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休暇中の予定

ディナー中は終始和やかで、レオンの面白いエピソードや、クラリスの好きな絵画の話、ロイの意外な趣味の話などで盛り上がった。

少し空気が変わったのは、食器を下げた執事が部屋を出ていった後、レオンが冬期休暇中の予定を尋ねてきた時だった。


「ミレイア。ノクシア領には明日行くのか? 俺は既に準備万端だよ」


「明日は行かないわ」


「じゃあ、明後日?」


「うーん、予定がたくさんあって……いつになるかまだわからないの」


「どんな予定か聞いてもいいか?」

レオンがミレイアの顔を覗き込む。


「うん。明日はノエルと一緒に西の森に行くわ。アゼルも行くことになっていて……大おばあさまが会わせたい人がいるらしいの」


「それは……俺は一緒に行けないのか?」


「無理ね。わたしが一緒に転移できるのは一人だけだから。馬車だと西の森まで丸二日かかってしまうし……」


「他の予定は?」


「ティナのお兄さんに会ったり、セドリックと研究したり、ルイスの家を訪ねたりもしないといけないのだけど……」


「おい、ちょっと待て。俺を置いて、他の男たちに会いにいく予定ばっかり?」

レオンが頬を膨らませる。それを無視して、ミレイアは真剣な声を出した。


「あのね、今いちばんやらなければならないのは、イグニッツ侯爵の悪事の証拠を掴むことなの」


「え! どういうこと?」

クラリスが思わず声を上げる。


「ソフィアを助けたいの」

ミレイアは、つい先ほどソフィアから聞いた話を、言葉を選びながら三人に慎重に伝えた。


「ソフィア嬢がそんな話をね……」

ロイが頷く。

「イグニッツ侯爵が裏取引で莫大な金を受け取っていることは、最近いろいろ調べている中でわかっていたよ」


「第二王子派の貴族の中にリヴァンス子爵がいることもね」

クラリスが眉を顰める。

「だけど、脅されて言いなりになっているだなんて知らなかった……」


「イグニッツ侯爵は、俺たちが幼い頃から明らかに黒に近い人間でありながら、証拠を残さず、何度も捜査を掻い潜ってきた」

レオンがミレイアの目を見て語り出す。

「リヴァンス子爵の部屋に違法賭博や違法薬物の取引の裏帳簿があったことは、第二王子派の一部が犯罪を犯していた証拠にはなる。だが、イグニッツ侯爵が関わっていた証明にはならない。指示が記された手紙も、恐らく本人が書いたものではないだろう。この状況では、リヴァンス子爵に罪をなすりつけて逃れる可能性が高い」


ミレイアは頷いた。

「そうね、わかっているわ。だからこそ、イグニッツ侯爵が首謀者である確実な証拠が必要なの」


ロイが手を挙げて発言する。

「はい、それなら……瞬間記録機を仕掛けるのはどうかな。実際、何度か犯人を特定しているし、あれのおかげで裏路地で頻発していた犯罪が減ったと聞いているよ」


「それも一つの方法だとは思う。だけど、イグニッツ侯爵の私的な空間に入り込んで仕掛けるのは、見つかった時のリスクが大きいわ。部屋に入っても怪しまれない人物の協力が必要よ」


ミレイアの言葉に、クラリスが手を挙げる。

「イザベルに頼む?」


「いや、それはまずいだろ」

レオンが反対する。

「家族を告発しようとしているんだ。協力どころか、恨まれてもおかしくない」


四人がそれぞれに考え込んだ時、ミレイアとレオンの間から声がした。

「それじゃあさー」


「あ、アレク!」

ミレイアは、いきなり頭を撫でてきたアレクに驚く。


「おいお前、何を勝手に入ってきている」

掴みかかろうとするレオンの手を、アレクはひょいとすり抜け、ミレイアの後ろに回り込んだ。


「俺なら、部屋に入り込むなんて造作ないよ。姿を消して動くこともできるし……」

アレクが自信満々に自分を売り込む。


「なるほど。確かに精霊なら姿を消して潜り込むこともできるわね……スインに頼もうかしら」


「赤ちゃん精霊より、俺の方がいろいろ探ってくることもできるよ。お礼はミレイアの体でいいからさ」

アレクはさりげなくミレイアの胸元に手を入れる。


「おい!」

レオンがアレクの背中を後ろから蹴飛ばす。


「まあ、必要があればすぐ呼んでよ。ミレイアのためなら何でもしてあげる」


アレクがゆっくりと透明になる……かと思うと、すぐにミレイアの唇に冷たい唇が重なる。半透明の顔が目の前に現れ、口元を押さえるミレイアを確認してニコリと笑い、姿を消した。


「あいつは……最悪だ。上書きしないと……」


レオンがミレイアを強引に引き寄せた瞬間、クラリスが二人の間に、さっきまで紅茶を乗せていた銀のトレイを差し込んできた。

レオンはトレイに口づけして、顰めっ面になる。

「なんで邪魔するんだよ」


「人前で何をしているんですか! 合意なしでするなら、さっきの変態精霊と変わりませんよ」


「わかったよ……」

レオンはしゅんとなってミレイアから離れる。


「紅茶を入れました。飲みましょう」


クラリスが、自分でテーブルに並べたカップを手に取る。


「最近お気に入りの葡萄の香りの紅茶なの。飲んだら気分がすっきりしたわ」


ロイは、調査して記録した第二王子派の名簿を貸してくれた。クラリスは、王都で摘発された裏取引や重大犯罪の記録をまとめた書類を差し出す。


真剣に話し合ううちに、フローラと約束した時間になった。


トントン、とノックの音が響く。

「ミレイア様のお迎えにあがりました」

外からフローラの声がした。


ミレイアは執事から受け取った外套を羽織り、見送りに出てきた三人に言う。

「今は詳しく話せないのだけれど……明日、西の森に行ったら、精神魔法に操られる人を元に戻す方法が見つかるかもしれないの。そうしたら、レオンの家族も助けられると思う。その時は協力お願いね」


「え、本当に……」

驚いて口を開けたままのレオンに、ミレイアはさっと近づき、背伸びをして優しいキスを落とした。


「ミレイア! あなたなんで……」

クラリスが頭を抱える。


「だって……上書きがまだだったから。わたしは、レオンがいいんだもの!」


手を振って談話室を出ていくミレイア。その後ろ姿に手を振り返しながら、レオンは夢見心地の表情を浮かべている。


「はあ、ノクシア領に行ける日まで、レオンがまたうるさくなりそうだな」

ロイが大きなため息をついた。


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