無断
ミレイアとノエルの視線が、アルスたちの方へ向く。
「あ、兄さん……」
ノエルが声を上げた。
「やあ。ノエル、また会えたね。ミレイアさんも。ーー紹介するね。娘のパミルだよ、もう少しで10歳になる」
「初めまして、パミルと申します。お会いできて光栄です」
幼さの残る丸い顔と成長途中の体に不釣り合いなほど、大人びた美しいお辞儀をした少女は、ピンクブロンドの長い髪をふわりと揺らして顔を上げる。
「兄さんの娘……。もうこんなに大きいのね」
その濃紺のきらめく瞳が真っ直ぐに自分を見つめているのに気づき、ノエルははっとして挨拶を返す。
「初めましてパミルちゃん。私はノエル、あなたの父上の妹です。どうぞよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
二人が微笑み合うのを見て、ミレイアも慌てて挨拶をする。
「あの……わたしはミレイア・ノクシアです。あなたの従兄弟です!」
「ん?ミレイアさんはノエルさんの娘……?でもノエルさん、ずいぶん若そうに見えるけど……」
ぶつぶつ呟くパミルの言葉を、ミレイアがすぐに否定する。
「ノエルは母親じゃないわよ!」
「それじゃあ、やっぱり君は……」
アルスが一歩進み出て、驚いた顔で覗き込む。
「私は、アリアの娘です。……ごめんなさい、てっきり大おばあさまから伝わっていると思ってて……驚かせてしまいましたね」
アルスが、ミレイアの後ろに立つユキアに視線を送る。
「おばあさま、彼女は本当に姉さんの娘なのか?」
ユキアはゆっくり頷く。
「そうさ。本人の口から聞くべきだと思って黙っていたんだよ。ノクシア夫妻の長女として育てられてきたけれど、間違いなくアリアが産んだ子だよ」
「あの時一緒に殺されたと思っていた子供が生きていたのか……。初めて星導祭で見た時、姉さんの面影を感じたのは、ただの勘違いではなかったんだな」
わなわなと唇を振るわせるアルスが、改めてミレイアに向き合う。
「ミレイアさん……いや、ミレイアって呼ばせてもらってもいいかな。いつもノエルの側にいてくれてありがとう。君が何度か命を狙われたことも、レオン殿下との婚約を王家に反対されていることも知っているよ。大変な思いをしてきたね。これからは君の叔父として、必ず力になると誓うよ」
「ありがとうございます、叔父さま」
ミレイアがにっこりと笑うと、アルスも柔らかく笑みを返した。
その時ーーさっきまで上品な顔で立っていたパミルが、いきなりミレイアに抱きついてきた。
「キャー、実物のミレイアさん、やっぱり素敵!大人しくしてるなんてやっぱり無理!信じらんない!まさかわたしの従兄弟だったなんて!!お姉ちゃんって呼んでもいい?」
急に子供らしい顔になったパミルに、若干戸惑いながらもミレイアは笑顔で応じる。
「いいわよ。わたしもパミルって呼んでいい?」
「もちろん!」
今まで猫を被っていたのかと、その場にいる全員が苦笑した。アルスが慌ててミレイアに謝る。
「ごめんね。実はパミルは、物心ついた頃からミレイアの大ファンなんだ。最初は、洪水や王都の火災を鎮めた“夢幻の女神”の噂を聞いて憧れていただけだった。でも最近はルーエ商会でミレイアグッズがたくさん出回っているだろう? 小遣いを全部つぎ込んで、部屋が埋まるくらい集めてるんだ」
「ミレイアグッズ?」
ミレイアの笑顔が思わず引き攣る。
「今も持ってるの!」
パミルが上着のポケットからキーホルダーを取り出して見せる。銀色のチェーンが繋がるガラスの中に、星導祭の時に瞬間記録機で撮ったと思われる画像が、綺麗に収まっている。
「はあ……さすがにこれは見過ごせないわね」
無断でグッズ販売をしている犯人の顔が浮かび、ミレイアは思わずため息をついた。だが、嬉しそうにはしゃぐパミルの前では、苦笑いするしかなかった。
「まあまあ、立ち話もなんだから座らないかい?」
ユキアが椅子を並べて、テーブルへ案内する。
「紅茶を入れるよ。ノエルからもらったクッキーもあるし、じっくり話そうじゃないか」