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自己紹介

「ではまず、ひとりずつ自己紹介をしてもらう。名乗って、何かひとこと添えてくれればいい」


レオンが最初に立ち上がる。


「レオン・エルヴィス・レガリア。……王太子ではあるが、ここでは皆と同じ生徒だ。遠慮はいらない。よろしく頼む」


教室内に緊張と小さなざわめきが走る。

そのすぐあと、ロイが立ち上がってひらりと手を振る。


「ロイ・ヴァレンティア。王家に命じられて殿下の護衛兼世話係やってます。魔術に関してはほどほどだけど、腕っぷしには自信あります。よろしく〜」


続いてクラリスが、優雅な所作で一礼する。


「クラリス・ハートウェルです。年齢は少し上ですが、同じ一年生ですので、遠慮なく仲良くしてもらえると嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします」


続いて自己紹介をしたのは、平民ながらも強い魔力を持ち特例で入学したルイス・エントリー。


「ルイス・エントリーです。魔術だけは誰にも負けたくないって思ってます」


朗らかに名乗ったルイスは、堂々と後ろの窓際の席にいるミレイアの方を向いた。


「俺は、ミレイアさんにずっと憧れてました。よかったら、仲良くしてください!」


教室がどよめく。

ミレイアは驚いて、目を瞬かせながら思わず――


「……うん、よろしくね」


と小さく手を振った。


その瞬間、ルイスの顔がぱっと輝く。


「わっ、ありがとうございます!」


ルイスは子犬のように嬉しそうに手を振り返した。


ルイスの前の席に座っている王太子レオンは――腕を組みながら、じっとルイスの背中を睨みつけていた。


「……はしゃぎすぎだろ、こいつ」

ぽつりとこぼした声は低く、どこか不機嫌。


ロイが隣で肩をすくめて、クラリスは小さく笑った。


――


今年の魔術科新入生には有名人がたくさんいる。

王太子レオン。

近衛騎士団長のロイ。

女性参謀のクラリス。


社交界では知らないものはいない侯爵令嬢イザベル・レグニッツ 。


魔術論文で注目され、多くの賞を受賞しているセドリック・グレアム。


学園長の孫娘ティナ・ルーエは、ルイスの自己紹介に影響を受けたようで、

「実はわたしも、ミレイアさまに憧れています。横に並べる魔術師になりたくて今まで魔術の勉強を頑張ってきました。学園長の身内ですが、決してコネ入学ではありません。ミレイアさま、わたしを弟子入りさせてください!」


ミレイアは目を見開いた。また、自分の名前がでてきたことにも驚いたけど、まさか弟子入り志願されるなんて。

「え、わたしに弟子入りだなんて……」

曖昧に微笑んで言葉を濁す。

それでもティナの目はキラキラと輝いている。


――


そして、ついにミレイアの番が来た。


ミレイアは少し緊張した面持ちで立ち上がり、教室をゆっくり見渡したあと、軽く深呼吸した。


「えっと、ミレイア・ノクシアです。入学式から、ちょっとだけ目立ってしまったかもしれませんが……それほど特別な人間じゃないので、どうか怖がらないでいてくれると嬉しいです」


ミレイアははにかんだ顔をして続けた。


「実は、今日の自己紹介がいちばん緊張してて……。魔法より、人と仲良くなる方が難しいって思うのは……私だけじゃないと信じてます」


その一言に、数人の生徒がふっと笑みを浮かべる。


「みんなと一緒に学んで、笑って、成長できたらいいなって思ってます。たくさん失敗もすると思うけど、見逃してください」


少しおどけて肩をすくめたあと、きちんと頭を下げた。


「どうぞよろしくお願いします」

ふぅっとひとつ息を吐いて、弾けそうな笑顔を浮かべた。


その瞬間、先ほどまで張り詰めていた空気が一気にやわらぐ。

神話に出てくる存在のようだった“夢幻の女神”は、ちゃんと人間だった――そんな安堵と親しみが、クラス中に広がっていった。


アデランがクラスの様子を察して話す。


「うん、魔術も大事だが、仲間をつくる力も学園生活には必要だぞ。学園内では身分も年齢も生まれもった能力も関係ない。忘れないように」


ミレイアは頷いた。


――大丈夫。きっと、ここでならやっていける


新たな一歩が、確かに始まった。

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