ハンスの部屋
部屋は落ち着いた色合いで統一され、おしゃれなデザインの家具が並んでいた。机やソファも上質で、どれも洗練されている。柔らかな光を落とすライトや大きな観葉植物が彩りを添え、壁には幾何学模様の額絵、書棚にはクリスタルや小瓶のコレクションが並んでいた。
「まぁ……素敵!すごく大人っぽいわ」
部屋に入ってすぐ、思わず声を上げたミレイアに、パミルが小声でささやく。
「意外でしょ? 最近、弟が“もう子どもじゃない”って言い出して、大人の男性っぽい部屋に模様替えしたの」
「ハンスってセンスがいいのね!」
目を輝かせるミレイアに、ハンスは得意げに胸を張った。
するとパミルが横からポシェットを引っ張る。
「ねぇ、ミレイアお姉ちゃん。ハンスにあげるって言ってたアレ、渡そうよ」
「あ、そうね」
ミレイアはポシェットを探りながら微笑む。
「ハンス、ちょっと子どもっぽいかもしれないんだけど……遠隔操作で動いて、魔法を学べるおもちゃなの」
取り出されたのは、小人の魔術師を模した人形。操作盤で動かすと色々な魔法を放ち、浮かび上がる敵を倒したり仲間を助けたりできる、精巧な魔道具だった。
「すげー!!こんなの初めて見た!どこで売ってたの?」
目を丸くするハンスに、ミレイアは照れくさそうに笑う。
「ふふ、これはわたしが考えて作ったものだから……非売品なの」
「え!?こんなの作れるのかよ!?」
「お姉ちゃんのすごさはこんなもんじゃないのよ!」とパミルが誇らしげに続ける。
「通信魔道具も瞬間記録機もお姉ちゃんの発明なの。ポシェットの中にはね、魔道具がたーっくさん入ってるんだから!」
その言葉に乗せられるように、ミレイアは次々と不思議な魔道具を取り出した。天井を駆け巡る小鳥、風を纏って部屋を動き回る木馬、触れると音楽を奏でるボール……。
ーーさらに調子に乗ったミレイアは、魔法で七色の星を浮かべたり、ぷかぷか浮かぶ光の輪や長いすべり台を出したりして、部屋はたちまち小さな遊園地へと変わっていった。
「わぁぁぁ!!」
ハンスはソファに飛び乗ると、光の輪をくぐり抜け、すべり台を滑り降りる。
「すごい、すごい!」
パミルも目を輝かせて跳ね回り、木馬に乗ったり、小鳥を追いかけたりして大はしゃぎ。
二人は夢中になって遊び回り、やがてハンスはミレイアに飛びつき、その胸に顔を埋めた。
「わっ……ふふっ!」
ミレイアは笑いながら抱きとめ、軽く持ち上げてくるくる回す。床に下ろすと、ハンスは真剣な顔で言い放った。
「俺、大きくなったらミレイアと結婚する!」
「えっ!? 結婚なんて無理よ。私たち従兄弟同士なのよ?」
パミルがすかさず反論する。
「……そうなのか?」
ハンスが驚いて振り向き、ミレイアが頷くと目を丸くした。だがすぐに口を尖らせる。
「でも、従兄弟だって結婚できるんだぞ!知らないのか?」
「え……そうなの?」
パミルは一瞬戸惑い、負けじと声を張る。
「だったら、私だってお姉ちゃんと結婚する!」
「はぁ!?俺が先に言ったんだ!」
「関係ないわ!私はお姉ちゃんが大好きなの!」
「俺だって……!」
二人はミレイアの両腕にしがみつき、口げんかを続ける。ミレイアは困った顔ひとつせず、にこやかに二人を抱き寄せた。
その時だった。
「みんなー、夕食の用意が……」
扉を開けたララベルが足を止める。
目に映ったのは、すっかり遊園地と化した部屋。そしてミレイアを取り合って騒ぐ二人の我が子。
ララベルは呆然と立ち尽くし、ぽつりとつぶやいた。
「……なに、これ?」