賑やかな食卓
小屋の中に入ると、長い木のテーブルにはユキアとマーサが腕をふるった料理が所狭しと並んでいた。
香ばしく焼いた川魚に、森で採れるきのこや果実を使った色鮮やかなサラダ。珍しい香草を混ぜたスープ。どれも温かく、心を満たす味だった。
「大おばあさまとマーサさんのお料理、本当に美味しいです」
ミレイアがにこやかに感嘆の声を漏らすと、パミルも目を輝かせて頷いた。
「森の外ではなかなか食べられない味だよ、口にあったようでよかった」
ユキアが照れくさそうに笑った。
皆で料理を取り分けながら、自然と会話が弾んだ。イリウスは、久しぶりの賑やかな食卓が楽しいと、何度も繰り返している。
ミレイアは、向かいに座るアルスとパミルへ声をかける。
「叔父さまとパミルは、よくここに来るんですか?」
「パミルが来たのは初めてだよ。これまでは何度か手紙のやりとりをしたり、通信魔道具で話したことはあったけれど……遠い道のりだから、そう簡単には会いに来られなくてね」
アルスが穏やかに答える。
「……まさか、王都から馬車で来たんですか?」
ミレイアが驚いて問い返すと、アルスは苦笑して頷いた。
「二日間かけて、ようやくここにね。――さっき聞いたよ。ミレイアとアゼルくんは転移魔法を使えるんだって? 言っておくけど、王国内で転移魔法を扱えるのは歴代の魔塔主くらいだ。決して普通のことじゃないからね」
「帰りはお姉ちゃんと転移魔法で帰る!」
パミルが勢いよく提案すると、ミレイアは笑顔で手を叩いた。
「そうしましょう!」
その後も食卓は明るい声で賑わった。
「パミルには弟がいるのよね?」
「そうよ、ハンスっていうの。今5歳なんだけど、やんちゃで可愛い弟だよ」
「わたしのもう一人の従兄弟ね。会ってみたいな」
ミレイアは食後のひとときに、小さなポシェットを開き始める。
「大おばあさま。買い出しが楽になるように、これを使ってください」
差し出したのは、収納量が数倍に拡張されたマジック鞄。ユキアは両手で受け取り、目を見開いた。
「……こんな貴重なものを……!」
さらにミレイアは小さな包みを取り出し、イリウスへ渡す。
「さっき話を聞いて、即席で用意したものなんですけど……。私の魔力を込めた魔石です。ポケットに入れて持ち歩けば、森の外に出ても魔力切れを起こさないはずです」
「えっ!わしのために……」
イリウスは目を潤ませて、ぎこちなく礼を述べる。
マーサには体力作りが楽しくなる魔法のボールを渡す。
「これなら楽しんで体を動かせそうです」
「パミルにはこれ。髪がツヤツヤになる髪留めよ。わたしとお揃いなの」
ミレイアが後頭部につけている髪留めを見せる。
パミルは目を輝かせ、嬉しそうに握りしめた。
「わぁ……お姉ちゃんと同じ……!」
「弟のハンスくんにはこれを」
ポシェットの奥から小さな魔法仕掛けのおもちゃを取り出す。遠隔で動き、遊びながら魔法を学べる仕組みだ。
パミルはにっこり笑い、弟の顔を思い浮かべて頷いた。
「これなら弟も喜ぶわ!」
「叔父さまには……」
次に差し出したのは、極小型の瞬間記録機。
「子供たちの成長記録や、日々の思い出を残せますし……必要ならこっそり情報も集められます」
アルスは苦笑しながら受け取る。
「なるほど……これはありがたい。早速活用させてもらうよ」
その様子を見ていたノエルがため息をついた。
「大事な魔道具を大盤振る舞いする癖は、相変わらずですね……」
そのとき、ふいに空間が揺れ、淡い光と共にアゼルが転移してきた。
「アゼル!」
ミレイアが立ち上がると、アゼルは落ち着いた声で告げる。
「皆さんお揃いですね。実はさっき、魔塔で緊急会議がありました。この森に関係することです」
一同の笑みがすっと消え、部屋の空気が一瞬にして張り詰めた。