祈り
ミレイアは、精霊の泉に浮かんでいた小さな生物たちの死骸を魔法で一箇所に集め、柔らかな土を盛り上げてお墓を作った。
両手を胸の前に組み、静かに祝福の魔法を放つと、キラキラと光る粒が泉を包むように舞い落ちる。
ひとつ、またひとつと木々の枝先に光が触れた瞬間ーー枯れかけていた枝に瑞々しい緑の葉が芽吹き、お墓の周囲には淡い色の草花が次々と咲き広がった。
パミルは目を輝かせ、紫がかった光を纏う夢幻の女神の姿に見惚れていた。声を上げそうになる喉を必死に抑え込みながら、ただその姿を胸に焼き付けている。
やがてミレイアはお墓の前に跪き、静かに両手を組んで祈りを捧げた。
「わたしには、亡くしてしまった命を復活させる魔法は使えません。……せめて安らかに眠ってください。来世の祝福を祈ります」
ミレイアの隣では、パミルとアゼルも膝を折って祈りを捧げた。後方では銀狼のギンが静かに目を閉じ、肩に止まるミツも羽を伏せて深い黙祷を捧げる。
「では、行きましょうか。木の精霊たちの所へ」
数分の沈黙の後、ミレイアは虚脱や焦燥を振り払うように、凛とした声を上げて立ち上がった。
その声に背中を押されるように一行は歩き出す。
森に立ちこめていた不穏な気配は跡形もなく消えていて、不思議なほど足取りは軽く、枝葉の隙間から差す光さえ柔らかく感じられる。
気がつけばあっという間に木の精霊たちの住処へとたどり着いていた。
先ほどまで苦しげに喘いでいた精霊たちが、今は座って言葉を交わせるほどに落ち着いていた。
もしかしたら、森の木の根が瘴気を含んだ水を吸い込み、それが木の精霊たちに影響を及ぼしていたのかもしれない。
「戻ってきてくださったのですね。ありがとうございます。悪い魔力の根源を消せたのですか? 急に息苦しさが無くなって、驚いていたところなのです」
木の精霊の長老が立ち上がり、深々と頭を下げた。
頷いたミレイアたちは、ウロの中を回り始めた。パミルが診断を行い、ミレイアが浄化する。それだけで元気になるものもいれば、精神魔法の症状が残る者もあった。その場合はアゼルが心を癒す魔法を施す。力を合わせることで、精霊たちはみるみる活力を取り戻していった。
全員が元気に枝から枝へ飛び回るまでに、それほど時間はかからなかった。
「……終わったわね」
感謝の言葉で見送られながらウロを出たミレイアが、ほっと息をつく。
けれど、安堵の時間は長く続かなかった。
小屋に戻ろうと歩き出したその時――パミルがふらりと体を揺らし、その場に崩れ落ちた。