桁違い
冬季休暇前の最後の登校日。
朝早くから講堂前のホールは賑わっていた。壁際に設置された大きな魔導掲示板には、確認テストの順位表が映し出され、各科ごとに上位20名の名前と点数が表示されている。
「あ、10位に入ったわ」
「俺の名前は……、やっぱりないかぁ」
「えー、あの子こんなに優秀だったんだね」
貴族科や騎士科の生徒が順位表を確認している。時々喜ぶ声や悔しがる声が上がるが、大方予想通りらしく落ち着いた様子だ。
そんな中、魔術科1年の順位表が表示された掲示板の前では、驚愕の声が次々に上がり、呆気にとられて固まる生徒や、何度も引き返しては凝視する生徒もいる。魔術科の先輩たちも興味津々で見に来てざわついている。
「なんだよー、今年の一年。20位の生徒でも去年の一位より高得点じゃないか。きっとテストが簡単すぎたんだな」
「いや。さっきアデラン先生が通りかかったから聞いてみたんだけど、どの科目も去年より難易度を上げたらしいよ。単に、今年の一年が優秀なのさ」
「マジかー」
掲示板前では生徒たちのざわめきが一層大きくなる。
「うそ……あの点数、どういうこと?」
「ちょっと待って、これ、全員がこんなに高得点なの?」
人だかりのできた掲示板前へ、レオンとミレイアが並んで近づいてきた。
「わ、王太子殿下と……ミレイアさま!!おはようございます」
ミレイアのファンクラブに入っている魔術科2年の数人が、2人を見つけると、「どうぞどうぞ」と人混みをかき分け、掲示板までの道をあけた。
「おはようございます、先輩たち!」
ミレイアが一人一人の目を見て微笑む。
「は……っ!」
朝からミレイアの笑顔を近くで見たファンたちが、恍惚な表情で膝から崩れ落ちた。
掲示板の前にはロイとクラリスが立っていた。
「あ、ミレイアおはよう!」
クラリスが気づいて手を振っている。
「おはよう、クラリス、ロイさん」
ミレイアが駆け寄る。すぐ後ろからレオンもついてくる。
「おはよう、ミレイアさん。レオンはさっきぶりだな。見てみろよ……テスト結果、すごいことになってるぞ」
ロイが掲示板に表示された成績順位表を指差す。
ミレイアとレオンは、20位から順番に名前を見ていく。一緒に勉強会をしたクラスメイトたちの名前も並んでいる。
20位 ルイス・エントリー 1150点
19位 マリエル・オルコット 1162点
…
17位 ソフィア・リヴァンス 1208点
…
13位 ティナ・ルーエ 1295点
…
9位 イザベル・イグニッツ 1380点
8位 ロイ・ヴァレンティア 1412点
…
5位 クラリス・ハートウェル 1498点
…
3位 レオン・エルヴィス・レガリア 1580点
2位 セドリック・グレアム 1600点(満点)
1位 ミレイア・ノクシア 1880点(満点+加点)
「俺は……3位か」
レオンが自分の名前を見つけて残念がっている。
「レオン、がっかりすることはないぞ。点数を見てみろ。お前はおそらく数問しか間違えていない」
「2位はセドリックで1位がミレイアか……。ミレイアと並びたかったな。セドリックは……満点じゃないか!じゃあミレイアは……ん?」
ミレイアの点数を見て、レオンが口をあんぐり開けている。
クラリスが我慢できずに問い詰める。
「ミレイア、あなた一体何をしたらこんな点数になるの?満点を遥かに超えてるんだけど!何か違うテストを受けたの?」
「みんなと同じテストだったと思うんだけど……。違うことをしたとすれば……解答用紙の裏に書いた落書きぐらいかな」
「え?さすがに落書きで加点はされないでしょ!」
クラリスが笑って肩をすくめる。
「あれ、レオン、どうしたの?」
後ろでジッとしているレオンに気づき、ミレイアが肩を叩く。
「は! ミレイア。桁違いすぎて固まってたよ。一位おめでとう。俺は一生君に勝てないのかな……」
「レオンはわたしに勝ちたいの?わたしはレオンとは戦わないで仲良くしたいな」
上目遣いでレオンの瞳を見つめるミレイアに、レオンは顔を赤らめる。
「そうだな。順位なんてどうでもいいな!」
人目を憚らずイチャイチャし始める二人に、ロイとクラリスが呆れて注意する。
ミレイアとレオンは一歩離れて、ざわめく講堂前から教室に向かって歩きだした。