無自覚
西の森ーーベッドに横たわるアゼルは、魔力切れで意識が朦朧としていた。
もとは客室だった小部屋にはベッドが二つ。今はマーサの部屋として使われている。帰ってきた途端にフラフラと倒れこんだアゼルを、アルスが空いているベッドへ運んだのだ。あれからどれほど時間が経っただろう。
隣の居間からは、冒険談を熱く語るパミルの声と、興味津々に質問を重ねるイリウスの声が洩れ聞こえてくる。
帰ってきてからずっと傍にいたミレイアが、優しくアゼルの肩に触れた。そして意を決して顔を近づけていく。
ーー唇がかすかに触れ合った瞬間、アゼルの意識がはっきりと戻った。
「……ミレイア!? 君は何をしている……」
「アゼル! 目が覚めたのね。わたし……アゼルが魔力切れで倒れたから、魔力を分けてあげたくて。手を繋いだり抱きしめたり、魔力の粒を作って口に入れてみたりもしたんだけど……全部駄目で。口付けなら効率的に魔力を注げるってアレクが言ってたから、試してみようと……」
「ミレイア……まいったな。凄く嬉しいんだけど、今はやめてくれ……理性がもたなくなりそうだ」
顔を赤らめて逸らすアゼルを、ミレイアが心配そうに覗きこむ。
「本当に大丈夫?」
「……大丈夫。そもそも魔力の譲渡ができるのは、一部の魔術師だけなんだ。僕はしばらく休めば回復するから、心配いらないよ」
「わかった……。またすぐに会いにくるわ」
「ああ。王宮の精神魔法に侵された人たちを救いに行くんだよな」
「うん。それもあるけど……やっぱりアゼルが心配だし、会えないのは寂しいもの」
そう言うとミレイアはベッドの上に膝を乗せ、アゼルをぎゅっと抱きしめた。
「アゼルが早く元気になりますように!」
柔らかい感触に、アゼルの心臓が大きく跳ねる。そのまま押し倒してしまいたい衝動を、必死に抑えていることなどつゆ知らず、ミレイアは手を振って部屋を出て行った。
「ミレイアは……僕をどうする気なんだ……」
アゼルは身悶えしながら、ため息をついた。