかし、パミルとハンスはミレイアの隣をどうしても譲らず、結局ミレイアの両隣に席が作られた。

向かい側にはララベルがひとり腰を下ろし、呆れながらも口元に微笑みを浮かべた。

「この短時間に……ずいぶん仲良くなったのね」


食事が運ばれると、待ってましたとばかりにパミルが身を乗り出して話し始めた。

「ねぇ聞いて、お母さま! ハンス! わたし、森で大冒険をしたの」


魔物化した白龍と戦ったこと、死にかけた精霊たちを救ったこと……。

身振り手振りを交えながら得意げに語るパミルに、ハンスは尊敬の眼差しを送る。


「マジで!? すげー!」


ララベルは、アルスからある程度の報告は聞いていた。だが、娘の口から語られる言葉はもっと生々しく、それでいて夢のように聞こえた。

「え……そんなことが……。とにかく無事で良かったわ」


温かい料理を囲みながら、話は尽きない。


「そういえば……」と、ララベルが気になっていたことを切り出した。

「ハンスの部屋、ものすごいことになっていたけど……?」


その一言で、パミルとハンスは同時に声を上げ、興奮気味に話し始める。


「ミレイアお姉ちゃんが作る魔道具ってね、信じられないくらい面白いの!」

「魔法もすげーんだ! 部屋が遊園地みたいになったんだぞ! 星が浮かんで、すべり台までできたんだ!」


矢継ぎ早に語るふたり。

しまいにはパミルが、頬を赤らめながら叫んだ。

「ミレイアお姉ちゃんは見た目は美しいのに、中身がはちゃめちゃで……でもそこがすっごく魅力的なの! わたしの部屋にはね、ミレイアグッズがたーくさんあるのよ! 今までハンスには見せてなかったけど、特別に見せてあげる!」


「えっ!? なんでそんなの持ってるの?ずりぃ!」

ハンスが口を尖らせた。


ララベルは、そんな子どもたちの様子を見て小さく息をついた。

「ミレイアさん、この子たちがこんなに楽しそうにしているのを見るのは久しぶりよ。パミルは王妃教育が始まってから笑顔が減って、すっかり大人びた振る舞いをするようになったし……ハンスは乱暴な言葉や態度ばかりで、友達もできなくて」


「ララベルさん!」

ミレイアはまっすぐにララベルを見つめて言う。

「わたしも、とても楽しいんです。パミルはしっかり者で大人っぽいけれど、無邪気な笑顔が素敵な太陽みたいな女の子だって知っています。ハンスは乱暴なんじゃなくて、男らしいんです。友達だって、これからきっと出会えます。だって……こんなに魅力的な男の子なんですもの」


「まあ……そんなことを言ってくれるの?」

ララベルは胸に手を当て、深く頭を下げた。


褒められたパミルは頬を紅潮させ、満面の笑みを浮かべる。

ハンスは食事の手を止め、うっとりとした瞳でミレイアを見つめていた。


やがて食事が終わり、食器が下げられる。


ララベルはそっと身を乗り出し、小声で語りかけた。

「……ミレイアさん。さっきアルスから連絡があって聞いたの。あなたが、アルスの亡くなった姉の……娘だって」


ミレイアは静かに頷く。

「わたしも最近知ったばかりなんです。血のつながった親戚がいることも……どうしてノクシアの父母に実子として育てられていたのかも……」


「……不思議ね」

ララベルは遠い目をして、かすかに笑った。

「妹のクラスメイトでしかなかったあなたと、こんな縁があったなんて」


いつの間にか膝の上に乗っかっているハンスを抱きしめながら、ミレイアは問いかける。

「妹のマリエルさんは、主屋に?」


「ええ。私たちも、ハンスが生まれる前までは主屋で一緒に住んでいたのだけれど……父とコーラリーの義父のことは、アルスから聞いたんでしょう?」


「ええ……」

ミレイアは小さく返事をして口をつぐんだ。


ララベルがふっと表情を和らげる。

「……ミレイアさん。ハンスも離れ難そうだし、今晩は泊まっていかない?」


「え、でも……」

寮に戻るつもりでいたミレイアは戸惑う。だが、ハンスが飛び上がって喜び出したので断りづらくなってしまった。


「ミレイアがお泊り!? 絶対そうしろよ。一緒に寝よう!」

「え! ミレイアお姉ちゃんが泊まっていくの? ハンスじゃなくて、わたしと一緒に寝ましょ!」

パミルもミレイアの腕にくっついて甘え出す。


「俺が最初に言ったんだぞ!」

「何よ! わたしの方が前からずっと好きだったんだからね!」


再びミレイアの取り合いを始めたふたりを、ララベルが苦笑しながらなだめた。

「ミレイアさんには客室に泊まっていただくわ。あなたたちが早く就寝の支度を済ませたら、寝る時間までは一緒にいてもいいでしょう。……それでいいかしら?ミレイアさん」


「もちろん!」


約束を取りつけたパミルとハンスは、世話係の侍女に連れられて部屋を後にした。


2人きりになったのを確認し、ララベルは声を落とす。


「子どもたちの前では、父たちの断罪の話はし辛いわね……。いずれ知られることにはなるのだけれど。パミルの婚約が第二王子派を欺くための策であることも、悪事が公になれば私たち自身も共犯として捕らえられる可能性が高いことも……あまりにも重すぎるわ。あの子たちだけは守りたいのに、爵位を失って平民になれば、どう守ればいいのか検討もつかなくて……」


「すべての罪は正しく裁かれるべきです」

ミレイアは揺るぎない声で宣言する。

「第二王子派の中には悪事で私腹を肥やした者もいますが、脅されて加担した者や、気づかぬまま巻き込まれた者もいます。罪を精査せず同じように処刑することだけは避けたいんです。一族全員に罪を背負わせることも……」


「私もそう思うわ。でも……どうしたら」


「十年前、フローラのお父様――冤罪で処刑されたオルセリア子爵の無実を証明するために、協力してくれた女性裁判官がいます。彼女にも協力を求めます。レオンたちも調査を進めていますし、王宮や騎士団にも味方は多い。大丈夫です、わたしがなんとかします」


ララベルの瞳が潤む。

「……ありがとう」

ララベルは目を伏せ、そして言った。

「アルスが言っていたの。あなたがいれば何もかもうまくいく気がすると。本当にそうだわ。……でもね、味方と敵を見極めるのは私でも難しい。くれぐれも気をつけて」


「はい。わたしは……精神魔法に侵された王宮の人々も救うつもりです。そのために……パミルに協力を頼んでもいいですか?」


「聖女の力ね。あの力が人を救うというなら、あの子は私が止めても、きっと力を貸すでしょう」


「そうですよね。パミルに危険が及ばないように気をつけます。ララベルさんも……どうかご無事で」


「ええ。よろしくね」


二人は固く握手を交わした。

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