一緒に行く
「本当に一緒に行かなくていいのかい?」
ユキアが不安を隠しきれない顔を見せる。
「足手纏いなのはわかっておるが……、聖獣使いとして生きてきたわしなら、何か役に立つこともあるのではないか?」
イリウスは納得がいかないようだ。
「どうか、今回は、わたしとアゼルとギンで行かせてください。わたしたちなら、危なくなれば転移魔法で戻ることができるから心配いりません」
強く言い切ったミレイアは、さっきからずっと青い顔で震えているマーサに目を向ける。
「……ここも完全に安全とは言い切れないので、強めの結界を張っておきます。皆さんは、どうか小屋から出ないで」
結界を張ろうと広げたミレイアの手を、後ろからアゼルが掴む。
「ミレイア、結界は僕に張らせて。君には浄化のための魔力を温存しておいてほしい」
「そうね、お願いアゼル」
アゼルが小屋全体を覆い隠す結界を張り終え、ミレイアと並んで歩き出した時、後ろから呼び止める声がした。
「待って。わたしもいくわ!」
アゼルが現れてから、ずっと黙りこんでいたパミルだった。
「ごめんね、パミル。危険かもしれないから、連れて行くわけにはいかないの」
ミレイアが断ると、パミルはすぐに反論する。
「危険なのはわかってるわ。それでも一緒に行きたいの。連れて行かないと言うなら、勝手について行くから!」
父親のアルスが、困った顔でパミルを諭す。
「パミル、我が儘を言ってはいけないよ。ここでパパと一緒に待っていよう」
「嫌よ。ーーわたしには、魔力による状態異常を感知して判断する能力があるわ。一緒に行けば魔物になりかけた聖獣も、見つけられると思うの」
パミルの真剣な表情にアルスがたじろぐ。
「……パミルを連れて行く?」
ミレイアがアゼルの意見を求める。
「そうだな、魔物化の原因を突き止めるためには役に立つ能力だとは思うけれど……危険は大きい。万一のことがあれば、僕たちが責任を負うことになる」
アゼルの低い声に、その場の空気が張り詰める。
しばし沈黙が落ちた。
ミレイアは迷いを抱えたままパミルを見つめる。小さな肩を震わせても、真っ直ぐにこちらを見返す瞳には強い意志が宿っていた。
その時、ユキアがゆっくりと口を開いた。
「アゼル、ミレイア、ギン。パミルのことを連れて行ってやっておくれ。私の家系には、一度言い出したら考えを曲げない頑固な女が多いんだ」
アゼルとミレイアが顔を見合わせ、頷いた。
「パミル、森を歩くなら決してミレイアたちのそばから離れてはいけないよ。それから……、ミツ!出ておいで」
ユキアが契約している光の精霊を呼び出す。
「ユキア!ちょっと呼ぶのが遅いんじゃない? わたしはミツ。よろしくね」
「あ、大おばあさまの精霊ね。わたしはパミル。ミツ、会えて嬉しいわ」
小さな人型の精霊は、パミルの周りを飛び回る。
「ミツ、パミルについて行ってくれ。森の聖獣が魔物化した原因を調べにいくんだ。もし危険があれば、守ってやってほしい」
ユキアのお願いをミツはクルクル回って受け入れる。
「任せておいて」
ミレイアが飛び回るミツを目で追いながら問いかける。
「精霊たちも、邪悪な魔力を感じているの?」
「邪悪かどうかはわからないけど、わたしも森の違和感は感じていたの。精霊たちの中にも体調を崩してるものがいるわ。一緒に会いに行きましょ」
「ええ。必ずわたしがなんとかするわ!」
不安そうな面々に手を振って、ミレイアたちは、小屋から一歩踏み出した。